22 王女の病気は王室病【sideマティルデ】
そうして伯爵の姿を見つめている私の背後から、女性の話し声が聞こえてきた。
「色恋で国を危機に陥れるなんて、貴族の風上にもおけないわ」
「でもね。どうやらゾフィー王女は王室病だったらしいわよ」
「何? 王室病って?」
「王族だけがかかる不治の病。この病になって今まで生き残った人はいないそうよ」
「だったらアンデクス帝国に輿入れするのは無理なんじゃ…」
「さぁ知らないわ。でも輿入れの決定はそのままだったし」
「じゃあ、死を前にして政略結婚が嫌になったってこと? それで悲劇の主人公よろしく恋人と逃げたってこと? 王族のくせになんて無責任なの!?」
なんてこと!
王室病って……撲滅されたはずじゃ……!?
病気だったの?
ゾフィー王女が?
あの小柄で、弱弱しい王女の姿が脳裏によぎる。
広場の平民兵に煽られたのか、室内の貴族たちからもヤジが飛びはじめる。
「恋に狂った放蕩者が国を亡ぼす気か!」
「死んでアンデクス王に詫びてこい!」
「息子を引きずり出して処刑しろ!」
内からも外からも非難の怒号が飛び交い、その悪意に眩暈がした。
ふらついた私は一人の女性の肩に当たってしまい、謝るため顔を上げると彼女は叫び声をあげた。
「貴女! あの男の…グリフ伯爵令息の婚約者だったエッケハルディン侯爵令嬢ね!」
私の周りからザッと人が離れた。
「どうしてあの男を止めなかったのよ!」
「戦争なんて…どうするつもりなのよ!」
「貴女があの男と上手くやっていれば」
今度は私の周りにいた人たちが次々と罵って来る。
憎しみの目で睨んでくる。
「やめてくれ! エッケハルディン侯爵令嬢には何ら非はない! 非はあの子を育てた私にある!」
伯爵が涙を流しながら叫んでいる。
「おじ様…」
今日、私はグリフ伯爵…おじ様の姿を見るために、危険を承知でここに来たのだ。
子どもの頃から本当にお世話になった。
私にとっての第二の父だったのだから。
「もういいだろう。危険だ。帰るぞ」
お兄さまが私を抱きかかえて、部屋から強引に脱出する。
口々に罵る人々が邪魔をし、グリフ伯爵の姿は見えなくなっていく。
「ティルデ!」
そして廊下に出たとたん、私はお兄さまの腕の中で意識を失ってしまった。
これがグリフ伯爵の姿を見た最後だった。
憎しみのこもった人々の目が頭から離れない。
『どうしてあの男を止めなかったのよ!』
だって彼は王女とは何もないって。
信じて欲しいってずっと言ってたのよ。
『貴女があの男と上手くやってれば』
結婚したら夫として、次期領主として、きちんとするって言ってたの。
真に大切なものは私だって、1番は私だって言ってたの。
なのに―――――!
幼いころのフェルディナント様の無邪気な笑顔を思い出す。
ミミルの花を間違えたと分かった時のちょっと拗ねた顔。
『兄上の代わりに僕が君を幸せにする』婚約式でそう言って頬を染めた顔。
ハリケーンで幼くとも自覚した領主として責任。
『俺たちは民を守る者なんだ』
なのにあなたの行為で戦争がおこり、多くの民が死ぬのよ。




