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第4章 12話
二人だけの生活は、静かに始まった。
音が少ない。
必要なことだけが、そこにある。
朝、起きる。
簡単な飯を作る。
声をかける。
「……起きろ」
少し間があって、
「……うん」
小さく返る。
それだけ。
食べて、片付けて。
洗濯して。
昼はバイト。
帰ってきて、また飯。
同じことの繰り返し。
会話は、ほとんどない。
必要最低限。
それ以外は、沈黙。
夏海は、静かだった。
以前みたいに笑うことはない。
無理に笑うこともない。
ただ、言われた通りに動く。
それでも。
「……なんか」
ふと、呟くことがある。
「なんか、変な感じする」
独り言みたいに。
「普通じゃない気がする」
優弥は、何も言わない。
言えない。
「理由は分かんないけど」
「ずっと、引っかかってる感じ」
言葉を探しながら話す。
「……私だけ、どっか違うみたいな」
そのたびに、
優弥は視線を逸らす。
ある夜。
電気を消す前。
夏海がぽつりと聞いた。
「優弥」
「……なんだ」
少しだけ間。
「私、ここにいていいのかな」
静かな声だった。
感情は強くない。
でも、逃げ場がない。
優弥は、答えなかった。
答えられなかった。
ただ。
「……寝ろ」
それだけ言う。
それが限界だった。
電気を消す。
暗闇。
目を閉じる。
守ると決めた。
でも。
どう守ればいいのかは、分からない。
それでも。
手放す、という選択だけは。
最初から、なかった。




