防犯カメラに映り込んだ、暗闇のノイズと白い影
四日目。
透はいつものように、マスターキーをキーリングに結着する。
懐中電灯も忘れず机の上に用意する。
腕時計を左手にはめて、時間が正確かチェック。
いつもの変わらぬ流れ。
透が指さしで必要なものを持ったか改めて確認していく。
「透。
今日はお前ここにいろ。」
唐突に勝から声をかけられる。
「え?
いや、僕が行きますよ。」
透は食い下がる。
何故なら、あの部屋のことを確認しないといけない。
「いいから。」
勝が右手を差し出す。
装備を渡せということだろう。
「いや…。」
透が反論しようとする。
しかし、勝から有無を言わさぬ目線が飛んでくる。
「了解…。」
透は装備を勝に渡していく。
「カメラを見ていてくれ。」
勝がマスターキーを結着しながら言う。
「もし…何かあったら…。
いや何でもない。」
勝が左腕をさすりながら言う。
勝が何か不穏なことを言いかけたような気がする。
透はその言葉の真意を探ろうとする。
しかし、透を無視して扉を出る。
「行ってくる。」
勝は巡回に出かけていった。
透はその勝の雰囲気から、何か胸のザワつきを感じていた。
今日は突然、カメラを確認することになってしまった。
(やっぱり、314号室には何かあるんだろうか?)
そんな風に思いながら、カメラを切り替えていく。
施設内にある出入り口を中心に確認していく。
不審者がいないか。
何かトラブルが起こってないか…。
ふと、客室廊下のカメラに目が留まる。
(勝さんは今、二階か…。)
勝は左腕をさすりながら、しきりに後ろを気にしているように見える。
「どうしたんだ?」
透は勝の行く先を予測してカメラを切り替えていく。
「後ろに何か…ある?」
カメラで確認しても、何もない。
お客様が歩いている形跡もない。
なのに何故か、勝は後ろを気にしている。
「勝さんもビビってんのか?」
言ってみたはいいが、そんな雰囲気ではない。
勝が階段を昇っていく。
「次は三階か…。」
無意識に勝を追ってカメラを切り替えていく。
勝が歩いていく。
もう少しで、例の314号室に辿り着く。
映像が一瞬、揺れる。
「あれ?」
また、映像が一瞬揺れる。
おかしい。
「なんだ?」
接続が悪いのかとパソコンの後ろを確認する。
何も異常はない。
透はカメラに目を戻す。
勝が例の314号室の前に立っていた。
勝は扉に向いて、酷く狼狽しているように見える。
「え?
何が…。」
その時。
映像が砂嵐になった。
透は砂嵐になったカメラに焦る。
他のカメラに切り替える。
普通の映像だ。
しかし、勝のいる314号室が映るカメラだけが砂嵐になっている。
透は直ぐに無線を入れる。
「守衛室より勝さん!
守衛室より勝さん聞こえるか?」
ザー…。
無音でもない。
無線の先からはノイズが入ってきている。
透は構わず、無線のボタンを押す。
「守衛室より勝さん!
聞こえるか!?」
ザー…。
ノイズは続く。
「どうなってるんだ?」
その時、カメラが復活した。
透はカメラを食い入るように見る。
勝は依然として、314号室の前にいた。
酷く狼狽えている。
ふと、違和感を覚える。
勝の背後。
視線をそちらに移動させていく。
老婆がいた。
その老婆が勝にゆっくり近づいていく。
着物を床に擦りながら、ゆっくりと…。
「勝さん!」
勝は気付いていないのか。314号室を凝視したまま動かない。
尚も、老婆はゆっくり勝に近づいていく。
老婆が進むたび、着物が床を移動する。
透は無線に力いっぱい叫ぶ。
「勝さん!」
ザー…。
老婆が勝の直ぐ後ろまできた。
そして、老婆はゆっくりと左手を差し出す。
老婆が勝の左腕を掴もうとする。
カメラがまた、砂嵐になった。
透は呆然とする。
しかし、直ぐに振り切った。
「勝さん…!」
透は直ぐに守衛室を飛び出した。
なりふりかまっていられなかった。
透は勝のもとへ走り出す。
透は客室廊下に出る扉に走っていた。
もう少しで、その扉。
透は手を伸ばす。
不意に扉が開いた。
「え?」
驚く透の前には勝がいた。
「おっと…!」
急に現れた透に勝も驚く。
「何やってんだ!
守衛室空けたらダメだろ!」
透は意味が分からなかった。
後ろを振り向く。
ぼんやりと光る守衛室の明かり。
そこから、見えるモニターの映像は正常に戻っていた。
あのカメラの先で勝は襲われそうになっていたはず。
しかし、勝はどうにもないように見える。
「何かあったのか?」
勝が透に聞く。
透は肩で息をして、勝を見ることしかできなかった。
「戻るぞ。」
勝は透の背中を押す。
透と勝は守衛室に戻ることになった。
透と勝は守衛室に戻ってきた。
カメラは正常に戻っている。
老婆もいない。
「何があった?」
勝は冷静に聞く。
「いや、こっちのセリフですよ!
勝さん!大丈夫なんですか?」
透が勝に触れて、無事を確認する。
「なんだよ!
気持ち悪いな!
大丈夫だよ!」
勝はされるがまま、怪訝な表情で透を見る。
「だって、お婆ちゃんが…!」
透は言い淀む。
勝は無事。
もしかしたら、僕の見間違いかもしれない。
しかし…。
透はカメラを見る。
あれが嘘とも思えない。
勝が大きくため息をつく。
「何を見た?」
透は咄嗟に振り返る。
「か、カメラにお婆ちゃんが映ってて…。
勝さんを襲おうとして…。」
透はしどろもどろになりながらも伝える。
勝が再度、大きく溜息をついた。
そして、左腕をさすり出した。




