01 フェルは私のナイト【マティルデ】
私はマティルデ・フォン・エッケハルディン。
わがノルトハルム王国の食糧庫と呼ばれる、広大かつ豊かな穀倉地帯を領地に持つ、エッケハルディン侯爵家の第2子として生まれた。
温厚な父侯爵、元王女だった母、4才上の後継者たる兄ニコラウスとの4人家族で、我が国随一の資産を持つ高位貴族であった。
さらに元王女の母、兄、私は王位継承権を持ち、特に私は先祖返りなのか、王族特有の『色』を持っていた。
このノルトハルム王国はエルフが興した国だと神話に描かれており、王家ではその『エルフのような容姿の色』を『王家の色』として、長年尊んできた。
しかし繰り返される婚姻の中で、現在、『王家の色』をもつ王族はいなくなって久しい。
ところが侯爵家に降嫁した王女の娘、つまり私がその『王家の色』を持って生まれてきたのだ。
その色――――銀髪にアメジストの瞳で。
そんな私だが、少女時代はほとんど王都におらず、領地でのんびりと暮らしていた。
しかも、一緒に暮らした幼馴染は男の子たちだけだったので、皆からまるでお姫様のように大切に育てられていた。
特に騎士のように私を大切に守ってくれたのは、のちの婚約者となったフェルディナント・フォン・グリフ伯爵令息だった。
そもそも、わがエッケハルディン侯爵家の領地とグリフ伯爵家の領地は、大河ヴァイマル川を挟んで隣同士にあった。
川を挟んでいたため、かつてはさほど交流は無かったのだが、交易路として両領地をつなぐよう王命が下り、橋を架けることになった。
その工事過程で領主同士が意気投合、橋が架かった後は両領地の行き来が楽になった事もあり、家族ぐるみで付き合うようになったのである。
その頃のエッケハルディン侯爵家は、領地管理は城代にまかせ、お父さまは宰相補佐として王宮に暮らし、お母さまも王都で社交に忙しくしていた。
だから社交シーズン中は、私とお兄さまはグリフ伯爵領に預けられる事が多かった。
エッケハルディン侯爵家、長男ニコラウス8才、私、長女マティルデ4才。
グリフ伯爵家、長男ハインリヒ10才、次男フェルディナント8才。
4人は兄弟のように育ち、一緒に遊び、同じ家庭教師から学習し、お互いの両親に愛され、幸せな幼少期を過ごした……と今なら思う。
グリフ伯爵はとてもオープンな領主で屋敷には下級貴族や商家の男の子たちがよく出入りしていた。
その子たちも遊び仲間ではあったのだが、ちょっと粗野なところがあって、当時お兄さまはすっかり感化されていた。
年下の唯一の女の子であった私をいじめとまではいかないけれど、いつもからかい、邪険にして仲間外れにしたのだ。
今では家族の中で一番、私に心を砕いてくれる兄なのだが、その頃はよく泣かされていた。
そんな私を守ってくれたのは、グリフ家の兄弟だった。
「ひどい兄様たちだねぇ。図書室においで。絵本を読んであげよう」
兄のハインリヒ様は私の6才上で、その性格をあらわしたような暖かな栗色の髪とブラウンの瞳を持つ、とても落ち着いた少年だった。
嫌がらずにお花摘みやお人形遊びにも付き合ってくれる、面倒見の良いお兄様だった。
弟のフェルディナント様は4才年上で、金色の髪と空色の瞳を持つ、とても綺麗な顔をした少年だった。
そして私を助けるため、年上のいじめっ子にも果敢に立ち向かってくれる騎士様だった。




