16 大人たちとの話し合い【sideマティルデ】
私は17才になった。
あと10カ月で貴族学院を卒業する。
学院を卒業すればフェルディナント様と結婚する予定だが、噂は沈静化せず、王女とフェルディナント様の仲は社交界では、もはや真実とされていた。
そこでエッケハルディン侯爵として、とうとうお父さまが動くことになった。
領地からグリフ伯爵夫妻を呼び出し、フェルディナント様に休暇を取らせ、屋敷で話し合いをすることにしたのだ。
「女子供の噂話だと今まで放っておいたが、二人の結婚式まであと1年だ。妙な言いがかりをつけられたくないから、ここでしっかり事実確認がしたい」
お父さまの言葉に、グリフ伯爵夫妻が不思議そうな顔をする。
「噂話とは?」
領地で暮らすお二人には、王都の噂話など入ってきてはいないようだった。
そこで簡単にお兄さまが経緯を説明した。
フェルディナント様の行動と王女との噂。
そして、私が愛し合う二人の仲を引き裂く悪役にされていることを。
「なんて迂闊なことを……!」
グリフ伯爵が絶句する。
「そんな噂をたてられて、ティルデちゃんがどれだけ嫌な思いをしたと思っているの! ひいてはエッケハルディン侯爵家の顔にも泥を塗ったのよ!」
夫人が叫び、申し訳ないと土下座する勢いだった。
「何故、婚約者の元にはめったに来ず、休日を返上してまで王女の側にいるんだ? しかも最近は深夜まで王女の部屋にいるそうじゃないか」
お兄さまが彼を睨みつけながら質問する。
「「「……深夜まで!?」」」
全員が絶句した。
「二人きりではありません。侍女殿も同席しています」
下を向いたフェルディナント様が答える。
「そういう問題じゃないだろう! 婚約者を蔑ろにして、その時間を別の女性に使っているんだ! 浮気と思われて当然だろう!」
激高した伯爵が立ち上がって叫ぶ。
「浮気など…! 決してやましいことなどありません!」
「では王女の部屋で、深夜まで何をしていると言うんだ」
「……」
「フェルディナント!」
「……騎士の守秘義務として、申し上げることはできません」
「お前この期に及んでも……!」
殴りかかろうとした伯爵を、お父さまが止めた。
「伯爵。その事に関してはいいんです。フェルディナント君に不貞行為がないことは調査済ですから」
ぎょっとしたフェルディナンド様が、お父さまを見た。
「大事な娘をやるのです。彼の素行については調べておりましたから……彼が話せないのも理解しております。ただ…いささかやりすぎではなかったかな?」
「…はい」
「君のその優しさがいつか首を絞めることになるよ。人間は万能じゃない。全ての人を救えるわけではないんだ。真に大切なものを救うため、切り捨てなくてはいけない場合もあるんだ。それは領主の資質として必要なことだよ」
「……はい」
「君にとって真に大切なものはなんだ?」
「……マティルデ嬢と家族と……領民です」
「なら、今後はそれを守るために行動しなさい。いいね」
「はい」
「今度の建国記念式典の夜会には二人で参加すると良い」
建国記念式典の夜会は、1年に1回だけの未成年でも参加できる夜会だ。
本来、夜会は社交界デビューした成人しか参加できないが、この夜会は15才以上の子女も参加することができる。
伯爵夫人とお母さまが、夜会の私たちの衣装について嬉しそうに話し始めたので、この話し合いはお開きとなった。
『君にとって真に大切なものはなんだ?』
『……マティルデ嬢と家族と……領民です』
私が1番大切なんだ。
ここ数年のもやもやした気持ちが晴れるようだった。




