2-ex. 大内の当主、誰がやる?
大内家との『戦』が終わってから。
大友家と元大内家の家臣たちによる宴会が催されていた。
義隆という暴君から解放された人々は顔も晴れやかだ。
普段、どれほどの無理難題や厄介事を押し付けられていたのか。
その苦労が偲ばれる。
「皆、盃は持ったかの? それじゃあ、乾杯なのじゃ~~!」
「「「かんぱーい!!」」」
笑顔で酒を飲みかわす人々。
大友家の面々とも、特に遺恨のない元大内家の家臣たちだ。
会場も和やかな雰囲気である。
「かぁっ! やっぱり勝った後の酒は美味え!」
「道雪、貴女、何もやってないじゃない」
「……案山子」
「鑑理、石宗。私がいたから義隆は降参したんだぜ?」
「まあ、確かに、そうだけれど」
「……不満」
「今回はお前たちの方が何もやる事なかったんじゃね?」
へっへーん!
道雪は得意気に鑑理と石宗を弄る。
鑑理はあきれ顔だ。
石宗は無表情である。
「あのねえ、宣戦布告の雑事等、誰がやっていると思っているの?」
「貴女がやる?」と鑑理は微笑む。
石宗はやはり無表情だ。
彼女の鉄面皮は酒が入っても崩れない。
「そうですよぉー。道雪殿は事務仕事、からっきしじゃないですかぁ」
「鑑速、てめえ、酒よえぇクセに」
「お酒は好きですよぉー」
「だから面倒クセぇんだよ!」
ぐでー。
鑑速は道雪の肩へもたれかかるように彼女と肩を組む。
「あらあら。鑑速はお姉さんのところねー」
「いやぁ、長増殿ー。やわらかー」
「ふふっ。義鑑様みたいね。お姉さんの母性本能くすぐられちゃう」
「え、ワシ、そんなじゃないじゃろ!?」
急に名前の出てきたご当主様が愕然とした顔でやってくる。
「名前を呼んだらすぐ来る辺りとか、お姉さん的には似てるかなって」
「犬みたいじゃの」
まるで他人事だった。
戦に勝利し気分が良いのだろう。
細かい事は気にしないとばかりだ。
酒が入っているのも大きい。
しかし、宴は始まったばかりだ。
「一番、陶晴賢! 一気飲みやりまーす、です!」
「よっしゃ! 私と飲み比べだ、おら!」
「あの二人大丈夫かの?」
「お姉さん知らない♪」
長増はきっぱり言う。
「長増って笑顔でそういう事を言うのよね……」
「じゃが、鑑速の面倒は見るじゃろ?」
「鑑速は彼女にとって子供枠なのでしょう」
「……楽」
「なるほどのー」と鑑理の言葉に納得の義鑑。
鑑理は「義鑑様もですよ」という事を飲み込んだ。
今日くらいは優しくしようと思ったのかもしれない。
石宗は無言で義鑑を見つめる。
目は口以上に物を言うが、子供には聞こえないらしい。
「紹運! この梅茶、上手いぞ!」
「誾千代。ずっとずっと気になってた事があるの」
「何?」
「どうしてどうして私だけ呼び捨て?」
「だって紹運だもん」
「それはそれはどういう意味かな!?」
酒の飲めない子供たちは漬け込んだ梅で入れたお茶を飲んでいた。
大人たちのテンションとは異なるが、こちらはこちらで楽しそうだ。
「市姉ー。紹運がジョウってる」
「お、今日も元気にジョウってるね」
「ジョウってる!?」
「ジョウっとる」
「え、それはそれは共通言語なんですか!?」
「乙姉も乙ってるー」
「オツって……? それは悪口じゃなかと?」
「誉め言葉だよ、姉様」
「じゃあ、よか!」
「私の姉様が今日も可愛い」
「乙姉は馬鹿だね!」
「それは分かると、悪口たい!」
キャイキャイとはしゃぐ女性たち。
そんな和気藹々とした光景を、宗麟は微笑みながら見つめていた。
「宗麟様」
「ん、鑑理。どうしたの?」
「いえ……」
珍しく一人でいるから来た、などとても鑑理の口からは言えない。
用事がないと声をかけられない乙女な彼女だ。
仕事なら問題なくとも、プライベートでは緊張が勝るようである。
もしやチャンス、など思っていない。
見た目は二十代でも通じそうなアラフォーである。
ワンチャンあるかも、など断じて思っていない。
思い切って声をかけた、なんて。
「そんな、そんな恥ずかしい事、私には似合わない……!」
「鑑理、全部漏れてんぞ?」
「ぇ」
ニヤニヤした道雪がいた。
鑑理は目の前の宗麟を見れない。
「鑑理は可愛いね」
これには宗麟もニッコリ。
「あ、死んだぞ、こいつ」
「鑑理殿、かーわーいーいー」
「はいはい。ほら、鑑速。お姉さんのとこにおいでー」
「はーい!」
「二階崩れの変の時も思いましたけど、大友家は愉快です」
「晴賢ちゃんよぉ、大友家の一部だぜ、あれ」
「そうです?」
晴賢は横を見る。
宗麟に誰が酒を注ぐかで、諸将による醜い争いが行われていた。
「そうです?」
「いや、わりぃ、いつもこんなだわ」
「ですです」
「そういえば」
ここで。
宗麟が思い出したように手をポンと打つ。
一瞬で宗麟へと身体を向け、静寂が場を支配する。
訓練されたかのようなそれは、芸術の域であった。
「旧大内家の所領を誰が統治するかなんだけど」
お酒の席でその話するぅ?
などと言う輩はここにはいない。
宗麟の深い御心に従うまでだ。
完全に宗教である。
「大内家の家臣さんたちがそのまま統治で良いと思うんだ」
元大内家の方々がガタリ。
驚きで酒を零す人までいた。
「そ、宗麟さん? それで、良いのです?」
晴賢は恐る恐る聞く。
普通は大友家の者が出張ってくる。
それが戦国の世の習わしだ。
「一応、当主は大友家から出すけど、実質的な政務は任せた方が効率良いと思うよ?」
対して、宗麟は不思議そう。
「その方が良いでしょ?」と、ただそれだけの顔である。
元大内家諸将は、
「「「ありがとうございます!!」」」
揃って、宗麟へと頭を下げた。
宗麟の御心に触れた瞬間だった。
信者が増えた。
「では、誰を派遣するかは後程でこちらで候補を出しておきます」
仕事の事なら任せなとばかり。
すっくと鑑理は立ち上がる。
「お、復活した」
「やっぱり紹運と鑑理は親子よね。お姉さん最近よく思うの」
「……酷似」
「え、そうですか? なんだかなんだか照れますね……!」
「これで褒められてると思える辺り、紹運はまだ純粋だな」
「あ、ごめん、鑑理。候補はもう考えてるんだ」
「え……」
「ぶっはー! 鑑理が捨てられた子犬みたいな顔してやがる!」
「道雪笑い過ぎよ。ふふっ」
「長増殿も、笑ってるじゃないですかー。ぷーーーっ!」
「鑑速、こそ。ふふっ、ふふふ」
「あーっはっはっはっは!!」
「義鑑様は笑いすぎです」
「なんでワシだけ!?」
真っ赤な鑑理の照れ隠しの矛先は、義鑑一人に絞られた。
「じゃあ、お願いね。――塩乙丸」
「任せると、兄者! ……何を?」
後日。
元服を行った塩乙丸は『大内義長』となる。
「え、ウチ、何やると?」




