10 フェルは近衛騎士になった【sideマティルデ】
近衛騎士団は、王族を守るエリート中のエリート騎士団だ。
剣の腕はもちろん、家柄、頭脳、人格、容姿の優れた者たちが集まる騎士なら誰もが憧れる存在で、例え高位貴族の子息でも生半可な努力ではたどり着けない地位だ。
その近衛騎士団に、まだ学生のフェルディナント様が入団できるなんて、どういう事なのだろう。
「今回の学年末テストで、6位だったそうだな」
「まぁ! 本当に? すごいじゃないの!」
どうして教えてくれなかったのよ、と伯爵夫人が抗議の声をあげるが、誰もが話の続きが知りたいので聞き流される。
「優秀な子息が揃っている『領地管理科』で、その成績を取ったお前の噂をエッケハルディン侯爵がお聞きになり、お前の学院での様子を色々お調べになったようなのだ。
そこで勉学はもちろん、放課後受けていた剣術の授業でも『騎士科』の生徒を上回る腕前と評判だったようで……しかも来年の生徒会の副会長に決まっているというじゃないか!」
「まぁ! 生徒会の役員? 貴族学院の? なんて名誉なことなの!」
またどうして教えてくれなかったのと、伯爵夫人のお小言が始まる。
「生徒会の役員は推薦で決まる。つまり生徒の信頼が厚く人望があるという事で人柄にも問題はなし、容姿は……言うまでもないだろう。
そんな話を王城でエッケハルディン侯爵が世間話の中でお話しをされてな。それを耳に挟んだ王が『姪の侯爵令嬢の夫が伯爵では心もとないと思っていた。子息自身も近衛騎士に憧れていたのなら、箔をつけるために彼を近衛騎士団に推挙しよう』とおっしゃったそうなんだ」
王の推挙は王命と同じ、これは決定事項だ。
未成年のうちに近衛騎士になることが決まるなんて前代未聞、輝かしい彼の未来に婚約者としては喜ぶべきなのだろうが……。
突然の幸運に、頬を紅潮させるフェルディナント様の横顔を見つめた。
本当に綺麗なお顔。
輝くような黄金の髪に影ができるほどの長いまつ毛。
シミひとつない白皙の美貌に17才とは思えない立派な体躯。
成績も優秀で、剣術にも優れた美貌の騎士。
おそらく学院の女生徒たちも彼に夢中だろう。
きっと、近衛騎士の白い軍服もまさに彼のために作られたかのように着こなし、王都の令嬢たちをも虜にしてしまう。
……どうか私のことを忘れないで。
天高く飛び立っていくペガサスを前に、地上にいる私は見上げることしかできない。
彼が王都に戻ってからも変わらず、私は1週間に一度は手紙を出していたが、返信はピタリと無くなった。
まだハインリヒ様との仲を誤解している?
それともただ勉強が忙しいだけ?
在学中から近衛騎士団での訓練を始めていると聞いたから大変なだけ?
それとも…
洗練された王都の女性を思い浮かべ、悶々とした日々を過ごしていたある日、フェルディナント様から誕生日プレゼントが届いた。
4月11日は私の誕生日。
手紙は書かないのに、プレゼントだけ贈るなんてことがあるのだろうか。
ドクンドクンと嫌な予感に心臓が呼応する。
包装紙を開けると、人気の香水が出てきた。
そっと廊下を出て伯爵夫人の部屋に向かう。
途中で伯爵夫人付きの侍女を見かけ、その手にあるものに絶望する。
「あぁ…」
侍女の手には数枚の包装紙とリボン。
そう、フェルディナント様からとされた私の誕生日プレゼントが包まれていた包装紙と同じだった。
そのまま無人の執務室に向かった。
次期伯爵夫人として執務のお手伝いもしていたので、どこに何があるかも把握していた。
帳簿を取り出し、3月中頃から今までの購入履歴を追う。
「…やっぱり」
出入り業者から取り寄せた商品に、香水の履歴が記載されていた。
過去の帳簿も調べてみると、今まで彼からだと思っていた誕生日プレゼントの全ての商品名がそこにあった。
「ずっとフェルディナント様からだと思っていたものは、全て伯爵夫人が用意していたのね」
彼が私を思い、選んだプレゼントでは無かったのだ。
ずっと!
「フェルにとって私は何だったの!?」
絞り出した声に涙がにじんだ。
昔お母さまが言った言葉を思い出す。
『男の子はね、女の子より幼いのよ。好きな女の子がいても楽しい遊びに夢中になるし、細やかな心配りが苦手なのよ。だから問い詰めたりしないで、大人になるまで待ってお上げなさい』
「待てばフェルは私を好きになってくれるの?」
彼からちっとも愛情を感じない。
王都と領地、遠く離れた私たち。
このまま彼を信じて待てばいいのか。
そうして冬が終わり、フェルディナント様は貴族学院を卒業した。
卒業後はグリフ伯爵家の伝統通り5年の軍属に就く。
彼は領地に戻ることなく、そのまま近衛騎士団に正式に入隊した。




