3-8. 厳島は眠らない➀
「どんどん攻めるです! 敵は怯んでいるですよ!」
晴賢の声が戦場に轟く。
『厳島の戦』が始まってから、四日。
終盤に突入した攻防戦は決着の時を目前に控えていた。
「晴賢、どうなっとると? 勝てそうとね?」
「これは勝ったも同然ですよ、義長様!」
キョロキョロとしている義長に、晴賢は威勢よく答える。
上機嫌だ。
というのも、晴賢たちの策が割と上手くいっていた事に起因する。
『団体戦:方円』は一週間という長丁場。
勢いだけでごり押しする場合もあるが、効果的なのは精神的な揺さぶりだ。
例えば、食料や水の補給を絶ったり、援軍が来ない事を知らせたり。
他にも寝返りの噂を流して疑心暗鬼にさせたりと、それはもう厭らしい計略の数々がある。
そういった事はそこまで得意ではない晴賢だ。
当初は二万という大軍を用いて一気呵成に攻め立てるつもりだった。
しかし、敵はあの『毛利元就』。
無暗やたらに吶喊しても、上手い事返り討ちにあいそうである。
前回の『折敷畑の戦』でボッコボコにされたトラウマだろう。
大友家との『勢場ヶ原の戦』でも、別動隊で奇襲をかけたのは晴賢ではない。
彼女は道雪と一騎打ちをしただけだ。
そういった意味では、晴賢も日々成長しているのかもしれない。
「あとどれくらいかかると? 何だか、天気が悪うなってきとるよ」
「いえ、流石にそこまではちょっと、です」
瀬戸内海に位置する厳島。
普段は穏やかな気候で知られるこの場所だが、どうも空模様が怪しい。
義長に釣られるようにして天を見上げた晴賢の顔にも戸惑いが生まれる。
「毛利方の城『宮尾城』の水絶ちも成功しましたし、厳島への上陸もできましたです」
「そうなると、後は城落として旗を奪うだけたい」
「まあ、そうなんですけれど……攻城戦って大変なのです」
「上から色々振ってくるとね。あれ、何と?」
「油とかです。滑って落っこちちゃうんです。それに、もうすぐ着くって時に棒で突っつかれたりしますです。あとは……」
「あとは?」
「その、排泄物、です」
「晴賢、汚か!?」
義長は鼻を抑えて後ずさる。
「わ、私が汚いみたいに言うの止めて欲しいです!?」
コホンと仕切り直す。
「でも物資にも限度があるたい」
「はいです。実際、毛利の攻撃も弱まってきましたし、そろそろ総攻撃をしたいところです」
何だか勝てそうな雰囲気である。
義長は安堵したようにホッと息を吐いた。
「まあ、まだ三日もありますです。少しくらい雨が降っても大丈夫です!」
晴賢の自信満々な言葉。
義長はなんとなく、薄暗い灰色の空を見上げた。
△▼△
その夜は、暴風雨となった。
兵数を活かして昼夜を問わず城を攻め立てていた晴賢たちである。
天候が悪いならと、一晩くらいは休もうと考えた。
時間的にもまだ余裕はある。
そのため、陣幕の中に引っ込み、最低限の哨戒をするのみに留め、大内軍は寝静まった。
そんな時である。
「毛利両川が一つ、『小早川隆景』、推して参るよ!」
北からは遊撃として離れていた小早川隊が奇襲。
「毛利両川が一つ、『吉川元春』! 雑魚は邪魔だしー!」
沿岸部からは水軍を率いた吉川隊が奇襲。
「毛利家当主、『毛利元就』! 一気にケリをつけようかねえ!!」
攻められていたはずの宮尾城からは、毛利隊が打って出てきた!
示し合わせたかのよう。
いや。
正しく、示し合わせたのだ。
悪天候を逆手に取り、寡勢であった毛利家はここで勝負に出る。




