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ベッドの軋む音〜夜間警備で聞いた、誰もいない314号室の秘密〜【5話完結】  作者: さく


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1/5

夜間巡回と、背後に這い寄る足音

一日目。


透はいつものように、マスターキーをキーリングに結着する。

懐中電灯も忘れず机の上に用意する。

腕時計を左手にはめて、時間が正確かチェック。


いつもの巡回セット。

それを指差し確認する。


透は少し忘れっぽかった。

なので、いつも指差し確認は忘れないように心掛けている。


今日の相勤者は上司の勝。

声が大きく、豪快だ。

勤続20年のベテランで、この建物のことも熟知している。


「巡回行ってきます。」

守衛室でカメラを見ている勝に向かって、声をかける。


「おう!」

勝はカメラから目を離さず、右手を上げる。


透がドアノブに手をかける。

「幽霊に会ったら、ちゃんと挨拶しろよ。」

勝はカメラから目を離さない。

しかし、顔がニヤついているだろうことは想像できた。


「止めて下さいよ…。」

そう言いつつ、震える手でそれを回し、重い扉を押し開けて室外に出る。


廊下の先は、まるで光を拒絶しているかのように真っ暗だ。

昨今の省エネ対策によって、必要最低限の明かりすら消されている。


廊下の先は、まるで光を拒絶しているかのように真っ暗だ。

昨今の省エネ対策によって、必要最低限の明かりすら消されている。


「はあ…。」

透から無意識に溜息が漏れる。

そして、指で探るように懐中電灯のスイッチを入れる。


真っ暗な廊下が、ぼんやりと照らされた。

勝の言葉を真に受けているわけじゃない。

しかし、その頼りない明かりが、かえって周囲の不気味さを増しているように感じる。


背中に虫が這い上がるような怖気を感じる。

(巡回に行く前にこんなことでどうする……)

心の中でそう自分に言い聞かせ、気合を入れる。


「どうした…?」

背後から悍ましい声がした。


「ひ!」

心臓が跳ね上がり、背筋が凍りつく。透は恐る恐る振り返った。

そこには、ニヤついた勝の顔があった。


「早く行ってこいよ。」

勝はその笑みを浮かべたまま、透の背中を強引に押し出した。


「はい…。」

透は懐中電灯に照らされた廊下をゆっくり歩き出した。


◇


コッ……コッ……

自分の革靴の音が、静まり返った廊下の壁に跳ね返る。


(気になっちゃうな…。)

透はそう思った。

日中はそれほど、気にならない。


しかし、深夜の廊下には従業員がほぼいない。

何故かいつもより響いて聞こえた。


コッ……コッ……

しっかりと行き先を照らしつつ、震える足を前に出す。

目的の扉が見えてきた。


ここまで来れば一安心。

扉までの足取りが心なしか早くなる。

そして、ドアノブを気がはやるように回した。

眩い程の光が廊下に入ってきた。


ここから先は客室が並んでいる。

宿泊客が歩き回る可能性があるので、電気が消されることはない。


「ふう…。」

透は安堵の表情で胸を撫で下ろす。


客室の廊下に躍り出る。

廊下を煌々と照らす明かりに、張り詰めていた心がすっと解けていく。

それを実感できたのは、この仕事に就いて初めての経験だった。


少し軽くなった気持ちで足を前に踏み出した、その時。

「おっと……。」


(危ねえ……。)

懐中電灯が点灯したままで廊下を照らしていた。

慌ててスイッチを切る。


この不気味な光はもういらない。

逆にお客様を照らしてしまえば、お叱りを受けてしまう。

先ほどまでの強張った顔から一転、透に少し笑みが戻った。


目線を前に戻し、廊下の先を見る。

夜も更けて、深夜と呼ばれる時間帯。

宿泊客は寝静まって、人気はなく、耳が痛くなるほどの静寂に包まれている。


しかし、先ほどまでの恐怖はない。

透は少し軽快な足取りで、巡回を進めた。


◇


客室廊下はカーペットになっている。

先ほどまで響いていた革靴の音は聞こえない。

それも透の足取りを軽快にさせていた。


透は客室廊下を歩いていき、確認事項をこなしていく。

――扉の開錠なし。

客室扉に指さし確認をしていく。


――電球の球切れなし。

廊下を照らすライトにも指さし確認していく。


廊下の突き当たりにある扉は、ガラス張りになっていた。

透の頭に、巡回中にいつも感じている疑問が浮かぶ。


(何でここはこうなんだ……?)

そのガラスの奥、暗がりの向こうは非常階段だ。


――そこへ、黒い影が浮かび上がる。


「……!」

喉の奥が引き締まり、透の心臓が激しく跳ね上がる。

声を出してはいけないという理性が、辛うじて悲鳴を噛み殺させた。


しかし、それはガラスに突然現れた、自分自身の姿だった。

ゆっくりと心臓の高鳴りが溶けていく。


「はあ……」

自分の情けなさに、思わず溜息が漏れた。


ふと、ガラスに映る自分の背後が気になった。

誰かが後ろにいるかもしれない。

そんな根拠のない考えが頭を過って、背中に虫が這うような怖気が走る。


(何でこんなこと考えちゃったんだ?)

