11 14才 貴族学院に入学【sideマティルデ】
「伯爵、今までティルデの面倒をみてくれて感謝する」
「勿体ないお言葉です侯爵。いずれ我が家にお迎えするご令嬢なのですから、当然のことです」
お父さまとグリフ伯爵が握手をかわす。
今日、私はグリフ公爵領を離れ、王都のタウンハウスに戻る。
14才になったので貴族学院に入学するからだ。
お父さまとお母さまが荷物もあるだろうと4台の馬車で迎えにきてくれたのだが、伯爵夫人が卒業したらここに帰って来るのだから、そんなに持って帰らないでと懇願された。
おかげで、2台の馬車は空のままだ。
「6年間お世話になりました」
深々とグリフ伯爵夫妻に頭を下げる。
私の子ども時代はここの人たちと、この屋敷にあった。
「ハインリヒ様もお元気で」
「手紙を書くよ。フェルよりは返事をくれよ」
全く、この人は……!
「1通につき2通お返事いたしますわ!」
杖をついていない方の手でポンポンと頭を撫でられた。
「4年なんてすぐよね?」
伯爵夫人が私を抱きしめる。
「卒業したら、フェルとの結婚ね。今から楽しみだわ」
王都に行けばフェルディナント様に会える。
そこで私たちの関係の修復はできるのだろうか。
エッケハルディン侯爵家のタウンハウスは貴族学院の近くにあるので、私は寮に入らずに通学を選んだ。
そして入学テストは1位だったらしく、学院長の薦めもあり『領地管理科』に入学することになった。
私が1位ってことは、ハインリヒ様はそれ以上で……学院に通えなくなった彼を思うと悲しくなった。
そしてそこで聞くのは伝説の卒業生のはなし。
「貴女、一足遅かったわね! 本物の彼を見られないなんて可愛そう~~」
気安く私に声をかけてきたのは、一学年上のヒンデンブルク伯爵令嬢。
この人は初対面から馴れ馴れしくて少し苦手だった。
いくら学院では身分は問わないとはいえ、侯爵令嬢の私にこの言葉使いはないのではないか。
出会ってすぐ嫌味を言われたし…
「何?『王家の色』ってこれ見よがしに自慢してるの?」
「自分は美人です~~って顔でツンツンしちゃって感じ悪い!」
「頭が良い女なんて殿方に敬遠されるだけよ」
領地でのんびり成長した私は、むき出しの悪意にただ驚くばかりで……しかも淑女にあるまじき何もオブラートに包まない低俗な悪口に、ただ唖然とするばかり。
「これが王都……」
言われっぱなしでいれば、潰されるだけだ。
社交界はもっとひどいだろう。
「在学中に鍛えなければ」
勉強ばかりに使ってきた頭を、貴族令嬢用に鍛え直さねば。
そして今、彼女が私をやり込める武器のひとつは伝説の卒業生のこと。
「彼は~~フェルディナント様はそれはお美しくて、お優しくて、素晴らしい方だったのよ~~~学院中の憧れで、色んな令嬢が彼の目にとまろうと必死だったの。公爵令嬢も彼にアタックしたのよ~~~でもね、でもねクスクス……振られたの~~~」
その言葉にほっとする。
「結局、学院では彼女を作らなかったの。だ・か・ら貴女も侯爵令嬢だからって選ばれるわけないのよ~~~」
これは……婚約者だと知られたら大変なことになるのではないか。
とにかく静かに、楽しく4年間を過ごしたい。
そうして何とか学院に馴染んだ頃、突然、我が家にフェルディナント様がやってきた。




