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天下布愛! ~男少女多のあべこべ世界、賭けるは男子の戦国ゲーム~  作者: 橘 ミコト
第二章 それは『愛』だっ!――vs毛利家編

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3-4. 毛利家は三本の矢も折る

 ――吉田郡山《よしだこおりやま》城。


 ここは安芸《あき》に居を構える毛利氏の本拠地だ。


 折敷畑《おしきばた》の戦で大内家に勝利した毛利家。

 彼女たちはその勢いのまま、折敷畑《おしきばた》周辺の桜尾《さくらお》城と厳島《いつくしま》まで占拠した。


「厳島の宮尾《みやお》城はどうだい? 建設の調子は」


 女性にしては低い声が鳴る。


「ボチボチだよ、母上」


 それに答えたのは鈴を転がしたような声だ。


 酷く対照的な音。

 両者の纏う空気も異なり、違和感が凄い。


 親子でこうも方向性が違うものだろうか。


「あたしゃ、さっさと仕上げろって言ったよ。覚えているかい?」

「勿論さ、母上」

「じゃあ、ボチボチってのはどういう事なのか、説明してもらえるかい、隆景《たかかげ》?」


 母上と呼ばれる女性は日に焼けた黒茶髪をガシガシと乱雑に掻く。

 威圧感が迸るようだ。


 大友家の立花《たちばな》道雪《どうせつ》とはまた違った重圧を感じる。


 道雪は、どちらかと言えば野《・》性《・》だ。

 天性の勘を持ち合わせ、理屈ではなく結果をもぎ取る。


 しかし、この女性は全く違う。


 彼女は相手を追い詰め、食い殺す狩《・》人《・》だ。

 用意周到に敵を屠る。

 そこに運はあっても偶然は存在しない。


 偶々ではなく、狙うのだ。


 相手の弱みを。

 相手の誠実さを。

 相手の欲を。

 相手の優しさを。


 人にとって、秤にかけられる対象。


 それら全ては、彼女にとって『隙』でしかない。



 それが、彼女――『毛利《もうり》元就《もとなり》』の考え方だ。



 けれども、隆景《たかかげ》と呼ばれた少女は動じていない。

 元就《もとなり》の鋭い目を眠たそうな目で真っ直ぐに見返す。


「ボクは”出来てない”なんて言ってないからさ。まあ、母上の満足する物は出来ているよ」


 平然と、そう言い返す。


 これではまるで、


「あんたが満足してないって? そういう事かい」

「そうだね。うん。そんな感じだろうさ」


 なんとも曖昧。


 それでも、元就《もとなり》は面白そうに笑った。


「あたしの考えは分かってるって、そう言いたそうだねえ」

「分かっているともさ」


 隆景《たかかげ》は表情も変えずに言う。


 眠たそうな目は相変わらず母を見つめていた。

 瞳の奥の感情を読み取りにくい。

 それでも、確かな自信はその身から溢れている。



「ボクは『小早川《こばやかわ》隆景《たかかげ》』だよ、母上」



 名は何を表すのか。


 この場合は、彼女の頭脳の明晰さを証明する。


 毛利《もうり》元就《もとなり》の娘たち、毛利三姉妹が三女にして末妹。

 毛利家臣、小早川《こばやかわ》家に養子へ出され現当主の『小早川《こばやかわ》隆景《たかかげ》』。


 母の策略の才を一手に引き受けたと言われる英傑である。


「じゃあ、説明してもらえるかい? そこで聞いている姉二人にも分かるようにねえ」


 元就《もとなり》はそういうと、隆景《たかかげ》の横に並ぶ少女たちを見た。



「母上のその”ねちっこい”喋り方、何とかなんない? マジキモイんだけど」



 彼女は隆景《たかかげ》の姉であり、毛利《もうり》元就《もとなり》が次女。

 毛利家臣、吉川家へと養子に出され現当主となった『吉川《きっかわ》元春《もとはる》』である。


 妹の隆景《たかかげ》が文学少女だとしたら、こちらはギャルだ。

 全身でオシャレを楽しんでおり、言葉も少々キツメ。


 姉妹なのに全く似ていない。 

 


