3-20. ここからが本番だ
様々な思惑が絡み合う中。
ついに、『多々良浜の戦』が始まった。
仕様は『団体戦:鶴翼』。
額に巻いた鉢巻きを奪う、最もシンプルな形の戦だ。
籠城や飛び道具もあり。
決められた数人の大将を討ち取るまで、時間制限もない。
その分、兵力等の純粋な国力、地の利を生かした計略等、様々な要因が勝負の明暗を分ける。
大友家は当然、
「私が来たぜ!」
武神、『立花道雪』を主軸としてぶん投げる。
そもそも、多々良浜を戦場に選んだのも「立花山城」があるため。
この城の城主は名の如く道雪である。
実は城持ちであった道雪だ。
「大内の所領に道雪殿の城があるってのは、何だか不思議なものですけどねえ」
「まあ、大内と大友の仲が良いって喧伝できるから、お姉さん的には良い案だと思う」
戦の開始直前でこの会話である。
大友家の家風、ここに極まれり。
「鑑速、長増。行くわよ」
「はいさっさ」
「何それ、可愛い。お姉さんも使ってみようかな」
「似合わないから止めときなさい、長増」
「鑑理、最近冷たくなあい?」
「誰に対してもこんなものよ」
「どうでもいいからさっさと行こうぜ行こうぜー!」
「ああ、道雪殿が楽しそうで何よりです」
「門司城じゃ鬱屈していたものね。お姉さんも頑張ろうっと」
「……本当、貴女たちの気楽さが羨ましいわ」
「鑑理殿、考えるだけ無駄ですよ」
「そうよ。だって宗麟様が何をするか、お姉さんたち結局よく分かっていないのだもの」
「書状は来たけどな。輝弘たちと、何だったっけか」
「舞台、とはありましたけどねえ。舞でも踊るんでしょうか」
「宗麟様の舞いかあ。お姉さんも見たかったなあ」
「行 く わ よ !?」
「「「はーい」」」
大友家の家風である。
家風ったら家風である。
決して遊んでいる訳ではない。
「そういえば、大友家は何を賭けるんだよ」
「え、道雪殿、それ本気で言ってます?」
「ちょっと興味がなさすぎじゃないかしら。お姉さん幻滅」
「仕方ないわよ、道雪だもの」
「鑑理殿が言うと説得力ありますね」
「てめえら、後で覚えとけよ」
「覚えていたらね。……博多よ」
「博多かあ。まあ、確かに毛利も欲しいだろな」
「そういえば、ザビエル殿はどちらへ?」
「あっちよ、鑑速」
「……元就殿のところで何やら熱く語ってますね」
「布教も大変ねえ」
「長増じゃないけれど、本当に精が出ると私も思うわ」
「鑑理殿、アレって良いんですか?」
「宗麟様を褒めたたえているのでしょう? 良いんじゃないかしら」
「ザビエル殿って何教なのか、私、分からなくなってきましたよ」
「安心しなさい、私もよ」
「お姉さんも」
「私もだな」
△▼△
「……随分な出迎えじゃないか、えぇ?」
少々やつれた様子の毛利家当主、『毛利元就』。
ザビエルに付き合っていたのだろう。
地味に彼女の優しさが垣間見えた。
ザビエルの押しが強かっただけかもしれない。
「それはこちらの意図するところではないわ」
「ザビエル殿のせいです」
「お姉さんたち悪くないわよね?」
「私は知らねーぞ」
「皆さん、そういうの知ってますカ? 薄情って言うのですヨ?」
「良く知っているわね」
「勉強しましたからネ! と、白状します!」
「あら、歌の才もあるのじゃない?」
「ウフフ、自分の才能が怖いデス……」
「鑑理は別に褒めているわけじゃないって、お姉さん一応言っておくわね?」
元就が顔を引くつかせる。
大友家とまともに対面したのはこれが初めての彼女だ。
前回は末娘の隆景が来ていた。
隆景もこんな思いをしていたのかと、若干思いを馳せてしまったのだろう。
これぞ大友家の洗礼。
宣教師がいる御家は伊達じゃない。
「……進めてもいいかい?」
「ああ、失礼。どうぞ宜しくお願い致します」
煽っているようにしか聞こえない。
「天満宮の。さっさとやっておくれ」
「あ、はい」
今回は「大宰府天満宮」の巫女たちが審判を務める。
菅原道真公を祀る由緒正しき神社だ。
祭神が男性という事もあり、毎年多くの参拝者が訪れる九州でも有数の規模の宮である。
「毛利殿」
「なんだい?」
突然。
鑑理は巫部の宣誓より先に一歩、前へ踏み出した。
「真意は、何?」
清流のように澄んだ瞳で、鑑理は真っ直ぐに見つめる。
周囲の人は怪訝な顔だ。
鑑理の言葉の意味を上手く読み取れない。
「鑑――」
「道雪、少し、静かにね」
いつになく真剣な様子の長増。
口を開きかけた道雪は、所在なさげに上げた手を頭に持っていった。
「どういう意味だい?」
「それで、良いのね?」
「意味が分からないって、私は言っているのだけどねえ」
「そう」
やりとりは極わずか。
それで何が通じ合ったのか。
言の葉の応酬に、果たして意味はあったのか。
理解できるのは、この場では両者のみだ。
「いいわ、力づくで聞き出してあげましょう」
「それはおっかないねえ」
「これより、『戦』を始める!」
△▼△
「不可解なのよ、毛利の動きが」
法螺貝が鳴り、戦の先端が開かれた。
道雪は「ヒャッハァー!」。
我先にと木刀を掲げながら走り出した後だ。
「それは勘、ですかね?」
「そうね……。ええ、そうよ、鑑速」
鑑理は顎に人差し指を当てて考え込む。
「大友と大内の繋がりは勿論、尼子との繋がりすら掴んでいたのよ」
「領土も広がって叩かれる事など目に見えていた、と。お姉さんも不思議には思っていた」
「そうですね。大内を追い込むやり方も少し雑でしたし。厳島の『特殊戦:蜂矢』以降はただの悪目立ちでしたよ、アレ」
「ええ。兵力が追い付いていない事など、元就殿であれば当然気が付いているはず」
「それでも、こちらに拳を上げてきた……。何か別の目的があったって鑑理は思っている訳ね?」
「……宗麟様とか?」
「あながち、その線が一番濃厚なのよ」
「え゛」
「あら、鑑速。貴女、自分で言ったのよ?」
「……鑑理殿、本気で言ってます?」
「鑑理は本気でしょうね。だからさっきは元就殿に直接確認をした。お姉さんの認識は合っているかしら?」
「概ね、ね」
「つまり?」
「宗麟様が狙いではあるけれど、宗麟様を手に入れようとは考えていないのではないかしら?」
鑑理の推測に長増と鑑速は、
「ああ」
「なるほど、ね」
ここにもし道雪や義鑑がいたら違う言葉が返ってきたことだろう。
「今回は石宗がいないから、道雪も『雷切』は使えないわ」
「お姉さんたちも本気を出さねきゃね」
「私はいつも割と本気ですよ」
「いつも以上にって事よ。――吉弘鑑理、出るわ」
鑑理は額に巻く鉢巻きを今一度きつく締める。
「ふふ、久々ね、前線なんて――吉岡長増、推参します」
長増はゆっくりと木刀を抜き放つ。
「まあ、頑張りますよ。――臼杵鑑速、推して参りましょう」
鑑速はメガネの位置を調整。
「行くわよ」
「ええ」
「はい」
「「「狙うは、毛利元就の鉢巻き、ただ一つ!!」」」




