3-5. いざ行かん、『厳島の戦』!
――厳島。
それは、瀬戸内海に浮かぶ交通の要衝である。
また、平清盛が厚く保護した事から発展した神社『厳島神社』は、その影響力の大きさからも無視できない場所。
地理的にも、精神的にも。非常に重要な地位を占める。
それが、『厳島』というところだ。
「晴賢ぁ、本当に大丈夫と? ウチ、また負けるの嫌たい……」
始まる前から弱気な発言。
大内家当主とは思えないへっぴり腰の『大内義長』である。
しかし、無理もないのだろう。
つい先日までは「兄者ぁ!」と叫んでいただけなのだ。
宗麟にようやく会えたと思ったら、今度は周防へと移される。
如何に愛する兄からの頼みとは言え、そこまでの汎用性は義長ちゃんにない!
「ウチ、兄者に頭撫でてほしかぁ~……」
既に涙目。
愚痴や弱音が最近は増えている義長である。
「義長様! 何を弱気になっているですか!」
「ひぅん!?」
そんな義長に容赦なく発破をかけているのが『陶晴賢』だ。
「今度こそ毛利をギッタンギッタンのメッチョンメッチョンにするですよ!」
「なんか汚そうで嫌と」
「比喩表現です! 少し頭良さそうに見えますです!」
「え……。晴賢、それは比喩表現ではなか。ただただ頭悪そうに見えるばい」
「ですぅっ!?」
近年、晴賢の残念さ具合が露呈していた。
そのおかげで義長も肩の力が抜けていると言えば怪我の功名になるだろうか。
いや。
それ以上に、現状の危機に気付くべきだった。
陶方は大軍団を率いていた。
その兵数――二万。
毛利家に落とされた城、桜尾城の城主から「厳島に城が建設されている、要塞化して陶を迎え撃つつもりだ」という密書が陶方に届けられていた。
桜尾城主、桂元澄は毛利方から陶へ寝返りたいと言ったのだ。
これを受けて、晴賢や文治派の諸将が案を考案した。
狙いは簡単だ。
水軍と陸路の両方で攻める。
水軍は厳島の城「宮尾城」の攻め立て。
陸路は宮尾城の水を絶つために動く。
天然の要害であり、多くの信仰を集める神社『厳島』。
確かに、ここを武装化したら中々に攻めづらい。
しかし、そうと分かっていれば攻める側も対策を考えられる。
晴賢が自信満々に毛利家へ再度宣戦布告したのはそのためだった。
――毛利家に誘導されているとも知らずに。
△▼△
「やあやあ、陶晴賢殿。性懲りもなく、また喧嘩しようってねえ」
「さっすが、大国ともなるとあーしたちみたいな弱小国をイビるのも楽しそー!」
ニヤニヤとケラケラに出迎えられる。
晴賢は既にブチ切れそうだった。
「も、元就殿こそ、よく降伏しなかったですねー」
「ん? ああ、凄い数だねえ。二万くらいかい?」
「そうです! 今ならまだ謝ったら許してあげるです! だから輝弘君を返して……ですぅ?」
「晴賢、晴賢。……何か、輝弘君がおらんとね」
「何でです!?」
前後左右を見渡す晴賢。
しかし、目的の男子が見当たらない。
「ど、どういう事です!」
「どうもこうもないよ」
「そーそー。あーしたちが賭けるのは別にいるしー」
「べ、別、です?」
元就と元春は揃って笑う。
意地が悪いというより、本当に可笑しくて笑ったようだ。
「あたしたちが賭けるのは、ほれ、この子だよ」
ポンと元就に背を押され前へと出たのは、
「『毛利輝元』です。五歳です。よろしくお願いします」
ちょこんと頭を下げる幼児がいた。
「あーしの義弟ー。どう、可愛いっしょ!」
「姉上、怖いからやー」
「あぁっ!?」
「やめな、元春。こいつは隆元にしか懐いてないからねえ」
色々とチグハグな関係である。
「あ、兄者ぁ……」
それでも義長の何かが決壊しそうだった。
「ああ、義長様!? 家族愛の欠片もなさそうなのでも駄目です!?」
「ウチも、ウチも、塩市丸と喧嘩したかぁ~~」
「重症っぽいです!? もう少し頑張るです、ね? 私がお姉ちゃん代わりになりますです」
「欲しいのは妹たい~」
「じゃ、じゃあ、私が宗麟さんと、しゅ、しゅしゅしゅ祝言を上げて娘子を産めば良いです、です!」
「晴賢、調子乗りすぎとね」
「まさかの真顔ですぅ!?」
「そろそろ良いかい?」
「あ、すみませんです」
「あーし、晴賢ちゃんの事けっこースキかもぉ」
「あ、いえ、そういうのは結構です」
ドン引きの晴賢。
唇をペロリと舐める元春に寒気が止まらない。
もしかしたら貞操の危機である。
元就はそんな彼女たちをスルーして、さっさと巫部たちに声をかける。
もう皆が皆、勝手に動いていた。
「ほれ、厳島の巫部さんたちや。宣誓でもしようじゃないか、ねえ?」
「は、はい」
コホンと咳払い一つ。
「これより、『戦』を始める!」
その言葉一つで、空気が変わった。
「戦の仕様は『団体戦:方円』!」
宣誓が始まる。
皆が顔を引き締め、先ほどまでの緩い雰囲気が霧散。
御家の命運を賭けた大戦が始まる。
――”団体戦:方円”
それは、籠城戦を主軸とした攻防戦である。
要となるのは”旗”だ。
防衛側は旗を開始から一週間死守するか、攻撃側大将の討ち死にで勝利。
攻撃側はその前に旗を奪取すれば勝利だ。
それ以外には武器も将の数も、どのように城を攻め立てるかも自由。
ただし、防衛側は旗の移動はできず、旗も規定の物を扱う。
そして、籠城戦は精神面も重要な要素となる。
防衛側は常に攻められ、外への脱出が困難だ。
加えて、物資の補給路の確保等色々と煩雑な計画を練らなければならない。
しかし、寡勢にとっては堅実な手段ともいえる。
未だ大国としての兵力を有する大内家二万に対し、毛利家は約四〇〇〇。
晴賢たちでなくとも、『厳島の戦』は”団体戦:方円”になるだろうと予測できる。
「両者、配置へ! 『戦』の開始は一刻後とする!」
巫部の言葉を合図に。
両者は一斉に動き出した!
△▼△
「毛利家は両川で有名な娘が二人いたはずたい。それと、長女の隆元がおらんかったとね」
移動しながら義長が疑問を口にする。
大内家は厳島を攻める”攻め手”だ。
陸上の水源を絶つために本州の陸へと兵二万の内、およそ三〇〇〇が桜尾城の方へと向かっていた。
残りは軍船に乗り込み、厳島への上陸を目指す。
「”団体戦:方円”は将の数が決められてないです。だから、恐らくは遊撃部隊として隠したかったんだと思いますです」
「はぁ~、なるほど~。元就殿は慎重とね」
「感心している場合じゃないです。義長様、ほら、兵の激励をするです」
「ウ、ウチが?」
「当たり前です!?」
どうしても当主としての役割に慣れていない。
義長は緊張しながらも声を張り上げた。
「ウ、ウチの兄者んためー! 頑張ったら兄者が褒めてくれるたーい! あと、輝弘君取り戻さんと兄者が悲しむぅーー!!」
「「「おおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」
「え、それ、激励です? でも、宗麟さんのためなら頑張れるですぅーー!!」
宗麟への信仰心が上がった。




