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ポストマン・ブレイド  作者: 下総 一二三
我らは"彩花衆(ラフレシア)"

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“彩花衆(ラフレシア)”の面々

“彩花衆(ラフレシア)”の集会として使われている倉庫は、街の中心から外れた工場群の一角にあって、元々は玩具を扱っていたらしい。今も名義上はとある会社の倉庫として稼働していることになっているのだが、“彩花衆(ラフレシア)”のシンパが提供した場所なので近寄る者は誰もいない。

 擬装のために倉庫内には売れ残ったぬいぐるみや、子ども対象のパズルにおもちゃの銃などの玩具が、箱詰めされたままの状態で倉庫の隅に放置されてある。倉庫内には6名ほどの男たちがいたが、時間があるとメンバーの中では、それらを使って暇潰しをしている者もいた。


「まだ集会はじめないのかよ。今日のメンバーはもうあつまったんだろ」


 そのうちの一人、金髪の少年風な若い男がおもちゃの銃で熊のぬいぐるみに狙いをつけて、何度も撃つ真似をしていた。かつてクロンの支援のため、アオルタに潜伏していたピット・オーガである。


「リーマがまだ来ていないからだろう。クロンもいない」


 そのピットと行動を共にしていたルボルト・クリッパが、隣の木箱に腰掛けたまま、ゆっくりと口を開いた。


「リーマとクロンか」


 忘れてたぜとピットは軽く笑った。


「新参のくせに、早々と女つくって同伴出勤かよ」


 ピットの言葉に周囲の人間たちも反応して、同調するような複数の笑い声が起きた。リーマの美貌は誰もがわかっていることだが、彼らも“女”くらいは知っている。いちいち嫉妬や羨望で心が揺れ動くことはなく、寂しさに負けて男に飢えている女と、新参者が早速手をつけている図に単純に可笑しさを抱いていた。


「待っているのもいい加減飽きたからよ。もう始めちわなないか。シーリング・ローゼットの旦那よ」


 ピットは倉庫の奥で、事務机を前に座る黒髪の男に声を掛けた。他はばらけているのにシーリングというスーツ姿の男の周りにだけ、彼を護るように一人の男たちが黙然と佇んでいる。


「……あと5分ある」


 シーリング・ローゼットは腕時計を一瞥すると、低い声で言った。低いがよく通るのをピットはいつも不思議に思っている。


「集合は14時の約束だ。まだ5分ある。時間まで待て」

「お堅いねえ、シーリングの旦那は。さすがはクロノス銀行の銀行マンでいらっしゃる」

「……」

「でもよ。5分程度ならさっさと始めたとこで、何の影響もねえと思うけどよ。待ちくたびれたぜ」

「いい加減うるせえぞ。ピット・オーガ」


 シーリングの左手に立つ坊主頭で茶髪の男が、苛立った口ぶりで声を荒げた。真面目で堅実さを窺(うかが)わせる質素なスーツ姿のシーリングとは真逆なチンピラ風の外見で、模様が複雑に入った紫色のシャツを着ている。


「小僧が駄々をこねてんじゃあねえぜ。シーリングが待てと言ったら待て」

「おい、ケフルさんよ。“彩花衆(ラフレシア)”は皆が同格同等なはずだ。誰が言おうと関係ねえだろ」

「シーリングは俺たちのリーダーだろうが。たとえ同じだろうが、まとめ役の話も聞けねえのかよ。ま、そんなこともわからねえのが小僧なんだよ」

「さっきから小僧、小僧と、誰に向かって言ってやがる」

「チビのてめえ以外いるのかい。声はするがどこにいるか、ちっともわからねえがなあ」

「なんだと?」


 ピットが色をなして立ち上がると、ケフルと呼ばれた男も前に出た。対峙する両者から険悪な空気が生まれたが、ルボルトを始め、周りの人間は誰も気にした様子もない。ピットとケフル・タッカーが毎度、顔を合わせては喧嘩を始める両者には周りも慣れっこになっていた。


「よせ、2人とも」


 シーリングの一言で、あっさりと引き下がるのも毎度のことである。シーリングの言葉には奇妙な威厳や重みがある。ピットはともかく、ケフルは身なりはチンピラ風でも、シーリングを心酔していた。シーリングの仲裁に2人は下がっていったが、互いに睨(にら)み合ったまま目を離さない。倉庫の奥の戸が開き、リーマとクロンが入ってきたのでようやく視線を外したが、そうでなかったら、いつまでも睨み続けていたに違いない。


「どうしたの?」


 不穏な空気を察してリーマが2人を見比べていたが、ケフルもピットも無言のまま自分の場所に戻っていった。リーマとクロンは怪訝な視線をそのままシーリングにぶつけたが、全く表情を変えることなく何でもないと言わんばかりに軽く手を振って、そのまま腕時計を見た。


「時間だ。本日の集会を始める。そのままで良いから聞け」

「……」

「昨日、“紅の国”にいるホルソから連絡があった。明日の午後5時。クローノスの第三埠頭に“アンペア号”という貨物船が入るのだが、ホルソ自身がその船で来る」

「ホルソが?」


 一同がどよめく中、クロンだけが眉をひそめている。話を聞くふりをしてリーマにそっと顔を寄せた。


「……ホルソとは何者だ」

「知らないのか」

「なにせ新人だからな。教えられていないからわからない」

「真面目な顔をして、バカなこと言うな」

「で、誰なんだ」

「ホルソ・コード。“彩花衆(ラフレシア)”の支援者、つくりあげた男だ。各国を相手に貿易商をしている男らしいが、普段、表に出ないから代理人を使っている。シーリングもそのひとりなんだが、私たちもホルソに会ったことない。武器商人として名を挙げた男だが、本当に知らないのか?」

