23 余命1カ月の私も王室病【sideマティルデ】
「ねぇ、今日は何日?」
侍女の背中に声をかけた。
「お嬢様! お目覚めになられたんですか?」
ベッドの中から声をかけると彼女が飛んできた。
「王宮から戻られて1週間、意識がお戻りにならなかったんですよ」
「1週間……じゃあ、今日は…」
「今日は4月の11日です」
私の誕生日。
そして結婚式をあげるはずだった日。
「ティルデ!」
お母さま、お兄さま、そしてお父さままで部屋にやってきた。
「良かった! 目が覚めたのね」
お母さまとお兄さまは目を真っ赤にしていた。
随分と心配をかけたみたいだ。
「お母さま……ごめ…」
「マティルデ時間がない。まずは医師の話をよく聞きなさい」
突然お父さまが私の言葉をさえぎると、その奥から初老の男性が前に出てきた。
この男性が医師のようで、私の脈を取り、首筋を触ったあと重い口を開いた。
「マティルデ様。貴女は王室病に罹患しておられます」
またこの病名を聞くことになるとは――――。
「意識をなくされている間に採血させていただき、お調べいたしました。そしてその血に王室病の病原を発見いたしました」
「……」
「ここ数カ月、体調が悪くはありませんでしたか?」
王室病はその名の通り、王族だけが感染する伝染病だそうだ。
王族以外の者には抗体があって感染しても発症しないが、王族はまれに発症し、発症すれば100%死に至る不治の病だ。
治療法。治療薬もないため、かつては多数の王族が死に至ったらしい。
「ご容姿と同じくお身体も王族の血が濃かったのでしょう。……『王家の色』の瞳を持つゾフィー王女も発症されましたが、貴女はもっと血が濃いので、王女より進行が速いでしょう」
この医師は王宮医師でゾフィー王女の診察もしたそうだ。
王室病を発症すると徐々に内臓の機能が衰え、最期は心臓が動きを止め、死に至るという。
「私は後どのくらい?」
「1カ月ほどかと…」
「ううっ」
お母さまが嗚咽をもらした。
何だか不思議とショックじゃなかった。
フェルディナント様が駆け落ちしてから、全てが現実じゃないみたいで、何も心に響いてこない。
「エリザベト、ニコラウスもう出ろ、時間がない」
「いやよ! 嫌! ティルデを置いて行くなんて…!」
お母さまの悲痛な叫び声が響く。
「マティルデ。もうすぐアンデクス軍が王都にやってくる。二人は領地に逃がすことにした。お前はもう旅に耐えられないから、父と共にこの屋敷にいよう。大丈夫だ。最期まで私が側にいるからな」
お父さまの手が私の髪を優しくなでる。
お兄さまと目が合うと駆け寄ってきた
「ティルデ。またすぐに会える」
微笑みながらもその両目からは、とめどなく涙がこぼれている。
私の頬を撫で、額にキスをする。
「冷たいわ」
「我慢しろ」
口元に笑みを浮かべようとしているのだろうが、それは小さく歪んだだけだった。
お父さまがお母さまをドアへと促そうとするが、振り切って私の側に駆け寄ってくる。
「ティルデ、マティルデ。わたくしの可愛い娘。わたくしの宝石。わたくしの命」
お母さまが嗚咽を耐えながら、何度も何度もキスを贈ってくれる。
「早く行って。お父さまは私に任せて」
お母さまの顔をじっと見つめ声をかける。
「ええ。ええ。そうね。貴女に任せたら安心だわ」
最後までお母さまは名残惜しそうに私を見つめていた。
こんな風に家族と別れる日がくるとは思わなかった。




