3-17. 引率は宗麟先生
ドタバタと目まぐるしい。
チョコンと正座している我らが宗麟。
その周囲ではてんやわんやの大騒ぎだ。
尼子家に到着後しばらくして、大友家からの使いが来たためである。
その内容は『毛利との開戦』を伝えるもの。
毛利への挟撃を考えていた尼子家にとって出鼻を挫かれた形だ。
急ぎ『戦』の準備を整え大友家の援護に回ろうとしていた。
そんな慌ただしい中。
「晴久殿は……大丈夫なのですか? 行かなくて」
「大丈夫ですよ。皆は優秀ですから」
おっとりと口元に手を当てクスクスと笑う。
尼子家当主『尼子晴久』は宗麟の前に、これまたチョコンと正座していた。
「宗麟殿こそ大丈夫かしら? 大友家の方が大変ではなくて?」
「それも大丈夫でしょう」
「あらやだ、余計なお世話だったわね」
「いえいえ」
「あはは」「うふふ」と笑い合う。
何とも和やかな雰囲気だ。
戦の前とは思えない。
「宗麟様。あんまりあんまりのんびりとするのも……」
宗麟の後ろで控えていたのは高橋紹運。
少々殺気立っている尼子家の面々に気後れしているようだ。
目の前の晴久だけは時間の流れが一人違うようだが。
「おにぃ、何するのー?」
「誾千代は大人しくしててね」
「はーい」
一緒にやってきた立花誾千代は宗麟の膝の上。
晴久の前だが、そこは晴久。
暖かい目で微笑ましそうに見ているのみ。
すっかり定位置となった膝の上で、誾千代は宗麟の顎に頭頂を擦り付ける。
猫みたいだ。
「兄様、手が止まってるよ」
「ああ、はいはい」
そして、宗麟の右側には彼の妹『塩市丸』。
右手はしっかりと彼女の頭を撫でていた。
ちなみに、左側には『角隈石宗』が鎮座している。
知らない人が見れば、宗麟が最年長にしか見えない。
小学校の遠足だった。
「わざわざ遠いところまで足をお運び下さって、ありがとうございます。お疲れではありませんか?」
「いえいえ。こちらこそ、このような形でお伺いしてすみません」
「まあ、うふふ。宗麟様はお優しい方ですね」
「晴久殿こそ。噂に違わぬお人柄のようで」
「あらやだ。どんな噂かしら。恥ずかしいわ」
「恥ずかしがるような噂ではありませんよ。とても心の綺麗な方だとお聞きしただけです」
「ふふっ。目を真っ直ぐに見て言われると、どちらにせよ気恥ずかしさが勝りますから」
「これは失礼致しました。人との接し方にはまだ不慣れなもので。ご無礼を」
「あらやだ。お気を悪くなさらないで。私の方こそ、殿方に慣れてはおりませんの」
「義久殿を始め、男子に対しても分け隔てなく接する器の広い方とも聞いております」
「あらやだ」
「……話」
「あ、ごめん」
「あらやだ」
延々と続きそうだった。
「ごめんなさい。宗麟殿に会えるのを楽しみにしていたもので」
晴久は全く悪びれた様子もなくコロコロと笑う。
宗麟にしてものほほんと笑顔を浮かべているだけだ。
何をしに来たのか。
「本日はお時間頂き恐悦至極に存じます。我が名は『高橋紹運』。大友家重臣・吉弘鑑理が娘でございます。此度は尼子殿に今後の事でご相談があり、伺わせて頂きました」
ここで紹運がさっさと話を進める。
「ちゃんと喋れるんだ、紹運って」
「あのいつものイラっとくる喋り方じゃなーい! 何で?」
「何だか何だか酷くない!? 私だって、きちんきちんと出来るもん!」
塩市丸と誾千代の茶々により台無しだった。
「うふふっ。大友家の方々は本当に仲が良いのね。羨ましいわ」
「ご謙遜を。尼子家も仲睦まじいと聞き及んでおりますよ」
「あらやだ」
「……同盟」
いい加減ループにも飽きてきたのか。
おばちゃんの井戸端会議のようになっている会話を石宗がぶった切る。
「ああ、そう。そうだね。うん」
流石に宗麟も察した。
石宗は少し怒っている。
「書状の方は」
「拝読させて頂きましたよ」
「では?」
「はい、大友家と誼を結べればと」
「ありがとうございます」
「あらやだ、こちらこそ」
ぺこり。