「も、元春《もとはる》ちゃん、母上に向かってそんな事言っちゃダメだよぉ」



 最後は毛利家長女の『毛利《もうり》隆元《たかもと》』。


 次期毛利家当主という肩書に似合わず、どこか弱弱しい。

 人によってはイライラするタイプだろう。


 自己主張の激しい毛利家の中、彼女は彼女で異質な存在だった。


 娘三人を眺めながら、元就《もとなり》は楽しそうに口元を歪めるだけだ。


 隆景《たかかげ》は面倒くさそうに軽く息を吐く。


「隆元《たかもと》、元春《もとはる》。説明をしてもいいかい?」


 どうやら、一応説明はするつもりであるらしい。


 けれども、


「あのさ、隆景《たかかげ》。姉の事を呼び捨てってどうよ」

「ボクは説明をしても良いかを聞いたんだ。元春《もとはる》の頭だと難しかったかな……」

「こいつ、ほんとチョーシ乗ってんだけど。殺していーい?」

「だ、ダメだよぉ、元春《もとはる》ちゃん。ほら、隆景《たかかげ》ちゃんも、そんな言い方……」

「隆元《たかもと》もはっきりしてくれないかな。ボクは忙しいんだ。少なくとも君ら二人よりはね」

「あ、あぅあぅ……」


 凄まじいまでに仲の悪い姉妹だった。


 大友家の仲が睦まじい分、その違いも顕著である。


 何もかもが宗麟たちとは正反対。


 それが、ここ。



 ――毛利家だ。



「隆元《たかもと》、元春《もとはる》、隆景《たかかげ》」

「な、なに、母上……?」

「何だし」

「何かな?」


 元就《もとなり》は九本の矢を徐《おもむろ》に取り出す。


「説明よりも、こっちの方が手っ取り早いからねえ」


 そして、彼女たち一人ずつに三本を渡した。


 隆元《たかもと》は困惑。

 元春《もとはる》は馬鹿にしたよう。

 隆景《たかかげ》は興味もなく、それを見ていた。


「これ、折ってみな」


「う、う~~~ん!」

「ほいっと」

「はい」


 隆元《たかもと》は顔を真っ赤にして折ろうとするも折れない。


 元春《もとはる》は簡単に片手で握りつぶした。


 そして、隆景《たかかげ》は腰に差していた刀の腹で真っ二つに叩き折る。


「え、ええぇぇぇ!? 隆景《たかかげ》ちゃんのはズルくないのかな、母上!?」

「何で問題だと思ったんだい、隆元《たかもと》?」

「だ、だって、折れって……」

「どうやって、なんてあたしゃ一言も明言してないんだがねえ」

「うぅ~……」


 元就《もとなり》は嘲笑する。


「隆元《たかもと》、お前の”力”はその程度なんだ。じゃあ、それで何が出来るかを考えな」

「……邪魔にならないように、してる」

「そうかい」


 元就は何も言わない。


 と、思っていたら、



「”力”は、揮《ふる》うもんだ!」



 突然、元就《もとなり》が声を上げる。


 そして立ち上がった。


 娘たちは母を見上げる。


 隆元《たかもと》は驚いて。

 元春《もとはる》はニヤリと笑い。

 隆景《たかかげ》はハッと鼻で笑った。



「”力”とは何だい!?」


「”暴力”に決まってんじゃーん」


 元春《もとはる》が答える。


「いや、”騙《かた》り”だよ」


 隆景《たかかげ》が答える。


「どちらも、”力”さ!!」


 元就《もとなり》が吼える。



「毛利《もうり》は動こうかねえ! 邪魔な大内は既に我が掌中にあり!」



「毛利《もうり》両川《りょうせん》が一つ、吉川《きっかわ》元春《もとはる》! 敵を蹂躙してやろーじゃん!」


 元春《もとはる》も勢いよく立ち上がる。


「毛利両川が一つ、小早川《こばやかわ》隆景《たかかげ》。敵を陥《おとしい》れてみせようか」


 隆景《たかかげ》は静かに立ち上がる。


「陶《すえ》は厳島にあたしらが籠城すると見越しているよ、隆景《たかかげ》や」

「任せるが良いさ、母上。ボクは陸から行こう」


「陶は水軍を大量に率いるだろうねえ、元春《もとはる》!」

「だからなんだって、母上。あーしの武威、見せつけてやろーじゃん?」


 元就《もとなり》は満足そうに笑う。



 獲物は既に――策に落ちた。



「『少弐《しょうに》』と『尼子《あまご》』は唆《そそのか》した。陶《すえ》水軍の拠点『周防《すおう》富田《とだ》』は調略済み、桜尾城の桂《かつら》元澄《もとすみ》には内通の偽装も指示し、これで陶はただただ厳島の(・)み(・)を攻め立てるだろうねえ……!」



 元就《もとなり》の口端はより深く吊り上がる。


 まるで、赤い三日月だ。



「さあ、これで後は噂を確かめるだけだねえ……隆元《たかもと》」


 元就《もとなり》は最後の一人を呼ぶ。


 長女にして、次期当主。


 しかし、その才は凡人の一言。


 肩書というプレッシャーに押しつぶされそうな少女が、ただそこにはいた。



「も、毛利《もうり》宗家《そうけ》、毛利《もうり》隆元《たかもと》……。噂の男子『大友《おおとも》宗麟《そうりん》』殿に……い、い、いぃ!」



 息を吸う。


 吐く。




「いっ、色仕掛け、頑張りますぅ!!」




 「ひぃ~ん! 恥ずかしぃよぉ~!」なんて情けない声。


 隆元《たかもと》ちゃんの受難は、




 ――ここまでだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] さあ宗麟、ここからどう対策をするかが見物だ。 [一言] 村上水軍は出てこないのか?。
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