12 婚約者失格【sideマティルデ】
「婚約者が王都にいるのに、3カ月も訪ねてこないとはお前はどういうつもりだ」
彼を呼びつけたのはお兄さまで、かなり憤慨していた。
王都に着いてしばらくして、フェルディナント様からは1度手紙をもらっていた。
近衛騎士として慣れない業務に忙しく、それに慣れたら会いに行くと書かれていた。
「すまない」
この1年でフェルディナント様はすっかり面変わりしていた。
身長はさらに伸びたようでお兄さまの頭半分大きく、体躯は騎士らしく分厚く、胸板も張り出している。
顔も余計な脂肪がとれて鋭利な印象となり、すっかり大人になっていた。
「あやまるのは私にではなく、ティルデにだろう!?」
「お仕事がお忙しいと聞きました。お身体は大丈夫ですか?」
お兄さま怒りをかわすために声をかけるが、フェルディナント様は曖昧にうなずくだけ。
「仕事が忙しい忙しいって、近衛は大きな行事が無い限り3日に一度は休みだろう?」
「……」
「休みも王女殿下の元にいるのか」
「え!?」
「こいつは今、ゾフィー王女の専属騎士なんだ」
近衛騎士は行事等では王族全員の護衛をするが、普段は各王族の専属騎士として業務にあたる。
そしてゾフィー王女は、複雑な立場に置かれた方である。
王女は王の庶子にあたり、王妃の侍女であった男爵令嬢を母に持つ。
子を産めば本来なら側妃になるはずだが、国法で伯爵家以上の者でないと側妃には認められない。
本来なら王女は男爵家に引き取られるはずだったのだが、皮肉にも庶子である王女は『王家の色』を持っていた。
私のように銀色の髪は持っていないが、アメジストの瞳を持って生まれたのだ。
今や王族に『王家の色』を持つ者はいない。
皮肉なことに男爵令嬢が、私と同じ先祖返りの姫君を産んだのだ。
王は特例を設け、ゾフィー王女を王宮に迎えが、それが王妃陛下の逆鱗に触れた。
信頼していた侍女が夫と裏切り、自分が望んでやまなかった『王家の色』の子を産み落としたのだ。
王妃は男爵令嬢を冷遇し死に追いやり、王女を完全無視。
その王妃の子であるゲオルグ王太子とアデラィーデ王女に至っては、陰湿なイジメを繰り返していると言う。
有力貴族の実家を持つ王妃たちの行動に、王宮内の人間は勿論、王も止めることはなく完全放置。
王女は『はずれ王女』と呼ばれ、辛い立場に置かれているそうだ。
フェルディナント様は、そのゾフィー王女の専属騎士になったのだ。
「あの方は辛い立場におられる……」
「そんな事、王都の人間なら誰でも知ってる。問題は婚約者の元には顔を出さず、休日にも王女の元に侍っていることだ」
お兄さまは怒りを隠さない。
「侍ってなど…! ただ、俺は護衛として……」
「休日に平服を着て、お忍びで買い物を楽しむなんて……それを世間ではデートと言うんだ」
「まさか! 俺は護衛として側にいただけで、侍女殿もおられたんだぞ」
「だが、世間はそう見ていない」
「そんな……!」
「お前と王女の仲が社交界で噂になっているのを知らないのか?」
フェルディナント様が顔を上げ、驚愕の表情でお兄さまを見た。
「まさかそんな噂が!?」
「王女の側にいるのに忙しくて、ろくに夜会にも出ていないから噂話に疎いんだな。今一番の話題の人物だぞお前は」
「そんな! ……誤解だ! 俺と王女はそんな関係じゃない!」
今度は私の顔を見つめ、弁解を始める。
「違うんだティルデ! そんなんじゃないんだ! 俺を信じてくれ」
「誤解や信じる信じないの話じゃないんだ! その噂のせいで婚約者のティルデに瑕疵がつくから何とかしろと言っているんだ!」
「……すまない」
「早急に対処しろ」
「……分かった」
フェルディナント様が帰ろうと侍女から上着を受け取ったが、そこに花束もあり、それを私に差し出してきた。
「長い間、放っておいてごめん」
「……」
オレンジ色にまとめられた花束を見つめる。
やはりそうなのだ……今も……。
「お前、今日が何の日か知らないのか」
受け取らない私に戸惑っていた彼が、お兄さまを困惑した表情で見た。
「今日はティルデの15才の誕生日だ。婚約者の誕生日に小さな花束だけとは……! お前、我が侯爵家を侮っているのか!?」
真っ青になった彼が、花束をその場で落とした。




