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26 取返しのつかない事故【sideフェルディナント】

「兄上助けて!」


 あの日に戻れるなら、俺は絶対、兄上に助けを求めたりはしない!



 俺はフェルディナント・フォン・グリフ。


 グリフ伯爵家の次男坊で、2つ上には後継者のハインリヒ兄上がいた。

 グリフ伯爵家は代々武門の家系で、幼少から剣の指南を受けていたこともあり、その頃の俺は剣の稽古に夢中。

 対して兄上は本や勉強が好きな穏やかな性格で、よく父上は『我が家の軍人の血は全てお前にいったようだな』と笑っていた。


 とは言っても兄上が後継であることはゆるぎなく、継ぐ爵位がない俺は将来、近衛騎士団に入って王をお守りするのが夢だった。




 その日は家族で、領地のはずれにピクニックに来ていた。


 一通り食事が終わると、父上と母上はラグの上でワインを楽しみ、兄上は植物図鑑を片手に草花の研究を始めてしまった。

 すっかりつまらなくなった俺は、草を蹴り上げながら丘に向かった。


「おい! フェル! どこへ行くんだ。一人で行くな」


 そんな俺に気が付いた兄上が後ろをついてきたから、ちょっとからかってやろうと走り出してやった。


「おい! フェル! 待て!」


 面白くなって自分の背丈ほどもある草むらの中に飛び込み、そのまま走って……


「おい! フェル止まれ! この先は……!」


「わぁああああ!」


 草むらの先は崖だった。

 背の高い草のせいで見えなかったのだ。


 かろうじて、草をつかみ崖にぶら下がる。


「兄上助けて!」


 掴んでいる草がブツブツと切れる不気味な音に、恐怖で震えあがる。

 兄上が俺の手をつかみ、必死に引き上げようとするが、なかなかうまくいかない。


「早く! 早く! 兄上! 落ちちゃうよ!」


「くっ!」


 兄上は渾身の力をふり絞り、俺を引き上げるが……

 草むらの土が湿っていたから、足がすべったのだろう。


「ああああ!」


 俺を引き上げたのと同時に、兄上の身体は崖下へと落ちていった。



「どうした!」


 悲鳴を聞きつけたのか、そこに父上が草むらから飛び出してきた。


「兄上が…」


 泥まみれで四つ這いのままの俺が振り返ると、10メートルはある崖下にはありえない方向に足が曲がった兄上が倒れていた。





 兄上に命の別状はなかったが、足の骨が砕けてしまい一生車椅子で生活しなければならなくなった。

 俺は泣きながら兄上に謝り続けた。


「ごめんなさい! ごめんなさい!」


「フェルのせいじゃないよ。私が自分を過信したせいだ」


「うっうっ」


「私がグリフ伯爵家の血を濃く受け継いでいたら、もっと大柄で力も強かっただろうに」


 その濃い血を継ぐ俺は、2才年上の兄上よりも身長が高く体格もよかった。

 兄上の言葉を聞いた父上はうつむいていた。


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