2-23. 決着の時、『大寧寺の変』!②
ニヤリ。
晴賢は黒い笑みを返した。
「戦に回避は存在しません。受けるか、降伏するか。二つに一つです」
ここに!
宗麟の策が成る!
「大友家から宣戦布告をすれば、戦の仕様を決めるのは大内家です」
晴賢は今までの鬱憤を晴らすかのよう。
朗々とその策を義隆へ語り聞かせる。
「そうすれば、義隆様は”団体戦”にするはずです。しかし、それでは不確定要素が多すぎますです。確実に勝つには――」
「大内家から宣戦布告させる必要があったんじゃよ」
晴賢の言葉を継いで。
義鑑が怒りで体を震わせる義隆へ言葉を突きつける。
「そ、それでも!」
義隆はキッと義鑑を睨みつける。
「例えここで負けたとしても! 我が家の男を一人差し出せば終わりでしょう!?」
絶対に許さない。
次は覚えていろ。
そんな心情がありありと義隆の顔に浮かんでいた。
「違うのぅ」
しかし、義鑑は静かだ。
むしろ、その顔には憐憫すらある。
「義隆殿、お主に次ぎはないんじゃよ」
義鑑の言葉に、義隆は目を白黒させる。
理解が追い付いていない。
「分からぬか? そうじゃろうな。何せ、お主は宣戦布告の内容を見ておらんだろうからのぉ」
義鑑の言葉を聞いて。
義隆はサッと顔色を失った。
「え……まさか」
「私は言いましたですよ?」
「晴、賢……?」
「確認しなくて良いですか? って」
晴賢の言葉の通りだ。
義隆は、晴賢へ、戦の事務を丸投げした。
つまり、
「私が布告した賭けの対象は――『当主の座』ですよ?」
何を賭けて戦うかすら、義隆は理解していなかった。
通常、この時代の『戦』は”男を賭けて”行うものである。
しかし、それでは”所領”が増える事がない。
男の行き来だけしか発生していないのだから、当然と言えば当然だ。
ここで、少し昔の話をしてみよう。
大友家が今回、大内家との全面抗争へと至った切っ掛けは何だっただろうか。
肥前の少弐家が大内家に『戦』で負けたからである。
その後はどうなったか。
肥前という所領を奪われたのである。
すなわち。
『 男以外にも戦にて賭けの対象となる物 』が存在する事に他ならない!
それが、『所領』!
そして、『当主の座』!
では、これらが賭けられる時とはいつか。
以前一度だけ触れた話だが、男には”格”が存在する。
『この精からは男児が多く生まれた』等、寺社にて格付けが行われるのだ。
血統書のようなものである。
これにより、賭けるべき対象である『男』の価値において、双方の吊り合いが取れない時が生じる。
それは小国であればあるほど機会があるだろう。
その際に。
領地の一部等を割譲し補填する。
もしくは、当主の座を退き、敵国へ所領を譲る。
それら全ての権益を賭けて争う――これが、『戦』だ!
ここで、最後の質問をしよう。
何故、少弐家はそうも簡単に所領である肥前を取られたのだろうか。
答えは一つ。
――龍造寺による下剋上!
