3-6. 宗麟とザビエル
豊後大友館。
当主不在の当主の間。
そこでは、宗麟と石宗が一人の人物を迎え入れていた。
「どうも初めましテ。ワタシは『フランシスコ・ザビエル』と申しまス」
流暢な日本語で挨拶をする女性。
金色の髪が日の光に映える。
下げた頭に沿うように垂れさがった金糸は緩やかに波打っていた。
義鑑はわたあめのようにフワフワとした髪だが、彼女は穏やかな海のようだ。
長身でありながら細身の体。
しかし、女性らしい曲線を描く。
日本人離れした、とはこの事だろう。
自身より少し年上なだけというのに、ここまで違うのかと宗麟は少し驚いていた。
「やはり異国の方ですね。日乃本の人とは随分外見が異なります」
あまりジロジロ見るのも失礼と思ったのだろう。
言葉は素直であるものの、相手の目を見て宗麟は微笑む。
しかし、驚いていたのは女性も同じであった。
「大友様も。男性でいらっしゃるのに、とてもお淑やかな方ですネ」
「南蛮でもやはり男性は?」
「ハイ。そのため、私は”デウスの教え”を広めているのデス」
女性、『フランシスコ・ザビエル』は静かに頷く。
その頬は若干赤い。
「我が国では『キリスト教』という神の教えが信仰されていまス」
「……『キリスト教』」
「ハイ」
石宗の呟きにも柔らかい微笑みを返すザビエル。
慈母が如き眩しさだ。
「『キリスト教』とは、”デウスの教え”を我々に授けてくれたイエス・キリストを讃えるものデス」
「しかし、何故、遠く日乃本まで? 大変な道のりだったでしょう」
「ハイ。長く険しい旅でしタ。しかし、それは断念する理由にはなりませン」
「信仰で民を救う、ですか?」
「ハイ!」
ほぼ日本語をマスターしているザビエル。
それだけで、彼女がどれだけこの地域の人々へ関心を持っているかも分かる。
また、自身の得になる事も少ないだろう。
勿論、彼女を派遣した国の思惑とは別だ。
彼女自身が危険に見合う利益を得られているかと考えると、あまりないと思われる。
そういった点から見て、ザビエルは敬虔な神の信徒であろう。
宗麟はそう感じていた。
また、キリスト教への質問に対して、嬉しそうに答えている。
この事から彼女の布教活動は芳しくないのでは、とも推測できた。
「……イエス・キリスト」
「ハイ?」
「ああ、すみません。彼女は少し言葉足らずでして」
石宗が少しショックを受けた顔になる。
彼女の会話スキルが通用するのは大友家だけだ。
何気に皆、石宗の単語を文章化できているが、それは決して普通の事ではない。
「イエス・キリストという……人物? について、もう少しお話を聞かせて頂ければと」
「アア、そういう事ですネ!」
微笑みからニコニコとした顔に変わる。
ザビエルも感情が顔に出やすい人のようだ。
「イエス様は貧困に喘ぐ人々を救うべく、デウスからの啓示を皆へ教えて下さいましたタ。しかし……」
そこから暫く。
宗麟と石宗はザビエルの熱い講釈を聞いていた。
時折宗麟からの質問を交えつつ、その時間はゆうに数時間を越える。
彼女の熱意と、未知への好奇心だったのだろう。
宗麟はひどく真剣な様子でザビエルの話を聞いていた。
そして、
「ナルホド! 宗麟様がイエス様の生まれ変わりだったのですネ!」
どうしてか、こうなった!
「え、いや、違う……と、思いますよ?」
さすがの宗麟も困惑。
既に神のように崇められ、宗教のように信徒もできた。
宗麟は認めていないどころか気付いていない可能性もある。
しかし、それは既に事実!
微笑みからニコニコ、そしてキラキラ。
ザビエルの笑顔と喜びが、溢れんばかりで止まらない。
「アア、なんという事でしょウ! このような東の地で神と巡り合えるとハ! これもデウスのお導きですネ!」
「……愛」
「ハイ、国同士が争う戦国の世に他者を気遣う心を失わズ、自らその手を差し伸べる姿……正に、『愛』デス!!」
「……仏」
「日乃本には、既に『ホトケ』の教えが広まっていテ、デウスは異端だと薩摩では言われましタ。それが、それガ……!」
「……布教」
「宗麟様自らが愛を体現なさっている方だとハ!」
「……寺社」
「ハイ。寺社から理解を得るのは非常に大変デス。デウスの教えも一向に受け入れてもらえませン」
「……”業”」
「”神の奇跡”は選ばれた『マリア』のみしか使えませン。私もその一人デス。そのため、宣教師として日乃本へ参りましタ」
「……男性」
「男性で”神の奇跡”を扱える者は本国にもいませんでしタ!」
「……納得」
「ハイ!」
ニコニコ。
石宗ですら口元に薄っすらと笑み。
いつの間にか石宗としっかりキャッチボールが出来ている。
言葉の通じない異国で布教をしてきたガッツがここでも発揮されていた。
「……もう、いい?」
そして、宗麟は小袖の裾を頭に被っていた。




