3-7. ついでに隆元
「……もう、いい?」
宗麟は小袖の裾を頭に被っていた。
風呂敷に頭を突っ込んでいるような見た目である。
「……理解」
「ハイ、石宗様とはお友達になれましタ!」
「……絆」
「固く結ばれましたネ!」
握手っ!
「うん、もう、それでいいや」
宗麟はもぞもぞと頭を出す。
「アハァっ! ご尊顔ガ!」
「……奉天」
宗麟はもぞもぞと頭を仕舞う。
「アアッ!? ご尊顔ガ!?」
「……岩戸」
茶番と化した。
「……輸入」
「南蛮製品ですネ! 何が入用ですカ?」
「……『鉄砲』」
「りょーかいデース!」
国にとって相当に重要な交渉が軽く、しかも唐突に行われた。
「ワタシ、この国の事をもっと知りたいデス!」
「……滞在」
「グラーーシアス!!」
ザビエルの人柄もだいぶ変化している。
元々は元気な方だったのだろう。
旅で疲れていたのかもしれない。
気にしたら負けだと宗麟も気付き始めた。
「ア、本国の『教皇』様へ”神が見つかった”って手紙出しときますネ!」
「……当主」
「そうですネ! 王は宗麟様で決まりデス! ”王様でもあります”って言っときますヨ!」
またしても、無視できない事が軽く決まった。
そして、ここで盛大な勘違いも起きる。
宗麟たちは"豊後という国"の王。
ザビエルは"日乃本"の王。
それぞれの意味で理解した。
ただ、「本当の当主は義鑑様だけどいっか」という思いが石宗の頭を掠めたのみ。
文化の違いである。
「はあ、まあ、いいや。キリスト教の考え方は僕の理想に近かったし……」
少々ゲンナリとした顔で小袖の裾から顔を出す宗麟。
「うん、僕が神輿になるっていうのは分かってた。だから良いんだ。良いんだよ。良いんだよね?」
「……一択」
「神様が乗るという担ぎ物ですネ! 宗麟様に相応しいデス!」
「うーん、少し、違う……!」
とうとうツッコみを覚え始めてきた宗麟だ。
現実を理解してきたともいう。
これで紹運の負担も減るかもしれない。
「よし!」
気持ちを切り替える気合の一声。
宗麟はガバリと立ち上がると、
「決めた! やはり僕は人々が争うこの日乃本を見過ごせない!」
真剣な表情に石宗とザビエルも固唾を呑んだ。
宗麟は二人へと向き直る。
二人の顔からボッと音が鳴った。
こんな時の宗麟は、
「天下に大号令をかける! その名も
――『 天下布愛 』!!
愛を天下に布き、太平をもたらす!!」
キリスト教に触発され、彼の中で燻っていた思いが爆発。
とても直視できない輝きと、人を導くカリスマ。
そして、神々しいまでの笑顔を携えるイケメンと化した!
「……」
「キュゥ……」
女性二人は倒れ伏す。
この場で彼女たちを助けられる者はいない。
そんな時に、
「宗麟様、新たな来訪者です。お目通りを願いたいのです……が?」
やって来たのは吉弘鑑理。
大友三老のお仕事をしっかりとこなすキャリアウーマンでも、この光景には言葉を失った。
「宗麟様……ほどほどにお願いします」
それでも、状況から察する事はできる。
お仕事のできる彼女だ。
宗麟のやりそうな事なら何となく予想できた。
「え、僕のせい?」
「他に何が?」
「あ、うん。ごめん」
「その顔で謝られると、私が地獄へ落ちそうになります」
「どうしたら良いのかな、僕は……?」
「ああ、忘れるところでした。宗麟様にお会いして欲しい方が」
「あれぇー?」
宗麟の扱いに慣れてきた鑑理である。
「……覚醒」
「ウゥ……ワタシは、神を見ましたヨ」
「『毛利隆元』殿です。……ご慎重に対応して頂ければ」
「……布教」
「ハイ! 早速、次の信徒が迷い込んできましたネ!」
「宗麟様……?」
「これは僕のせいじゃないよぉー」
母・元就から宗麟へ近づくように指示された毛利家長女『毛利隆元』。
そんな隆元の運命が決まった瞬間である。




