第4章 11話
その夜、ほとんど眠れなかった。
夏海は、泣き疲れてそのまま眠った。
呼吸だけが、かすかに上下している。
優弥は、その横に座ったまま、朝を迎えた。
何も考えられない。
考えようとすると、途中で止まる。
現実感が、薄い。
朝になって、現実だけが動き出した。
電話。
来訪。
説明。
繰り返し。
同じ話を、何度もする。
そして――児童相談所。
「このまま二人だけで生活するのは、難しいと思います」
柔らかい口調。
だが、結論は変わらない。
「施設、あるいは別の保護先を検討することになります」
当然だった。
優弥は、何も言わない。
言葉が浮かばない。
「……やだ」
小さな声。
夏海だった。
俯いたまま、首を振る。
「やだ」
もう一度。
今度は、少し強く。
「行かない」
はっきりと言う。
「ここにいる」
職員が言葉を選ぶ。
「気持ちは分かるけど――」
「やだ」
遮る。
「ここがいい」
短い言葉。
それだけなのに、重い。
「……もう、変わるのやだ」
ぽつりと落ちる。
優弥は、目を閉じた。
その一言で、決まった。
「……俺が見ます」
気づいたら、言っていた。
視線が集まる。
「俺が、このまま面倒見ます」
静かに、繰り返す。
「学校は?」
「休学します」
「生活は?」
「バイトしてます」
「責任は?」
一瞬だけ、間が空く。
それでも。
「取ります」
はっきりと言った。
根拠はない。
でも、それ以外はなかった。
沈黙。
やがて、職員が息を吐く。
「……条件付きになります」
現実が、形になる。
「定期的な訪問と確認」
「生活状況が維持できること」
「問題があれば見直し」
一つずつ、積み上がる。
「それでも?」
優弥は迷わない。
「ああ」
短く答える。
その横で。
夏海が、わずかに肩の力を抜いた。