「お、大友家が、賭けるのは……?」
義隆が目を見開いて震える。
その先には、
「僕と」
「私と」
「当主の位じゃ」
大友宗麟。
大内輝弘。
そして、豊後大友家の所領。
これらを合わせた価値が西国一の大国、大内家の当主の位と釣り合っている。
戦を司る巫部と尼たちは、そう判断した。
義隆は呆然と立ち尽くす。
「む、無理よ……」
呟く。
「無理よ」
声を上げる。
「無理よっ!」
叫ぶ。
「無理よぉぉぉおおおっ!!」
絶叫した。
義隆は常日頃から遊んでいた。
鍛錬など久しくしていない。
そんな彼女が立花道雪と一騎打ち。
「勝てる訳、ないじゃない!!」
肩を震わせ、俯く義隆。
しかし、彼女に寄り添う者はその場にいなかった。
彼女の日頃の行いの結果だ。
他人を見下し、こき使い。
自分は贅沢の限りを尽くして遊び呆けていた。
領民に寄り添う事もなく。
税を引き上げ。
他国へと度重なる出兵を強行した。
彼女の人望は、地に落ちていたのである。
「大内殿」
そんな彼女へ。
一人の青年が声をかける。
「宗麟、殿」
魂を失ったかのように顔の色を落とした義隆がいる。
自業自得。
そんな言葉が周囲から聞こえてきそうな最中。
さらに言えば、この状況を作り出したのは宗麟自身だ。
しかし、
「大内……義隆殿。僕は、貴女を待ってます」
義隆はピクリと震える。
「ははっ、さっさと戦を始めろって? 顔に似合わずエゲツないのね、貴方」
「違います」
静かに。
けれども、力強く。
義隆の言葉に被せるように。
宗麟は、言葉を紡ぐ。
「僕は、貴方を本当の悪人だとは思っていません」
「……私の何を知っているのよ」
「何も知りません」
「じゃあ、適当な事言わないで」
「適当な事じゃありません」
「じゃあ、何だって言うのよっ!」
義隆は俯いていた顔を上げる。
癇癪を起した子供のようだ。
そんな彼女を真っ直ぐと宗麟は見つめる。
決して目は、逸らさない。
義隆はウッと息を飲む。
場は完全に宗麟の雰囲気へ。
そして――!
「貴女はとても綺麗な目をしていますから。とても、美しいです。僕は、そんな貴女が更生するのを、いつまでも、待っています……!」
「へ……?」
時が、止まる。
全ての人の、時が、止まる。
「へええええぇぇぇぇぇ!?」
義隆の奇声が空へと抜けた。
「若ぁぁぁあああ!? 敵に海の幸を送ってどうすんだよぉぉぉぉおおおお!?」
「宗麟がこんな時も宗麟じゃったぁぁぁあああ!! もう駄目じゃあああ!?」
「誰ですか、宗麟様に任せちゃった人ぉ! 私じゃないですよ!?」
「鑑速、こんな時までお姉さんたちに罪を擦り付けないで!」
「あぁ、私もそんな事言われてみたいわねえ……」
「母様!? しっかりしっかりして下さい!?」
「……重症」
「鑑理様って面白いな、母」
「誾千代、鑑理が普段からこんななら大友家は即滅びる」
「自覚あったのね、お姉さん感心」
「そこまで馬鹿じゃねえ!!」
「これがあれですか、照れ隠しですか?」
「母、鑑理様の事好きだもんな」
「誾千代、すこーし黙ってようなぁ!?」
「今回は付いて来とって良かったばい」
「何で、姉様?」
「兄者の監視ができるとよ」
「うわぁ、重たい妹……」
「あたいの勝ちー」
「え、誾千代、何の勝負とね!?」
「母様母様! 正気に戻って! アレを止めなくて良いんですか!?」
「どうしたの、紹運? アレ、って……」
「宗麟さーーーん! 私も頑張ったんですぅ!」
「晴賢! 貴方、宗麟様に馴れ馴れしすぎじゃなくて!?」
「義隆様こそ何腕絡めてんですか、邪魔です!」
「邪魔は貴女よ!」
「「「こんの泥棒猫がぁぁぁぁああああ!!??」」」
「あの、勝敗は……?」
「ん、何よ、私は今忙し、ああ。大内家の負けで結構よ!」
「あ、はい……勝者、大友家ーー!」
後の世に。
『本能寺の変』と並び、天下にて”二大下剋上”と謳われた事変がある。
その一つ。
『大寧寺の変』は、ここに成った。
恐らく、成った。
これで、良いのか。
「宗麟様! 何としても、貴方を手に入れて見せましょう! 例え、毛利の手を頼ってでも!!」
「うん、待ってるねー!」
「「「待たないで下さい、宗麟様ぁぁぁあああ!!??」」」
女性たちの怒りの包囲網を掻い潜り。
義隆は東へと落ち延びる。
彼女の置き土産の言の葉は。
次の波乱の、
――はじまり、はじまり~!
まずはここまでお読み頂き、ありがとうございます。
これにて第1章は完結です。
次話は幕間を1話挟み、続いて第2章へと入っていきます。
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