狂乱
部屋に帰った後、私は少しだけ胸騒ぎがしたがすぐに眠ってしまった。
「アリシア助けて!」
目の前には、血だらけのアリーの姿があった。その後ろには、返り血を浴びたラジエルとマキシムの姿。
何が起きているのか全く分からなかった。
なぜ、アリーが血だらけなのか、なぜラジエルたちはそんなに笑顔なのか。
私はとにかく助けに行くためにアリーのそばに向かった。でもいくら走ってもアリーに近づくことができなかった。
徐々に背後から忍び寄るラジエルたちの姿。そして剣を振り上げ
「やめて!おねがいだから.....」
その瞬間目の前が真っ暗になり、気が付けば私はベッドの上に倒れていた。
「なんだ、夢か」
夢だと気が付いて安心はしたが、なぜか落ち着かなかった。
こんなことがあるときは必ず良くないことが起きる、これは絶対に言える。
私はベッドから降りて着替えることにした。
その時だった。
ドーン!
近くからとてつもなく大きな破壊音がした。
それと同時に扉が開き、アリスが飛び込んできた。
「そうしたのアリス」
「アリシア大変なの、この王宮にある図書館から巨大蜘蛛が現れたのよ。
今、お父様とお兄様、ラジエル、それと兵たちが向っているから絶対にこの部屋から出てはいけないわよ」
なんで、なんで見つかってしまったのよ。もしかしてあの時の兵が言ってしまったのか。
そんなことよりあいつら相手にアリーが勝てるはずがない、急いで助けに行かないと。
「アリシア...」
「アリシア聞こえた?今、どこからかあなたを呼ぶ声が聞こえたわ」
今のは確かにアリーの声だ、待っていなさいアリー。
今すぐに助けに行くわ
「ちょっとアリシアそこに行くのよ、外には巨大な化け物がいるのよ」
「アリスごめんなさい、ちょっとだけ行ってくるわね。あなたはここにいなさい。大丈夫、私を誰だと思っているの」
アリスはしぶしぶ扉の前をどいてくれた。
私はとにかく急いでアリーのもとへ向かった、とにかく急いで、私を止める兵たちの声も無視してひたすら走った。
そしてようやく図書館のたどり着いた。
大きな扉の前には鎧を着た兵たちがたくさんいた。私はその兵たちをかき分けて中に入った。
するとそこには、ぼろぼろになったアリーの姿と、返り血を浴びたおじさま、ラジエル、マキシムの姿があった。
夢と一緒だ、あの夢は私にこのことを伝えてくれていたんだ。
「あなたたち、何をしているの?」
私はアリーとラジエルたちの間に入り込んで大声でそう言った。
ラジエルたちは私のいきなりの登場に驚いているようだった。
「もう大丈夫よアリー」
私の声を聞くと、アリーはぐたりと倒れこんんだ。
「アリシアその化け物から離れるんだ。死にたいのか」
一番に口を開いたのはラジエルだった。アリスも言っていたけど私の友達に対して化け物なんて許せないわ。
「あなた今言った言葉、取り消しなさいよ!」
「大丈夫だアリシア。お前はこの化け物に操られているだけなんだ」
私の言葉を無視して口を開いたのは、マキシムだった。
「マキシムあなたには失望したわ、所詮兄弟の絆なんてそんなものなのね。
それと、行っておくけどこの子は私の唯一の友人のアリーよ」
私はこの状況で冷静でいられるのが嘘みたいだった。
「さぁアリシアこっちに来るんだ」
おじさまが優しげな声で、私を促そうとした。
当然私は行くつもりはない。その時、後ろから弱々しくも淋しげな声が聞こえた。
「アリシア、私のことはもういいの。十分楽しい思いをさせてもらったわ、さあ行きなさい」
「アリーあなたまでなんてこと言うのよ、私たちは友達でしょう?絶対に助けるって約束をしたでしょう」
その時体の中で何かが割れるような音が聞こえた。
「おい化け物、今更命乞いをしても無駄だぞ。
