24 駆け落ちの代償【sideマティルデ】
「使用人たちも残りたいと希望する者以外、金を持たせて逃がした。少し不自由をかけるかもしれんが……」
「大丈夫よ。私は寝ているだけだもの。夜会もお茶会もないんだから髪も結わないし、お化粧もしないんだから」
「はは。そうだな。私は少し王宮に行ってくるから何かあったら侍女に言いなさい」
「分かった。行ってらっしゃい」
それからは使用人の数が減ったせいなのか、屋敷の中はとても静かだった。
私しかいない薄暗い部屋には、ポタポタと雨音だけが響く。
どーん
どーん
また遠雷?
そう思ったが、その音は規則正しい。
砲撃だ。
わが軍は敗戦続きだそうだ。
多くの国民が死に、グリフ伯爵も戦死したと聞いた。
そしてとうとうアンデクス軍が王都までやってきたのだろう。
雨だれが窓を伝う。
幾筋も。
幾筋も。
これは民の涙か。
それとも血か。
「貴方のせいよ。フェルディナント様」
貴方が駆け落ちなどしなければ、戦争は起こらなかったし、多くの国民を苦しめ、死なすことはなかった。
「なんて浅はかなことを…!」
王女を好きになったのなら、それはそれで仕方のないこと。
人の心は自由なのだから。
「言ってくれれば良かったのに」
私たちは幼馴染で、婚約者になって10年。
打ち明けてくれれば婚約破棄したし、協力だってした。
「それなのにこんな風に裏切られるなんて」
王女は私と同じ王室病。
死を目前にしても強要される政略結婚に絶望し、全てを捨てて愛に逃げたのか。
二人きりの異国で、王女は愛する騎士の腕の中で幸せに死ぬのだろう。
そして彼は愛する王女を強く抱きしめ、慟哭する。
まるで悲恋物語の結末のように。
かたや私はどうだろう。
愛する人に裏切られ、周囲からは婚約者に逃げられた哀れな女と蔑まれ、砲弾の音が響く王都に置き去りにされたまま一人淋しく死ぬ。
王家の血が濃く進行の早い私の方が、きっと王女より先に死ぬのだろう。
「ふっ」
嘲笑が口からこぼれる。
私がいったい何をしたと言うのだ。
高熱が続き、痛みがひどくなった私に医師が1日数回痛み止めの薬を飲ませる。
眠っているのか起きているのか分からない日が過ぎゆき、朦朧とした意識のなかで目に映るのは医師の厳しい表情。
半分の細さになった手首を見て、死期を予感する。
もう疲れた。
もう何も考えたくない。
このまま早く楽になりたい。




