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ベッドの軋む音〜夜間警備で聞いた、誰もいない314号室の秘密〜【5話完結】  作者: さく


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2/5

誰もいないある部屋から響く、ベッドの軋む音

二日目。


透はいつものように、マスターキーをキーリングに結着する。

懐中電灯も忘れず机の上に用意する。

腕時計を左手にはめて、時間が正確かチェック。


今日も忘れがないように指さし確認する。

「よし。

全部OK。」


忘れはない。

今日も相勤者は勝だ。

何故か夜勤で一緒になることが多い。


「巡回行ってきます。」

透が勝に向かって、声をかける。


「おう!」

勝はカメラに目を向けたまま、右手を上げる。


「また、足音したら教えろよ。」

勝は横目で透を見る。

その顔はニヤついている。


「もう止めて下さいよ!」

勝が茶化す。

それを透は空元気で返す。


守衛室を出る。

いつも通りの真っ暗な廊下。

先が見えないくらいだ。


透は昨日のことが頭を過る。

(あのオヤジ…。)

勝のことを恨みつつ、懐中電灯のスイッチを入れる。


懐中電灯の光で不気味に照らされる廊下が恐怖を駆り立てる。

(これから巡回だって言うのに…。)


少し足が震える。

しかし、行くしかない。

透は足を前に出す。


コツ…。


透は客室廊下の扉まで足早に向かっていった。




透は客室廊下の扉を開ける。

廊下に入り込む光。

やはり、この光には安心感がある。


扉から顔を覗かせて、左右を確認する。

お客様はいない。

(よし…。)


ふと、ガラス張りの扉が目に入る。

(今からあそこに近づくんだよな…。)

昨日のことが再度、頭に過る。


(あの音…。)

思いかけて、それを振り払うように首を横に振る。


(反響、反響。)

そう自分に言い聞かせる。

そして、意を決して客室廊下に出る。


シュ…。


一瞬、心臓が跳ねる。

しかし、思い直る。

(俺はすり足なのかもしれない。)


ガラス張りの扉に向く。

(行くぞ!)


透はカーペットの上を歩き出した。




ガラス張りの扉の前に立つ。

今日は自分がガラスに映ることは分かっている。


外は真っ暗で何も見えない。

しかし、廊下と自分が映っている。

光の加減でそうなるのだろう。


目線が自然とガラスに映る、自分の背後に向く。

(何もいない…。)


(当たり前だよな…。)

そう思う。


(いてたまるか!)

そうも思って、自分を鼓舞する。

自分がナイーブになっていただけなのだ。

透は折り返し、客室廊下を歩いていく。


シュ…シュ…。


また、あの音だ。

背中に怖気が走る。


透は立ち止まる。

すると、音も止む。

透が再び歩き出す。


シュ…シュ…。


音が遅れて聞こえてくる気がする。

(錯覚だよな?)


透はまた立ち止まる。

やはり、音は止む。


心臓が高鳴る。

(確認しなければ…。)


恐る恐る振り返る。


誰もいない。


「はあ…。」

自然と溜息が漏れる。


ふと、ガラス張りの扉が目に入る。

そこに映る自分の姿。


不安の表れか少し猫背で、前かがみになっている。

(あれ?

俺…こんな歩き方だったのかよ…。)


自分を恥じる。

自分の中では、背筋を伸ばして歩いているつもりだった。


恐怖ですり足になっていたのかもしれない。

(俺のせいじゃんか…。)

透は安心して、背筋を伸ばす。


自分の背筋を伸ばした姿に相槌を打つ。

(よし!)

透は再び歩き出す。


シュ…シュ…。


まだ、少し怖い。

だけど、幾分かましになった。


まだまだ、客室の巡回は長い。

透の足取りは、軽くなっていた。




透は客室廊下の巡回を続ける。


扉を指さし確認。

(開いてない。)


証明を指さし確認。

(切れてない。

明るい。)


客室廊下を突き当たりまで歩いて、折り返していく。

いつの間にか、シュという音も気にならなくなっていた。


(猫背はダメ…。)

背筋を意識する。

そして、真剣に指さし確認をして歩いていく。


ギシ…。


(ん?)

透は一瞬なんの音か分からなかった。

耳を済ます。


ギシ…ギシ…。

確かに聞こえた。

しかし、音の出所が分からない。


ギシ…ギシ…。

音を頼りに耳を済ませ、探していく。


(ここか…?)

一つの客室に近づき、耳を済ませる。


ギシ…ギシ…。

一定の感覚を持って、何かがなっている。

その音は、止むことなく鳴り続けている。


(なんだ…?)

中を確認することはできない。

客室の中はプライベートな領域だ。


不思議だったが、そのままにしておいた。

(勝さんに判断してもらおう。)


透は巡回を続ける。

その客室から遠ざかっていく。

しかし、何故かその音が耳から離れない。


ギシ…ギシ…。

その音は透の後ろで鳴り続けていた。




コツ…コツ…。


透は守衛室に戻っていた。

(あの音…なんだったんだろう?)


その疑問で、真っ暗なバック通路も気にならない。

純粋に疑問だけが、頭を支配していた。


守衛室の扉に手をかける。

「帰りました…。」


「おう!」

勝がカメラを見ながら、右手を上げる。

そして、横目で透を見る。


「どうした?

また、音がしたか?」

勝は少しおどけた様子で言う。


「いえ…。」

透は流れる動作のように、結着したマスターキーを箱に戻す。


ゆっくりと勝に近づいて、報告をする。

「音は音なんですけど…。」


勝は不思議そうに向き直る。

「なんだよ?」


「今度は客室でギシ…ギシ…って…。」

透は純粋に答える。


「は?」

勝は素頓狂な声をあげ、透を見る。

そして、昨日のように笑い出す。


「なんですか?」

透はまた笑われたことに気を悪くする。


「それはアレだよ。

アレ。」

勝は目尻を拭いつつ言う。


「あれ?」

勝が何を言わんとしているのか、透は分からなかった。


「なんだよ…。

お前…ウブか?」

そして、勝は再び笑い出す。


透は意味がわからず、笑われてることに腹を立てた。




透は顔を真っ赤にしていた。

あの後、聞いたら教えてくれた。

勝からすれば良くあることらしい。


確かにちょっと考えれば分かる。

そういうことだということを…。

それと同時に気が滅入ってきた。


確実にこれからイジられる。

昨日はビビってて、今日はこれだ。


「はあ…。」

透の感情は複雑だった。


(挽回しないと…。)

勝は今、休憩に行っている。

透は守衛室を任されていた。


カメラを見つめる透。

(あの客室…。)

客室のカメラに目をやる。


透は気まずくなって目を逸らす。

カメラを切り替えて、別のところを見ていく。


「報告しなきゃよかったな…。」

透は独りごちる。

そういうわけにはいかないと分かっている。


でも、少し受け入れがたかった。

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