お前たちは生きる価値もないただの化け物なんだからな。さぁ早くこっちに来るんだアリシア」
ラジエルがそう言った瞬間、私の中の何かが完全に砕けた。それと同時に精神が研ぎ澄まされ、魔力の流れるような感覚を味わった。
「あなた今の言葉を撤回しなさい」
「何を言っているんだアリシア。くそっこうなったら力ずくでも助け出すしかないようだ。行くぞマキシム」
ラジエルたちは剣を片手に襲い掛かってきた。
「そう、分かったわ。それがあなたたちの出した答えなのね、いいわこれまでに味わったことのない絶望と恐怖を与えてあげる」
私はアリーに防御魔法と治癒の魔法をかけた。これだけ気が回っただけでもすごいと思う。
この時私は正気の沙汰ではなかっただろう。
「ダークボール」
私は力の差を見せつけるためにどうすればいいか考えた。そして考えた結果、それを素手でつかんで握りつぶしてやった。
「アリシア今助けてやるぞ」
マキシムはわけのわからなことを言って、私に剣を振りかざしてきた。
私はその剣を軽々とよけ、マキシムのお腹に怒りの一撃をくりだした。だだのパンチだけど。
あれ?やりすぎちゃったかな、たぶんあばら骨は折れてるだろうね。
「そうね、早く助けてほしいわ。今、とてつもなくあなたたちを殺したいもの。絶望と恐怖の中死んでいく姿を早く見たいものだわ」
狂っている。こいつらはそう思っただろう、でもそんなことは気にしないわ。
こいつらを殺してしまえばそんなこと思われないのだから。
「お願いだ、もうやめてくれ。このとうりだ」
横から口をはさんできたおじさまは、床に頭をこすりつけて謝ってきた。だが、怒りで何も考えることができない私はその頭を踏みつけた。
「先日私の言ったことは覚えているかしら、おじさま?せっかく警告してあげたのに、あなたたちはそれを無視した。すべては王であるあなたの責任よ、死んで詫びなさい」
「違うんだ、ただわしは怪物がいると聞いただけなんだ」
「だからあなたは悪くないといいたいのね、あなたが兵から報告を聞いたのは知っているわ。それじゃあ先にその兵を殺しましょう。
まぁ、誰がその人なのかわからないんですけどね。一人ずつつぶしていけば大丈夫でしょう」
私はしらみつぶしに、兵たちを潰していった。命まではとらなかったが、腕がもがれて発狂している物や内臓がつぶれ気絶しているものもいる。
「アリシア、もう、もうやめてくれ」
立つことすらままならないマキシムが私の足をつかんでいる。私は倒れた兵の剣を持ちマキシムに振りかざそうとした。
「体が動かないわ」
気が付くと私の体には蜘蛛の糸がまとわりついていた。急いで取ろうとしたが、びくともしない
「アリー早くこの糸をほどきなさい」
「アリシアもういいの、ほらこのとうり傷一つないわ。だからねもういいの」
アリーという存在は、私のなかでとても大きなものになっていた。だからこそ、こんなことをしてしまったのだろう。アリーの言葉のおかげで私は正気を取り戻した。
目の前には、見るも無残な兵たちの姿、身動きも取れずただ涙を流しているだけのラジエル、マキシム、おじさまの姿があった。
「ラジエル、マキシム、そしておじさま、私は悪いことをしたとは思っていないわ。それと私はこの王都を出ようと思うの、もちろんアリーとね。ここでの生活は楽しかったわ。最後にみんなにお土産をあげるから楽しみにしといてね」
そして私は瞬間移動の魔法を使おうとしたとき、ラジエルが一言がだけ言ってきた。
「アリシアまた会えるよな?」
「ええ、いつかね」
そして私たちは姿を消した。
それと同時に、王宮全体に癒しの歌声が流れた。兵たちは次々と起き上がりラジエルたちの傷も見る見るうちに回復していった。
「これだから、俺はお前をほしいと思うのだな」
ラジエルとマキシムのつぶやきが静かに響き渡った。




