2-22. 決着の時、『大寧寺の変』!➀
――大寧寺。
そこは、本州の西端である長門に居を構える寺だ。
大友攻めを決めた大内義隆。
彼女の考えでは当初、『戦』の全てを晴賢に任せるつもりだった。
しかし、
「折角ですから、大友宗麟殿を一目見てみては?」
という晴賢の提案に一も二もなく飛びついた。
戦など家臣に任せておけば良い。
それが義隆の基本スタンスだ。
けれども、絶世の美男子と名高い宗麟を一目みたいと思ったのだろう。
いずれ自分の物になると高を括っている。
しかし、見れるなら先に見ておきたい。
自分の欲望に忠実な義隆らしかった。
「でも、何で長門を指定してきたのかしら?」
大寧寺でくつろぎながら。
義隆は今更ながらに疑問を口にする。
宣戦布告に関しては晴賢に丸投げの義隆だ。
一々細かい説明を受ける気などさらさらない。
けれども、普通は宣戦布告を受けた側の所領で戦を行う。
地の利があるからだ。
今回は大寧寺を通して宣戦布告をした大内家だったが、大友家は戦地の指定をそのままにした。
つまり、今回の戦は大寧寺で行われる。
「晴賢ー」
義隆は怠そうな声で呼ぶ。
「はい、何ですか?」
ほどなくして、晴賢がやってきた。
「何で大友家はここを指定してきたと思う?」
「そうですねえ」
しばし思案する晴賢。
義隆は早速イライラし始める。
何事も自己中心的な彼女だ。
待たされるのも好きではない。
「恐らくですが、何か策があるのでしょう」
「だからぁ、その策が何なのかって聞いてるのよ!」
ヒステリックな叫び声。
晴賢は思わず顔を顰めてしまう。
分かってはいたが、つい悪戯心が生まれたのだ。
義隆の逆鱗に触れても、もう特に怖いとも思わない。
ただ、それでも煩わしいとは思う。
晴賢の内心で「ぷぷっ」と笑われているなど、義隆は思ってもいないだろう。
今までの憂さを晴らすようだ。
晴賢がどんどん闇落ちしていく。
それも宗麟と会えば晴れるだろうが。
「晴賢様、大友家が動きました」
晴賢が義隆を弄りスッキリとしていると、伝令が伝えらえた。
(ついにきたです!)
既に勝利を確信している晴賢は満面の笑み。
そんな彼女の態度に不思議そうな顔をしている義隆を晴賢は外へ連れ出した。
「さあ、義隆様。行きますですよ」
義隆の心に警戒心が生まれる。
しかし、もう宣戦布告は行われているのだ。
今更帰る訳にもいかない。
渋々と。
義隆は宗麟の待つ戦地へと歩み出した。
△▼△
「へー、へー! 良いじゃない、うん!」
眉間に皺を寄せていた義隆だったが、その顔は一転して嬉しそう。
「えっと……」
困惑顔の宗麟の周りをクルクル。
義隆は宗麟の全身を舐めまわすように見つめる。
羽衣を捲るような事こそしなかったが、初対面でこれは無礼だ。
大友家の皆が殺気立つ。
それでも、義隆はお構いなしであった。
「うん、私の物に相応しいわね!」
うんうん、と一人満足気に頷く義隆。
大友家の怒りのボルテージは最高潮である。
義隆はそれを嘲笑するように見ていた。
なお、義隆の後ろ側でもリミットブレイクしそうになっている事には気付いていない。
「では、これより大内家と大友家の『戦』を始める!」
戦の審判役である大寧寺の僧兵が声を上げる。
今回の戦は寺のジャッジで行われるため、審判も尼だ。
そして。
ここで義隆の表情は一変する。
「今回の戦は”一騎打ち”! 代表者は前へ!」
「……はぁ?」
義隆の口からは間抜けな声。
訳が分からないのだろう。
数秒固まっていた彼女だったが、慌てたように後ろを向く。
「大内家の代表は大内義隆様ですよ」
そこには、にこやかな笑顔を浮かべた晴賢がいた。
「……え?」
義隆は未だ事態を呑み込めていない。
「大友家の代表は」
凛とした顔の義鑑の隣。
ズイと一人が前に出る。
それは、
「私だぜ」
ニヤニヤとした立花道雪だった。
「は、え、ちょ、どどどどういう事よ、晴賢!?」
遂に義隆は言葉を吐く。
意味が分からない。
何がどうなっているのか。
彼女の混乱は周囲が平然としている事で更に加速する。
「い、戦の内容は大友が決めても、大内の代表者はこちらが決められるはずよ!?」
狼狽えながらも何とか頭を回す義隆。
彼女の言う通りだ。
戦の仕様は大友家が決める。
今回で言えば『一騎打ち』だ。
しかし、代表で誰が出るかは提案された各々の御家が決められる。
大友家は道雪一択だろう。
しかし、道雪の本領は”雷切”だ。
一騎打ちである以上、石宗の助力は受け取れない。
如何に道雪とは言え、もしものリスクを考慮すれば一人にその重責を負わせるのも憚られる。
それはどの御家でも同じだ。
エースとも呼べる強者はどの家にもいる。
とは言っても、人である以上、無敵ではない。
そのため、戦の仕様は『団体戦』が主流となっているのだ。
義隆の混乱も頷ける。
話を戻そう。
ここで『一騎打ち』が宣言された。
大友家からは立花道雪。
大内家からは、何故か大内義隆。
義隆の知らぬ内に、特に武芸に秀でている訳でもない彼女が代表として選ばれていた。
むしろ、彼女の武力は底辺だ。
一騎打ちの代表を務めるような逸材ではない。
「晴賢……まさか、貴女!?」
ここで、ようやく。
ようやく、義隆は気付く。
「寝返ったわねぇぇええ!!!」




