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25 そして漆黒の悪魔が現れた【sideマティルデ】

 熱にうなされながらも、ふと気配を感じた。

 薄く目を開け傍らを見ると、大きな黒い影が側にいた。


「…だ…れ?」


「このまま死んでそれでいいのか?」

 声色は男性。


 未婚の貴族令嬢である私の寝室に、なぜ見知らぬ男性がいるのか。


「お前、このまま死んでくやしくないのか」


 くやしい!

 くやしいに決まっている!



「くくっ、みじめだなぁ」


 そんなこと私だって分かってる。

 だから言わないで。

 もういじめないで。


「やめて……このまま穏やかに死なせて」


 もう疲れた……。


 誰かを思うのも。

 誰かに傷つけられるのも。

 誰かを恨むのも。


 そして

 誰かに憐れまれるのも。


 だからもう何も考えたくないの。

 このまま穏やかに……



「ははっ! 穏やかに? お前本当に穏やかに死ねるのか?」


 枯れ果てたはずの涙が浮かび、目じりをつたい落ちる。


 やめて!

 お願い…これ以上、私を苦しめないで……


「助けてやろうか」


 想定外の言葉に心臓が跳ね、黒い影に目を向ける。


「生き抜いてあいつらに復讐してやれ。お前が死んだらあいつは悲しむだろうが、一時(いっとき)だ。人間は辛いことは忘れ、幸せになろうとする生き物だ」



 ……その言葉に、私は頬を張られたようだった。



 こんな仕打ちを受けてもなお、私は彼に期待していたのか……


 優しいフェルディナントは、私が王女より先に死んだ事を知ったら、罪悪感に押しつぶされるはず。

 きっと一生忘れられずに苦しむのだろうと、その姿を想像して仕返しをした気になって……


 むりやり溜飲を下げていたのだ――――。




「加害者ならなおさら……いいのかそれで」



 そんなこと…そんなこと……許せない!


 許せるわけがない!



「ふふっ。良い目になった。己を憐れんで諦めている奴に俺は興味がない。這いつくばってでも生きようとするなら助けてやるが、どうだ?」


「……病気を治してくれるの?」


「あぁ。ここまで進行していたら難しいかもしれんが、お前次第だ。おいよこせ」


 そう言って黒い影の男は後ろにいた男から小瓶を受け取り、一気に飲んだ。



 そして、私に口づけを……

 いや、その小瓶の液体を私の口に流しこんだ。


「げほっ! げほっ!」


 想定外の行動に驚き、上手く飲めずに咳込んでしまう。

 咳込みが収まると体力のない私はぐったりとベッドに沈んでしまった。




「あなたは悪魔(ディアブロ)?」


 死のふちの人間を助け、復讐させる。

 まさに悪魔の技ではないか。


「ふふ。よくそう呼ばれる」


 咳込んだせいで、すっかり目が覚めた私の瞳に映るのは、上から下まで真っ黒な衣装に身を包み、漆黒の髪に浅黒い肌を持つ、野性的な美貌の大男だった。

 灰色の瞳は爛々と射貫くように輝き、大きめの口がにんまりと笑みを浮かべる。



 まさにその笑みは悪魔のようだった。


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