「そういえば軍にいた時に、なんとなく耳にしたことがある気がするな」

「随分と頼りないことを言う」


 リーマは顔をしかめた。

 顔を一切表に出さない武器商人の存在については、噂話で聞いたことがある。だが、戦場を渡り歩くクロンにとっては雑談のネタのひとつでしかなく、存在や真偽についてまでは関心など全く関心がわかなかったのだ。


「そんな奴がなんでここに」

「それを今から話すのだろうが。シーリングの話を聞いていろ」


 切り口上で答えると、リーマはクロンから離れて、少し横へと距離を取った。それ以上は訊くなと言っているようだった。2人のやりとりは低く、素早く交わされていたので、声に気がつく者はいなかったようである。

 ただ、クロンの真正面に位置するケフルは、クロンの浮かべたわずかな笑みを見逃さなかった。実際はリーマの突き放したような回答に対して自嘲気味な苦笑いしただけの笑みなのだが、端から見ると腹に一物ある野心家がほくそ笑んでいるようにも映る。


 ――何を企んでいやがる。


 リーダーの座を狙っているのではないか。

 そんな不穏な噂がメンバーの間にも流れている。噂は確信へと変わり、ケフルはクロンへの警戒心をますます強まっていくのが自分でもわかった。目の端に入れながらクロンの様子を窺っていたが、不意に流れ込んできたシーリングの言葉がケフルの耳朶(じだ)を打った。


「ホルソ自身が来る理由は、その船に“我々に必要なもの”を載せているからだ」

「必要なもの?変な言い方だな。なんだいそりゃ」


 ケフルが訊ねると、シーリングは無言のまま首を振った。やがて、わずかな沈黙の後に発したシーリングの内容は、ケフルが自分の耳を疑うものだった。


「……今回の仕事をクロン・ステイシア、リーマ・クリックの2人に行ってもらう」


 驚いたのはケフルだけではなく、他のメンバーも同じらしい。工場内に響くざわめきには、先ほどとは違って戸惑いの響きが含まれていた。真っ先に声を挙げたのはピットだった。


「シーリング。新参者のクロンにやらせるのかよ」

「クロンは元抜刀隊の隊長だ。腕は十分。リーマとの相性もいい。殺気だった男たちだけより、女もいた方が向こうも安心する」

「……」

「目立たない少人数で、一人は女。これはホルソからの要望でもある」

「そりゃ、そうかもしれないけどよ……」

「人手も足りない。つべこべ言うな」


 寡黙なシーリングも、仲間に釘を刺すタイミングを狙っていたのだろう。それまで、平坦ですらあったシーリングの語気が幾分強めであるのを、“彩花衆(ラフレシア)”の面々は感じていた。仲間たちを見渡した最後に視線をクロンへとぶつけた。


「どうだ、やれるか。クロン」

「俺は構わないが、ホルソという奴と会って何をどうすれば良い」

「それは今は言えない」

「言えない?」

「少しでも情報は漏れてはいけないからだ。私の銀行でも書類の確認や記憶するために、顧客な大事な個人情報をブツブツ呟く奴もいるんでね」

「しかし、俺はホルソを知らない。リーマや他の連中だって顔を知らないのに」

「ホルソと接触する手段は教える。後はホルソに直接会えば、何をすべきかわかることだ」

「……」

「おい、シーリング。俺にもやらせてくれ」


 ケフルが横から割り込むようにして言うと、シーリングは目を糸のように細めてケフルを注視していた。


「……何故だ」

「少人数で目立たなきゃいいんだろ。ホルソがやって来て“必要なもの”を渡すのにサポート役は必要だろう。俺は見ての通りチンピラ。誰もリーマの仲間と思わねえさ」


 シーリングはケフルの申し出にじっと耳を傾けていたが、悪くないと判断したようである。「よし」と小さな声で言った。


「お前の力なら充分だろう。ただし、あくまでもお前はサポートだ。そこを間違えるなよ」

「わあってるよ。俺だって“彩花衆(ラフレシア)”の一員だ。“大義”の二文字くらいは知ってるぜ」


 休戦までの5年間、スラム街で過ごした時期もあって、ケフル・タッカーの見た目も言動も粗雑で街の不良と変わりはないが、内には没落したタッカー家長男としての誇りを秘めている。


「頼んだぜ、クロンちゃんよ」

「ちゃん……」

「ヒッヒッヒ、つまらないことにこだわって、不満な顔するなって」


 ケフルの表情には卑しさを感じるほどの笑みを満面に浮かべていたが、細めた目の視線はずっとクロンを捉えて離さない。

 サポート役に徹するのは確かではあったが、ケフルにとっては不信感を拭えないクロンへの監視も兼ねている。だが、表立って言えば、大仕事を請け負うクロンへの嫉妬とも受け取られかねない。

 それは“大義”があるケフルにとっては、心外なことなのだ。


「俺たち“彩花衆(ラフレシア)”は、彩王朝の再興を目指す仲間なんだからよ」

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