27 次期後継者の交代【sideフェルディナント】
その半年後、グリフ伯爵家の後継者を兄上から俺に変更すると父上に告げられた。
兄上とともに執務室に呼ばれた俺は、大声で反論した。
「なんでだよ! 兄上のままでいいだろう! 俺は近衛騎士になるんだから! 足が不自由だって、伯爵としての仕事はできるだろう!」
「300年前からのグリフ家のしきたりだ。領主は5年以上の従軍の義務がある。例外は認められない。ハインリヒの足では無理だ」
「事務方として従軍すればいいだろう?」
「階段も上がれない者をか? 軍に迷惑をかける事になる。我がグリフ家としては本意ではない」
「でも兄上は俺を命がけで助けてくれた勇気ある男で……」
「やめてくれフェルディナント!」
「兄上…」
「領主である父上が決められたことだ。反論は許されない」
そして小さなつぶやきが聞こえた。
父上には聞こえないほどの小さな声。
『これ以上私をみじめにするな』
兄上は、顔に薄っすらと微笑みを浮かべて父上を見ていた。
微笑んでいるのに、足元から凍りつかせるように冷たい――――
冷笑。
もう何も言えなくて、流されるように日々を送っていたら、いつの間にか後継者としての披露目も終わり、婚約者まで決まっていた。
相手は兄妹のように育ったエッケハルディン侯爵令嬢マティルデだった。
まだ8才の女の子が婚約者だなんて、全然実感がわかなかった。
でも、本当は兄上の婚約者になるはずだったと後から知った。
ならば代わりに結婚しなければいけないのだろう。
「兄上の代わりに僕が君を幸せにする」
そう言って、彼女の手を握った。
次の年、貴族学院に入学した。
元々は『騎士科』での入学予定だったが、後継者になったことで『領地管理科』に変更となった。
初めての一人暮らし。
侍女もいない寮生活。
学友との人間関係、難しい授業内容……慣れないことばかりでとにかく必死だった。
特に騎士になるつもりでいた俺は、ろくに勉強をしていなかったから、授業についていくのが大変だった。
卒業後はうちの習わしで5年は軍に入る予定だから、剣術の腕も鈍らせる訳にはいかない。
放課後は剣術の先生が特別授業を設けてくれたので、それが唯一のストレス解消だった。
「立派な領主にならなきゃ」
兄上の凍り付いた横顔を思い出す。
幼いころから勉学に励み、領民にも笑顔で気さくに話しかけていた。
そんな兄上を俺が領主の座から引きずり下ろしたのだ。
兄上に恥じない、立派な伯爵に必ずなるんだ!
休暇にも領地に帰らず勉強漬けの日々を送っていたら、次第に授業が理解できるようになり、3年の冬にはテストで10位以内に入るようになっていた。




