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03 私たち貴族は民を守る者【sideマティルデ】

 私が6才になった年、ハリケーンが国中を襲い、両家をまたぐヴァイマル川が氾濫、双方の領地に甚大な被害をもたらした。


 収穫前の作物は水浸しになり、家屋は押し流され、領民に多数の死者が出た。

 その時、体調を崩したハインリヒ様は自宅に残り、フェルディナント様だけが我がエッケハルディン領のカントリーハウスに滞在していた。



「ああああぁあああ~~!」


 泥にまみれ息絶えた小さな子どもを抱きしめて、泣き叫ぶ村人たちがいる。


 領地の先々ですすり泣く声、家族の名を繰り返しさけぶ悲鳴のような声が聞こえる。

 いつも馬車で通っていた道も泥まみれでボコボコになり、大好きだった糸杉の並木も泥だらけで、折れた木もたくさんあった。


 作物が押し流され何もなくなった平地に、シーツに包まれたたくさんの死体が横たわる。



 怖くなった私が泣きそうになると、隣にいたフェルディナント様がぎゅっと手を握ってきた。



「俺の…グリフ領もこんな風になったのかな」


 この洪水で両領地をつなぐ橋が流されたから、フェルディナント様はしばらくうちに帰れない。

 何より我が家の騎士たちは領民の救済に手一杯で、彼をグリフ領に送り届けることが出来ない。



「俺も領主の子だし騎士だから、侯爵みたいに領民を守らなきゃ」


 彼の目は先頭に立ち指示を飛ばす、エッケハルディン侯爵であるお父さまの姿を捕えている。


「城の別邸を整理して避難所にできるように準備しろ」


「備蓄庫の確認を! 水に浸かっていないものを運び出して炊き出しと配給の手配を」


「王都に救助要請を」


「周辺領地に支援要請を」


 そこにお母さまが駆けつけてくる。


「あるだけのシーツと毛布を別邸に運びました。医師も集めてあります」


「よし! まずは怪我人を優先して、その後、女子供から別邸に誘導しろ」


「周辺領地には僕が支援を求めにまいります!」


「……ニコラウス…」


 馬にまたがった10才のお兄さまの声に、お父さまが驚きの声をあげた。


「どうせ非力な子どもの僕じゃ、救助の戦力になりません。領主の息子が救援を求めれば早急に動いてくれるしょう?」


「…いいだろう。サイモン、ニコラウスと一緒に行け」


「はっ!」


 騎士一人をつけられたお兄様はすぐに駆けて行った。




 混乱する状況の中、必死に領民を守ろうとするお父さまとお母さま、そしてお兄さま。

 騎士や重臣たちも出来る限りの対応をしている。


 6才の私にはただ見ているだけしかできなかったが、『領民を守ること』、それが領主たる私たちの使命だと胸に刻まれた。



 周りの人々は泥まみれなのに、私は頑強な城にいたからケガひとつしていないし、綺麗なドレスを着たままだ。生まれてからきっと彼らより美味しいごはんを食べてきたし、綺麗な部屋で暮らしてきたし、これからもそうだろう。


 だが、それは彼らの生活を支え、非常時にはこうして守る義務があるからこそ与えられた特権なのだと幼いながらも感じ取った。



「俺たちは民を守る者なんだ」



 フェルディナント様がそうつぶやき、きゅっと私の手を握った。

 その言葉に応えるように私も強く握り返した。



 大人になった貴方は、この日の決意を思い出したりしなかったのだろうか。


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