「それでは、今も進めておりますが、『戦』の準備を進めますわ。それと……」
「分かっておりますよ。”石見銀山”、ですよね?」
「うふふ」
晴久は嬉しそうに微笑みを送ると、楚々とその場を去っていった。
「石見銀山って、何?」
「うーんとね、簡単に言えば、とっても良い鉱山でたくさん良質な石が取れるんだ」
「……石」
石宗が微妙な声を出す。
表情は固定だ。
誾千代には「石」の方が分かりやすいと宗麟は思ったのだろう。
「石で何するの? 水切り?」
「ううん、貨幣とかを作るんだ」
「石でお金が作れるの!?」
誾千代の中で何かが起こった。
「あたい大金持ちになれるじゃん!」
「誾千代、それはそれはきっと違うよ」
「……銀」
「誾?」
「それもそれも違うと思う」
「ねえ、義久、聞いて聞いて! 私、宗麟殿とお喋りしてしまったわ! あらやだ、少しはしたなかったかしら。浮かれ過ぎて宗麟殿に変な人と思われていたらどうすれば良いと思う? ねえ、義久、私、どうしたら良いのかしら?」
「うるっせぇ!?」
廊下の方からも聞こえる楽しそうな声。
宗麟はホッコリだ。
「じゃあ今後の話ね」
そして、この切り替えである。
「あ、はい。しっかりしっかり聞きます」
「結局、あたいたち何でここにいるの?」
「……同盟」
石宗が晴久へ言った言葉を繰り返す。
「晴久殿は戦が苦手ではないけど好きでもないんだ」
「……毛利」
「ただ、尼子家も本格的に動き出した毛利相手に動かざるを得ない」
「……豊後」
「豊後は山陰の尼子家にとって、大内と毛利を挟んだ向こう側だからね」
「……挟撃」
「協力して対処した方が被害は少ないし楽でしょ、って」
「……石見銀山」
「そのお礼に、今は毛利さんが独占している石見銀山の権利を、僕たちは主張しないって交渉したんだ」
「……握手」
「結果、目出度く同盟が結ばれましたって話」
「石宗の発言、いるかな?」
塩市丸の口撃!
「……必要」
石宗はしょんぼりした!
表情は固定だ。
「ま、まあ、とにかくとにかく分かりました」
「だーかーらー、あたいは何するのー!?」
素直に頷く紹運に対して、誾千代はお冠。
自分の役割が明確でないのが気に入らないらしい。
「誾千代には、こういった事を経験してもらおうと思ってさ」
「何で?」
「大きくなった時に、兄様を助けられるようにするためでしょ」
「今でも出来る!」
「はい、じゃあ市姉問題だよ」
デデン。
「長門すら取られそうな我が不貞の姉『大内義長』ですが、次にすべき行動は何でしょう?」
「……え゛」
誾千代はフリーズ。
「はい、兄様。話を続けてどうぞ」
「あ、うん」
膝の上で硬直している誾千代を宗麟はチラリと見る。
瞳孔が開いていそうだ。
「僕たちは晴久殿との面会を終えたら豊後に戻るつもりだったんだけど」
「……宣戦布告」
「毛利さんが先に動いちゃったね」
「母様たちは、ほんとにほんとに大丈夫でしょうか?」
「どうだろう。時間稼ぎで『団体戦:方円』。大内家は援軍を出せる状況じゃないし……。負けちゃうかも」
「それってそれって大問題では!?」
「……対処済み」
石宗の言葉に宗麟は頷く。
「まあ、『博多』を取られるくらいかなあ」
「やっぱりやっぱり大問題では!?」
「さて」
おわあわとしている紹運を他所に、宗麟はよっこらせと立ち上がる。
誾千代は宗麟に抱っこされた。
未だにフリーズしている。
「あ、あ、あ、あぁぁ………抱っこぉ」
紹運のなんとも言えない嘆きが漏れた。
「のんびりするのも、ここまでかな」
「……戦」
「うん、そろそろ動こうか」
言葉は十分にのんびりだ。
しかし、宗麟の目には鋭さが宿る。
「可愛い妹をコテンパンにされたからね。少しは仕返ししてあげないと」
ここで宗麟のシスコンが発動!
悪戯をする前のように、宗麟は一人クスっと笑った。
「僕たちは尼子家と共に打って出る。そのまま隆元殿と合流後、目指すは周防だ!」
伝説のライブ、『大内輝弘の乱』、スペシャルゲストが決定した。




