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18 夢のようなフェルとの時間【sideマティルデ】

 初めての王宮は荘厳で煌びやかだった。


 金と宝石で覆われた装飾、壁にはめ込まれた歪みの少ない鏡に、まばゆく反射する大量の細工蝋燭の炎。

 そこに夜会に参加する貴族たちの華やかな装い。

 色とりどりのドレスが風にそよぐ花々のようで、うっとりするような美しい光景だ。



 目の前の大人の世界に緊張していると、ポンと肩をたたかれた。

 振り返ると鮮やかなオレンジ色のドレスをまとった友人がいた。


「ジュリアーネ様」


「ごきげんよう。マティルデ様。不敬にもお身体に触れて申し訳ありません」


 今日は友人モードではなく、社交用の伯爵令嬢モードらしい。


 本来、格下から格上の者に先に声をかけるのは不敬にあたるし、身体に触れて呼び止めるなど重大なマナー違反だ。


「でも、ずっと周りを見るばかりでわたくしに気づいては下さらないし、小声でお呼びしても聞いておられないんだもの」

 初めての夜会だものねとクスクスと笑いながらジュリアーネ様が言った。


「フェルディナント様、彼女は友人のハーゼ伯爵家のジュリアーネ様です」


 彼女を紹介すると、彼はその手をとってキスをした。


「初めましてジュリアーネ嬢」


 彼女のパートナーは婚約者で、フェルディナント様は彼には会釈を返した。


「ふふふっ! それにしても圧巻ね」

 小声でジュリアーネ様が私に話しかけてきた。


「あなた達注目の的よ~~バッチリ衣装をそろえた美男美女のカップル! 噂なんて吹き飛ぶ見事なけん制だわ! 見て見てあのヒンデンブルク伯爵令嬢の悔しそうな顔! あ~気持ち良い!」


 遠くには学院を退学したあの先輩令嬢がいた。

 確かに私を睨みつけている。


「ふふっ。会場中を歩き回って、しっかり見せつけてやってよね」





 ドンドン!


 錫杖の音が響き、王族の入場が始まった。

 王、王妃、ゲオルグ王太子、アデラィーデ王女が登場したあと、遅れて細身の少女が姿を現した。


 ゾフィー王女だ。



 豪奢な衣装をまとった王族たちの後では、彼女の簡素なドレスがより一層際立って見えた。

 宝飾類は一切身につけず、簡単に結われた髪、化粧が施されていない白い顔……冷遇されているというのは事実のようだ。


 のろのろと上段に上がろうとする王女の動きは不自然で、良く見ると足を引きずっている。

 ふと、フェルディナント様を見ると彼は固い表情のまま、王女を見つめていた。



 そこで大きく王女の身体が揺れた。



「あ!」

 彼が小さな小さな声をあげる。


 

「!」


 そして私の身体も揺れた。

 フェルディナント様が王女の元に駆け寄ろうとしたので、彼の腕に手をかけていた私の身体が引っ張られたのだ。


「あ、すまない」


 バランスを崩した私に気が付いて謝って来る。


 ザッと血の気が引いた。



 これが現実。




 もし私がその腕にしがみついていなければ、彼は誰よりも早く王女を助けに行っただろう。

 会場中の貴族が注目しているこの状況で――――。


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