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天下布愛! ~男少女多のあべこべ世界、賭けるは男子の戦国ゲーム~  作者: 橘 ミコト
第二章 それは『愛』だっ!――vs毛利家編

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3-3. 宗麟の布石

「宗麟様、どうされますか?」


 鑑理《あきまさ》が慎重に口を開く。


 大内家の敗北。


 大内《おおうち》義隆《よしたか》の引き渡しを毛利家が拒否していた時点で『戦《いくさ》』になる事は分かっていた。

 しかし、こうも簡単にあの大内家が負けるとも思っていなかった。


 それが正直な彼女たちの感想である。


 大友家もその大内家に勝利した。

 それでも、大内家は西国一と謳われる強国だ。

 それに、正面からまともにぶつかり合った訳ではない。


 現在は九州を始め、中国四国地方も豪族や小大名が群雄割拠している。


 その中で周防《すおう》、長門《ながと》、安芸《あき》、石見《いわみ》、筑前《ちくぜん》、豊前《ぶぜん》の六か国を支配下に置いていた大内家は紛れもない大国だ。


 それが、


「毛利殿にあっさり負けた……」


 宗麟は難しい顔で呟く。


「毛利家は瀬戸内海に位置する安芸《あき》と石見《いわみ》の管理を任されています」


 鑑理《あきまさ》は宗麟へ説明するように語る。


「とは言え、実質の支配にまでは至っていません」

「瀬戸内海の海賊や安芸《あき》の国人衆《こくじんしゅう》で大内家に臣従してる御家も多いですしねえ」

「鑑速《あきすみ》の言う通りです。お姉さん的には毛利家はそこまで強くありません」

「でも勝った。それが事実だろ」


 道雪《どうせつ》の言葉で場に静寂が立ち込める。


「どちらにしろ無視はできないよ」


 宗麟はそう言うとフウと息を吐きだした。


「問題は今後かな」

「宗麟様の言う通りです。しかし」

「どうするかが問題なんだろ。別に鑑理《あきまさ》が言わなくても若なら分かってる」

「ええ、そうね……」


 普段と違い歯切れの悪い鑑理《あきまさ》。


 どのような戦だったのか、その全容がまだ把握できていない。

 それが今後の指針を考える際のネックになっていた。


 鑑理《あきまさ》の懸念と不安も皆が理解している。


「援軍出すかの」


 ポツリと義鑑《よしあき》が言葉を零す。


「いや、それはまだ早いですよ!」


 それに待ったをかけたのは鑑速《あきすみ》だ。


 義鑑《よしあき》は若干視線を厳しくする。


「大内には塩乙丸《しおおとまる》、いや、義長《よしなが》がおるんじゃぞ」


 言葉少なく威嚇する。

 義鑑《よしあき》にとっては可愛い我が子だ。

 見捨てるような事は出来ない。


 それは皆にとっても同じだが。


「落ち着いて下さい、義鑑《よしあき》様」

「無理じゃ、鑑理《あきまさ》」

「はあ……」


 いつもなら駄々をこねる義鑑《よしあき》である。


 それが、こうも静かに反論するを見るに、どうやら本気で怒っているらしい。


「何も助けないなんて言っておりません」

「そうですよぉ、義鑑《よしあき》様。今動いても後ろの備えがありませんし」

「鑑速《あきすみ》じゃないけれど、お姉さんは島津《しまづ》家と龍造寺《りゅうぞうじ》家の動きが気になります」

「島津ぅ? あの薩摩《さつま》の田舎者がどうしたんだよ」

「最近、勢力の拡大が著しいのよ」

「マジかよ鑑理《あきまさ》。全然知らなかったぞ」

「貴女に言っても仕方ないでしょ」

「喧嘩売ってんのか、こら」


 ガルルと荒ぶる道雪を鑑理《あきまさ》はスルー。


 薩摩島津家と豊後大友家の間、土地的には他にも多くの小大名がいる。

 そのため、すぐにどうこうという話ではない。


 けれども、肥前龍造寺家は別だ。


 大友家と仲良くしていた少弐《しょうに》家から肥前を奪い取った彼女たちは現状静かである。

 しかし、隙を見せたらすぐに喉元へ食らいついてくるだろう。


「あまり大っぴらに動くのもマズい、かな」


 宗麟の言葉に皆が押し黙る。


「……書《・》状《・》」


 その中で、石宗《せきそう》一人が声を上げた。


「あ、流石だね石宗。うん、僕もそうしようと思ってた」


 諸将はポカンである。


 以心伝心、阿吽の呼吸。 

 言葉が少なすぎて理解ができない。


「ど、どういう事ですか?」


 慌てたように問いただす鑑理《あきまさ》。


 他もウンウンと説明を求める。


「この間、異《・》国《・》の(・)人《・》が難破して来たでしょ」

「は、はい。種子島に来たそうですが……」

