28 マティルデとの再会【sideフェルディナント】
17才の冬、久しぶりに領地に帰った。
我が家のカントリーハウスには、婚約者のマティルデが家族と一緒に生活していた。
「少し早いけれど花嫁修業としてお預かりしているのよ。やっぱり女の子は良いわね。屋敷中が華やかになるもの」
母は嬉しそうに、まるで本当の娘のようにマティルデのことを話す。
聞けばエッケハルディン侯爵たちは王都で忙しくしているそうで、置いてきぼりなマティルデは領地に帰りたがったため、それならば伯爵家で預かろうと言うことになったらしい。
もうこの屋敷で3年暮らしていたそうだ。
「ちゃんと手紙で知らせたわよ! フェルったら私やティルデちゃんの手紙を全く読んでないのね! わたくしはともかく、婚約者のティルデちゃんにはきちんと返事を寄こしなさい!」
母上のお小言を適当に流したあと、王都から領地までの馬車で座りっぱなしで固まった身体を動かすことにした。
模造刀で素振りでもしようかと、お気に入りのサンルームに向かうと、そこには兄上とマティルデの姿があった。
二人でお茶を楽しんでいたのだろう。
テーブルにはプティフールとティーカップにチェス盤が並んでいる。
今日は比較的暖かな日で、サンルームの暖炉には火が入っていない。
ガラス越しに浮かぶ冬咲きの花々を背景に、それを圧倒するまさに華やかな大輪の花のような令嬢がそこにいた。
まだ13才なのにマティルデは学院の女性と変わらぬほど大人びて見え、周囲に光をまき散らすかのような美しさで輝いていた。
「おかえり。ずいぶんと身長が伸びたねぇ。父上と変わらないんじゃないか?」
ぼーっと見とれていた俺に、兄上が声をかけてきた。
「あ…うん」
側によると、マティルデの美しさがより一層分かる。
王家の血筋の証である銀の髪にアメジストの瞳、本物のエルフみたいだ。
「お久しぶりです。フェルディナント様」
「あ、うん。久しぶり…」
かぁああっと顔が赤くなるのが分かった。
声も綺麗だ。
「綺麗になっただろうティルデは。前から美少女だったけれど、今や小さなレディだ。特に今日は婚約者のお前が帰ってくるからと、おめかしをしているから美しさは2倍だ。なぁティルデ」
「もう! ハインリヒ様ったら!」
俺のためにおしゃれをしてくれたのか?
顔が熱くなってたまらない。
「おいフェル! こんな時、婚約者に言う言葉があるだろう?」
「…マティルデ……その…すごくきれいだ」
「ありがとうございます。フェルディナント様もとても立派になられました」
「……ありがとう」
侍女が俺の分のお茶も運んできて、そこから談笑が始まった。
話してみれば、マティルデは昔と変わっていなかった。
素直で明るくて伸びやかで……昔話に花が咲き話題が止まらなくなる中、俺は気が付いた。
兄上の視線はずっとマティルデにあり、俺をほとんど見ていなかった。
向かい合っている俺に見せるのは横顔ばかりで、その顔は本当に優しそうな微笑みだ。
あの凍りつくような冷笑ではなく、心から愛しいものに向ける笑顔。




