3-19. 動き出す、多々良浜
大友家と毛利家の初めての衝突、『門司城の戦』。
戦は毛利の勝利に終わった。
しかし――ここから全ての御家が動き出す。
山陰の『尼子晴久』。
『門司城の戦』が終わるや否や、居城である”月山富田城”から一万の軍を率いて出陣。
当主の晴久率いる軍は南下し、安芸の毛利家本拠地、”吉田郡山城”を目指し進軍を開始した。
これに対抗する形で『毛利隆元』と『小早川隆景』は東進を開始。
『門司城の戦』で獲得した備後の地で兵を集めつつ晴久を迎え撃つ。
時を同じくして、本州西端にまで追い詰められた大内家も挙兵。
『大内義長』は三〇〇〇の兵をかき集め、奪われた周防の奪還へ乗り出した。
こちらには毛利家側から『吉川元春』が動く。
五〇〇〇の兵を従えて、大内の反抗の芽を叩くつもりだ。
そして、九州豊後が大友家。
筑前に位置する要衝、”立花山城”を基点とした『団体戦:鶴翼』を申請。
『毛利元就』がこの対処に追われる事となる。
こうして、勢力を急速に拡大した毛利家を囲む毛利包囲網が一斉に牙を剥いた。
――表向きの動きは以上である。
これらに呼応する形で一世一代の舞台が、水面下で着々と準備を進められていた。
『「輝輝坊主」 with 戦国男子』。
彼らの存在が、世の女性たちに色々《・》な意味で火を着けるのだった。
△▼△
「義隆殿も面白い事を考えるねー」
間延びした感嘆を漏らすのは宗麟だ。
尼子晴久と共に月山富田城を出立して数日後。
毛利軍にこっそりと付いてきた『大内義隆』が、これまたこっそり宗麟の下へとやってきていた。
義隆の隠密性能が高い。
本人も知らない才能だった。
これも裏方に徹する『P』としての本能だろうか。
小早川隆景という監視がいる中、隆元は迂闊に動けない。
元就も馬鹿ではない、という事だ。
自身の長女であり次期当主の隆元だろうと、警戒心を露わにしている事が伺える。
「肝心の輝弘と輝元は?」
「隆元のところよ、宗麟様」
「この後の動きは?」
「まだ『戦』の申請がされていないから何とも言わないわね。ただ、隆元はこれ以上動けないわ」
「隆元殿には無理を言っちゃったなあ」
「『宗麟様に頼られたー! 推しの笑顔とか尊死できる!』って滅茶苦茶に喜んでいたから大丈夫じゃないかしら。狂喜乱舞よ」
「狂喜乱舞……」
「狂喜乱舞」
「”尊死”、って何?」
「”極楽”って事では?」
宗麟は微妙な顔。
義隆は満足そうだ。
「まあ、いっか」
これが宗麟である。
「じゃあ、晴久殿のところへ話を通しに行こうかな」
「こちらの動きに合わせる、という事でよろしくて?」
「うん、問題ないよ」
「分かったわ。ありがとね、宗麟様」
パチリと義隆はウィンクを送る。
日乃本で初めて行われたウィンクだった。
流行の最先端をいとも容易く生み出す女性である。
ある種、末恐ろしい。
「宗麟様、結局結局、私たちは何をするんですか?」
「おにぃ、眠い……」
「誾千代は寝てれば?」
「仲間外れは良くないんだぞ!」
義隆が姿を消した後。
それまで静かにしていた三人組が口を開く。
紹運、誾千代、塩市丸だ。
「そうだねえ」
毎度の如く、宗麟はのんびりと考える。
「義隆殿のお手伝い、かな」
「具体的には、兄様?」
「裏方だね。やって来た女性たちに接触するのは危ないだろうし」
「おにぃ、危ないの?」
「そこは義隆殿が警備を厳重にやるって言っていたから、大丈夫だとは思うけど」
「私は舞台付近の警備にと、なんでかなんでか組み込まれちゃったのですが……」
「まあ、紹運なら大丈夫じゃない?」
「宗麟様? とってもとっても扱いが雑です」
「信頼しているんだよ?」
「とってもとっても頑張ります!」
紹運はチョロかった。
△▼△
「兄者---!」
「ここにはいませんよ、義長様」
「兄者ぁぁぁーーー!?」
船にて豊後へと降り立ったのは大内義長御一行。
出迎えに来た大友家臣団の前まで走り寄り、そのまま膝から崩れ落ちた。
家族に飢えているのかもしれない。
「じゃあ、塩市丸はっ!?」
「宗麟様とご一緒しているので……」
「え」
義長ちゃんは涙目だ。
「ほら、義長様。義鑑様はいらっしゃいますです!」
何とか慰めようと義長へ声をかけたのは『陶晴賢』だ。
「母ぁ……?」
「おお、義長……」
「母ぁ!」
「義長!」
「母ぁぁぁぁあああ!!」
「義長ぁぁぁあああ!!」
「生きとったんか!」
「生きとるわっ!?」
感動の再会である。
ハグする前に義鑑が盛大にヘッドスライディングである。
「で、長門の方はどうかしら?」
母娘の方を放って晴賢へと声をかけたのは『吉弘鑑理』だ。
「風前の灯です」
晴賢は神妙な顔。
両の拳をギュッと握りしめる。
「そう。それで三〇〇〇も兵を集められるなんて大したものね」
「私には、もう、これくらいしか出来ないです。不甲斐ないです」
「何言っているの」
鑑理は呆れたように、片手を晴賢の頭の上へ置く。
スレンダー体型の鑑理はそれなりに背が高い。
未だ成長過程にある晴賢は、鑑理を見上げる形となった。
「貴女がいて、私は心強いのよ。胸を張りなさい。貴女は決して、弱くない」
晴賢は目を見開く。
ここのところ負け続きの彼女だ。
何も良い所を見せられていない。
それでも。
それでも、自分を必要としてくれている。
それは、晴賢にとって、
「ありがとう、ございますです」
素直に受け取れないものの、素直に嬉しい言葉でもあった。
「さて、義鑑様。いつまでいじけているのですか。帰りますよ」
「じゃって、義長がぁっ!?」
「ウチは悪くなか!」
「母を勝手に殺す娘がおるか!」
「知らんもん! ウチだって大変やったんやもん!」
「義長が大変じゃったらワシは死ぬのか、死なんじゃろ! はい論破ー!」
「ふぐぅぅう!?」
「義鑑様……」
さすが義鑑、大人気ない。
鑑理も、これにはため息しか出てこなかった。
「十日後には多々良浜へ毛利軍がやってくるんですよ?」
「知っとるわぃ!」
「大内家と共闘するのですから、変ないざこざの種を撒かないで下さい」
「撒いとらんわぃ!」
「連携が狂ったら義鑑様のせいにしますよ?」
「ワシのせいじゃないわぃ!」
「母ぁ……。なんだかウチ、切なくなってきたとよ。ウチが悪かったたい。機嫌直して、ね?」
「何故じゃっ!?」
「鑑理殿も大変ですね」
「はあ……。宗麟様も尼子家とは別の動きをするようだし……」
「ですです」
「大丈夫かしら」
「大丈夫ですよ」
「あら。先ほどは自信が無い様子だったけれど?」
「だって、宗麟様ですからね」
晴賢と鑑理は目線を交わらす。
「はは」
「ふふ」
「そうね」
「はいです」
「「宗麟様、ですからね」」
そして、近年稀に見る大戦。
複数の御家と戦場が入り混じる戦役。
――『多々良浜の戦』が始まる。