「その人たちが面白い物《・》と教《・》え(・)を持っていてね」

「面白い、物と教え……?」


 要領を得ない。


 鑑理《あきまさ》たちの困惑は深まるばかりだ。


「うん、少し準備が必要かなあ」

「……鍛冶師」

「そっちは石宗《せきそう》に任せても良い?」

「……了解」

「ありがとう」


 宗麟と石宗だけで勝手に話が進んで行く。


「ワ、ワシも何かやるのじゃ!」


 我慢できない。

 そんな感情が分かりやすい程分かりやすい御仁である。


「母さんは……悪いけどお留守番かな」

「何故じゃ!? って、え、宗麟、出かけるんかの?」

「少しね。それに、母さんには後《・》ろ(・)に睨みを利《き》かせて欲しいから」

「供周りはどうされますか?」

「紹運《じょううん》と誾千代《ぎんちよ》かな。そうだ、塩市丸《しおいちまる》も連れていこう」


 この場にはいない子供勢の名が宗麟の口から飛び出る。

 鑑理《あきまさ》だけでなく、皆が眉間に皺を寄せた。


 危険ではないかと思ったのだろう。

 もう少し年配の者が連れ添った方が良い。


「それだけですか?」

「じゃあ……石宗《せきそう》も」


 石宗《せきそう》も剣術等、腕は大したことがない。

 ぶっちゃけ弱い。


 凄く、弱い。


 護衛としての年配者を。

 皆が思ったが、


「大丈夫、危険な事はないし。それに、紹運《じょううん》って結構強(・)い(・)よ?」


 宗麟に機先を制された。


「……分かりました」


 渋々ではあるが、ここは宗麟を信じる。

 

 紹運は元服しているものの、未だ『戦』に出た事がない。

 つまり、一人前とは認められていないのだ。

 皆が心配になるのも妥当だろう。


 と、見せかけてバレないように誰かを送るつもりの皆だ。


 過保護は伊達ではない。

 実際、宗麟の立場を考えるならば、当然とも言える判断だろう。


 そこのところは相変わらず疎い宗麟である。


「若、私は?」

「道雪はいつも通り。頼りにしてるよ」

「分かりやすくて良いね。さっすが若」


 道雪はニヤリといつもの如く。


「お姉さんは豊後に残って石宗《せきそう》の引継ぎとお手伝いかしら」

「うん、助かるよ。ありがとう」

「じゃあ、私は援軍の準備でもしておきます。物資の確保とか時間かかりますし」

「鑑速《あきすみ》もありがとう」

「となると、私は義鑑《よしあき》様のお守ですか。宗麟様、こちらはお任せ下さい」

「鑑理《あきまさ》だけ何か違う気がするんじゃが!?」


 着々と決まっていく。


 指示を出す中心が宗麟である事にツッコんではいけない。

 それでも当主は義鑑《よしあき》だ。

 疑問を持ってはいけない。


「結局……手《・》紙《・》って何です?」


 ここで、鑑速《あきすみ》が再度宗麟へと質問をする。


 宗麟はフフっと悪戯っ子のように微笑んだ。


「な・い・しょ」


「「「はぅっぱ……!?」」」


 口元に人差し指を当てた宗麟。


 項垂れるように、もしくは傅《かしず》くように皆が膝立ちになる。


 宗教画のような構図だった。


「じゃあ、僕はちょっと人と会ってくるよ」


 皆の様子を華麗にスルー。

 宗麟がゆっくりと立ち上がる。


 とうとう家臣たちに対しても放置プレイを覚えたようだ。


 身内枠が広がっている。


「じゃあ石宗《せきそう》、付き合ってくれる?」

「……無問題」


「え、ちょっと、何で石宗《せきそう》殿だけなんです!?」

「お姉さんも一緒じゃダメなのかしら?」

「宗麟様に迷惑かけないの。ほら、私たちは私たちの仕事をするわよ」

「鑑理《あきまさ》が大人ぶっておる! どうせ宗麟に良い恰好を見せたいだけじゃろ!」

「義鑑《よしあき》様はいつになったら学ぶんでしょうか? 大友館の屋根を直させますよ」

「落ちちゃうから無理じゃ!」

「……気にするところはそこですか?」

「私は訓練にでも行こっかなっとぉ」


 各々が動き出す。


 大内家が毛利家に負けた報告を受けた時とは雰囲気が違った。


 これも宗麟のカリスマの成せる業だろうか。


 義鑑《よしあき》よりよっぽど当主している。


「宗麟様、誰と会うかだけお伺いしても?」

「ん、ああ」


 義鑑《よしあき》の首根っこを掴み、彼女をズルズルと引きずっていた鑑理《あきまさ》が振り返り声をかける。


 宗麟は石宗と二人残っていた。

 ここに人とやらが来るのだろうか。



「『フランシスコ・ザビエル』って人。面白い物《・》と教《・》え(・)を持ってきてくれた人だよ」



 宗麟はにこやかに笑い、そう鑑理《あきまさ》へ告げた。

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