人と魔
瞬間移動で私たちは今、王都の目の前にある森の中にいた。
さすがに二人同時に移動するとなると、距離も縮んでしまった。今頃王都では私の回復魔法が発動しているころだろうか?
最初から人を殺すつもりはなかったが、今回の件に関しては正直危なかった。
もし、アリーが止めてくれなかったら、どれほどの人を殺してしまっただろう。
「アリー、あなたはこれからどうするつもりなの?」
私がそう問いかけるとアリーは悲しそうな表情を浮かべた。
「そうね、私の居場所はあの場所だけだったからどこにも行く当てはないわ」
行くところがないのか、どうすればいいだろう。
アリーを迎え入れてくれるところ、優しい人たちがいるところ、あ!一つだけあるわ。
「アリーあなたの住めそうなところを考えていたのだけれど、一つだけ見つかったわ。よかったら行ってみない?」
「アリシアがそう言うなら、私はそこにでも行くわ。それにもうどうすることもできないしね。それであなたの言っているところはどこなの?」
アリーがそう聞いてくると私は、秘密とだけ言って森の中を進みだした。
「アリシアもう疲れたわ、どこかで休みましょう。というかあなたの魔法で一気にその場所まで行くことはできないの?」
「冗談きついわ、私一人ならまだ可能性はあるけど、あれは魔力の消費が激しいの。それに体にかかる負担も尋常ではないわ」
私は最近新しい魔法を次々と覚えているが、そのうちのほとんどが防御やサポートの魔法である。私にとって唯一の攻撃魔法と言ったら、違う感じもするが重力魔法だけだった。
そのせいで最近は肉弾戦の方が私に向いているような気がしてきた。
「ね~どこかで休もうよ、私もう疲れたわ」
ますますアリーが駄々をこね始めた、あれから結構な時間を歩いているが一向に道が開ける気配はなく、永遠と続いているように見えた。
「分かったわ、今日はこの辺で寝ましょう。一応私たちの周りには結界をはっておくから安心して眠っていいわよ。ってもう寝てるし」
アリーは私の話を聞く前に、木にもたれかかりながら寝ていた。
私もそれにつられて眠ろうとしたが、そうはできなかった。何かに取り囲まれていた。
「100はありそうね、それにこの嫌な気配もしかして危険区域に入ってしまったかしら」
一つ一つの山々にはそれぞれ入ってはいけない危険区域がある。それは人の生と死の境目でもあり魔獣と人の均衡を保つものでもある。
もしその区域に入ってしまったら殺されたって文句を言うことすらできない。この世界ではそう決まっているのだ。
はるか昔に人間世界の王と魔の世界の王とが長い争いの中で契られた契約。
私がそんな風に考えている間にまがまがしい気配が一層強くなった。私は意を決して結界の中から出た。それと同時に闇の中から大きな棍棒を持った鬼と私たちを取り囲んでいる、ゴブリンやオークたちが現れた。
「人間の気配がしてきてみれば、女じゃないか。もっと骨のあるやつを期待していたのだが楽しめそうにないな。お前たち始末しておけ」
「ちょっと待って、一応あなたが何者なのか聞いてもいいかしら。死ぬ前に自己紹介をしてもいいんじゃない」
私は相手の気を逆撫でするように言った。
「いいだろう、俺はこの山一帯の番人をしているオーガストだ。せいぜいそいつらに遊んでもらうんだな」
一応話は通用するようね、でもこんな時は力でねじ伏せるのが一番効果的なのは私が一番知っているわ。
「そうね、思う存分に楽しませてもらいましょうか」
私はあいさつ代わりにオーガストの目の前まで瞬間移動をして持っている鉄のこん棒を握りつぶしてみた。オーガストは瞬時に自分の前に現れたことではなく、女からは想像もつかない怪力に驚いているようだった。
「お、お前の名前をまだ聞いていなかった。何というんだ?俺だけ言うというのはおかしな話ではないか」
気が付けば私たちを取り囲んでいた、魔物たちの姿はなく私と鬼だけの空間となっていた。
目の前の鬼は見てわかるほどに震えていた。
「そうね、物事には順序っていうものがあったわね。
私の名前はアリシア、これが最後になると思うけれどよろしくね」
そう言って私は一瞬にしてオーガストのかたに座り頭をつかんだ。
「問題です、私がこのままあなたの頭を握ったらそうなるでしょうか」
「や、やめてくれ。お願いだ何でもする、ほしいものは何だ、金か?下僕か?
とにかく何でもするから、それだけはやめてくれ」
思った以上に簡単だった。さっきの大きな態度をとっていた姿はどこにもなく、ただただおびえている鬼の姿がそこにあった。
「何でもするのね、それじゃあ人を殺すのはやめなさい。それだけを守ってくれれば殺さないわ。でもね、もし約束を違えたときはどこにいようと私が命を狩りに行くわ。それともう一つ、あなたたちの世界の魔王と話をさせなさい。期限は明日の昼まで、分かったらもう行きなさい」
私が肩から飛び降りると、オーガストは深いお辞儀をしてから闇の中へと消えていった。
「意外と礼儀だたしいのね」
私はアリーのもとへと帰りぐっすりと眠っているアリーにもたれかかるようにして眠りについた。




