EP.55
涼太は、目覚まし時計の音で目を覚ました。
今夜は、水瓶座δ南流星群を皆で見る日。
トイレと洗顔を済ませると、ラジオをつけた。
「今宵は、水瓶座δ南流星群が見えるらしい! 天気は晴れ! 運が良けりゃ、たくさんの流れ星が見られるらしい! さて、そんな天体観測日和にオススメの曲はこちら! リクエストは、星降る夜の希望の星さん、恋するいちごさん、ともかさん、ラジ夫さん……」
DJがリスナーのラジオネームを読み上げると、ラジオから人気のバンドの曲が流れてきた。このバンドと言えばこの曲が有名だが、ファンから熱い支持を受けている隠れた名曲も多いバンドだ。
以前、ライブに行った時のことを思い出す。
当時付き合っていた彼女と行ったライブ。あの時はいつも通りだった彼女から、後日告げられた別れの言葉。
涼太は、胸がチクッと痛くなった気がした。
朝食を作りながら、遠い記憶に思いを馳せる。何も起こらない。
「今日は晴れか……。良かった」
今日の朝食は、シンプルにインスタントの味噌汁に塩おにぎりだ。おにぎりは、俵形にして味付け海苔で巻いてある。
「意外とこういうシンプルなものが良かったりするんだよな」
ずずっと、味噌汁を一口飲む。そして、おにぎりを一口齧る。少し咀嚼して、また味噌汁を一口飲む。
涼太は、こんな穏やかな日常を送る日がまた来るとは思っていなかった。
退院した当初は、お金の工面はもちろん、喫茶店の建物の設計、食品衛生責任者や防火管理者の資格取得、保健所から飲食店営業許可を受けたり、開業届を提出したりと、何かと忙しかった。
今では常連客もつき、一人暮らしを少しゆとりを持ってできるくらいの収入もある。
「ありがたいなぁ……」
あの時、目を覚まさず眠ったままだったらどうなっていたのか。それは、今となってはわからない。
しかし、あの出会いがあったからこそ、今の生活がある。
「ツナグに出会えて良かった」
また一口おにぎりを頬張る。そして、味噌汁を一口。
青いケシの花は、ほんの少し枯れ始めている。涼太が調べたところによると、青いケシの花は暑さに非常に弱く、28度以上の場所だと枯れてしまうらしい。
「夏は越えられないだろうから、また来年買うかな……」
そっとペンダントの鉱石を触る。つるつるとした鉱石は、光の当たり加減で、星が瞬いているように見える。
涼太が鉱石を光にかざすと、星が降ってくるかのように輝いていた。
「ツナグとの大事な思い出だ」
大事に首にかけると、開店準備を始めた。
窓際には、日日草が飾ってある。いくつも花開いている様子を見て、楽しい思い出を思い出す。日日草が、花言葉の通りに、思い出を楽しいものとして思い出させてくれる。
涼太は、ラジオで流れてきている音楽を口ずさみながら、開店準備を進めた。
ハトが庇から飛び立った。外は、綺麗に晴れている。
街全体が眠りから覚めてくる。ラジオDJのテンションが上がっていくのと同調するかのように、外が賑やかになっていく。
皆の一日が始まる。
読んでいただき、ありがとうございます。
日日草には、『楽しい思い出』という花言葉があるそうです。
ちなみに青いケシの花は、メコノプシスまたはブルーポピーという名前で、花言葉は『神秘的・深い魅力・憩い・恋の予感・果てない魅力をたたえる』といったものがあるそうです。
なんとなく、作中では正式名称ではなく、青いケシという呼び方のままにしていました。その方が良いような気がしました。名前を出していたら、ストーリーは変わっていたかもしれません。
そして、涼太も切ない思い出があったわけです。恋愛って難しいですよね。
ちなみに、作中に出てきたバンドは、BUMP OF CHICKENさんがモデルです。
モデルがわかったら……ほら、頭の中に流れてきませんか?望遠鏡を担いでいく、あの有名な曲が。
さて、ここまで読んだ方は、お気づきかもしれません。
次は、いよいよ叶奈のシーンです。
叶奈は、どんな日常を送っているのでしょうか?
ぜひ、続きもお楽しみいただけますと幸いです。




