15 私は王女との仲を裂く悪役令嬢【sideマティルデ】
周囲はざわついているのに、フェルディナント様は変わらなかった。
今日、2カ月ぶりに我が屋敷に笑顔でやってきた。
「ごめんねティルデ。もう少し頻繁に尋ねたかったんだけど、忙しくて……」
忙しいのは確かなようだ、少し痩せたように見える。
「これ王都で人気の店のクッキーなんだ。美味しいらしい」
花束と共に渡されるクッキー缶。
無言で受け取る私に彼も沈黙する。
「…怒っている?」
怒っているのだろうか私は。
「違うな。俺に呆れてるのか」
そうかもしれない。
「私たちは貴族です。家同士の約束事に水を差す行動は、面子を潰すことになると理解されておられますか?」
違う!
こんな事が言いたいんじゃない!
私は……
友人たちのように、婚約者に大切にされたかった!
他の令嬢のように婚約者の惚気話をしたり、ちょっとした愚痴を言ったり、貰ったものを自慢したり……
グリフ領にいた頃は良かった。
会えない理由を距離のせいにできたし、大切にされなくても伯爵家の人たちが私を大切にしてくれた。
幼い頃の彼がくれた優しさに恋心を膨らませて、幸せな気分でいられた。
でも……王都に来てから私は少しも幸せじゃない。
私は彼に求めすぎているの?
「違うんだ! 殿下とは本当に何もない! 信じてくれ」
「信じています。信じていますが、何故噂がより悪化するような行動を取り続けるのですか?」
「……それは…すまない。でも信じて欲しい」
彼が私の手を取り両手で握りしめる。
暖かい。
私はこのぬくもりを信じていいのか。
王女と護衛騎士の恋を邪魔する悪役として学院では腫れ物扱い、ヒンデンブルク伯爵令嬢のように面と向かって批判してくる人にはエッケハルディン侯爵家として抗議できるが―――それで彼女は退学したが―――遠巻きにされ、ヒソヒソと噂されるだけではこちらは何もできない。
『領地管理科』の生徒のほとんどが男子生徒のせいもあるが、おかげで最終学年になっても友人は一人もできなかった。
だが、頻繁に3人の友人の令嬢からは心配の手紙が届く。
会って励まされもするが、私は3人が私抜きで会っている事も知っている。
ある日偶然、居合わせたカフェで友人たちを見つけた。
彼女たちは私の前では見せないような弾ける笑顔で、おしゃべりに盛り上がっていた。
声をかけようと思ったが、その会話内容に足が止まる。
「この前、彼にこれを貰ったの~」
エリーゼ様の首には可愛らしいピンクダイヤのネックレスがかかっていた。
わぁ、素敵と歓声があがる。
「私だって来週、フランデ劇場に連れて行ってもらうのよ」
リューディア様がすかさず口をはさむ。
今、フランデ劇場ではレッグ作のオペラを上演している。
大評判でチケットは入手困難だとされている人気作だ
「ジュリアーネ様は結婚式の準備はいかが?」
「順調よ。新婚旅行には東方の国々を3カ月かけて回る計画をしているの」
また素敵!と歓声が上がる。
3人は婚約者の自慢話、結婚式の準備等の話を楽しそうにしていた。
そう言えば彼女たちは、私の前でこんな話をしたことがない。
私がいる時は気を使って、こんな話を一切出さなかったのだ。
私は、そんな風に気を使われている事に『打ちのめされている自分』にショックを受けた。
「私はなんて傲慢だったのかしら」
侯爵令嬢として彼女たちより高い教育を受け、常に正しくあれ、貴族としての責任を果たすのだと努力してきた。
だから私は傲慢にも自分が友人たちより上だとでも思っていたのだろう。
だから気を使われ、憐れまれることが恥ずかしくて堪らなかった。
この辛さを家族にも言えなかった。
話せばきっと婚約解消になるだろう。
彼と別れるのが辛いのか。
やっぱり別れたのかと、周囲に笑われることが許せないのか
私にはもう分からなかった。
そんな私の葛藤を知らず、フェルディナント様は定期的に我が家にやってくる。
優しい笑顔と共に…。
私と彼は、このまま結婚するのだろうか。