透はその無意識に出てきた暗い想像に、激しい自己嫌悪に陥る。


――背後が気になって仕方がない。

誰かがいるかもしれないという強迫観念が、頭を完全に支配していく。

今までは安心だったはずの廊下が、一気に血の凍るような恐怖の空間へと変貌する。


(ヤバい。もう何も考えるな。)

そう思えば思うほど、恐怖の影は膨らんでいく。


しかし、確認しないと安心できない。

透はゆっくりと振り返り――耐えかねたように、途中から素早く背後を睨みつけた。


(……何もない。)

透はせり上がった息を吐き出して安堵し、その廊下を折り返し歩き出した。


シュ……。

背後から、正体不明の音が聞こえた気がした。

(……え?)

透は意識しないように、その嫌な感覚を振り払って歩き出す。


シュ……シュ……。

透が歩を進める度、カーペットが擦れる不快な音が、確実に後からついてくる。

(き、気のせいだ……。気のせいだ)


シュ……シュ……。

間違いなく、ついてきている。

透は、こんな時ばかり最悪のシナリオを生み出す自分の天才的な脳を呪った。


透の背中に、じっとりと冷たい汗が伝う。

(確認しないと……)


異音。

これが異常なら警備員として確認しないわけにはいかない。


ふと、音が止まっていることに気づく。

透が歩みを止めているこの瞬間、先ほどの音は消えていた。

冷や汗が頬を伝う。


(これも仕事だ。)

その言葉に縋らないと振り向けない。


唾を飲み込み、恐る恐る振り返る。


背後には――何もなかった。

遠くにガラス張りの非常扉が見えた。


外は暗いので、廊下の様子がよく反射されている。

314号室のルームプレートが目に入った。

透は急いで身を翻す。

そして、足早に巡回を進めていった。


◇


透はしっかりと指さし確認しつつも、気が気じゃない様子で巡回を進める。

急ぎ足で歩いているはずなのに、時間の流れが酷く遅く感じられた。

(なんなんだよ……)


バック通路に入る扉のドアノブに手をかける。

「……」

ドアノブを回す手が止まり、一瞬、躊躇った。


――ここを開ければ、またあの恐怖の暗闇に戻らなければならない。

夜は人がいないからと言っても、電気を消さなくていいのに。

透は、そんな省エネのルールを決めた見えざる誰かを心の中で呪った。


ゆっくりと重い扉を開いていく。

扉の隙間から漏れる客室の明かりが、バック通路の入り口をわずかに照らし出す。

しかし、その光も届かない廊下の奥には、文字通り深淵のような暗闇が広がっていた。


暗闇を進むのに必要な、懐中電灯の明かりを灯す。

透は意を決して、その不気味な光の中に身を投じた。そして、ゆっくりと足を前に出す。


コッ……。

透の心臓が跳ねた。

ゆっくりと息を吐き切り、冷静さを取り戻すように努める。


(自分の足音だろ……)

気を紛らわすように、心の中で自分にツッコミを入れる。


(ナイーブになってるな)

そんな自分に、自嘲の笑みが溢れる。


コッ……。コッ……。

透は高鳴る心臓を抑えつつ、一歩一歩、守衛室へと帰っていった。


遠くに守衛室の明かりが見えた。

あそこまで行けば勝がいる、そう自分に言い聞かせて奮い立たせる。


出発前に脅かされたことを思い出して少し不安になるが、それでも明かりを求めて守衛室のドアノブに手をかけた。


「帰りました……」

透は安堵から、全身の力が一気に抜ける思いがした。


「おう」

勝は相変わらずカメラから目を離さず、右手だけをぽんと挙げた。


◇


透はマスターキーを鍵を保管している鍵箱に戻しに行く。


そして、あったことを勝に報告する。

「勝さん…。客室を巡回してるとき、変な音がしたんですよ…。」

透は気を落としたまま、重い足を引きずるようにして、歩み寄る。


「音?」

勝が横目で透を見る。


透は勝の横にある椅子を引き出して、腰掛ける。

「はい……。シュ……シュ……って……。」


透は恐怖から視線を落とす。

「俺が歩くと後ろから……。」

思い出して、背中を虫が這い上がるような怖気が走った。


透は眉を寄せて、泣きそうな表情で勝に訴える。

その顔を向けた瞬間、勝が噴き出し大笑いし始めた。


「お前の足の音だろ。」

勝は腹を抱えて笑っていた。


透は少しムッとして、反論する。

「いや、後ろから本当に聞こえたんですって!」


勝は一頻り笑うと、透を見る。

透は真剣な顔で勝の方を見ていた。

勝はバツの悪そうな表情になり、向き直る。


「夜は静かだから、昼間なら聞こえない音まで聞こえてくるんだよ。」

勝が透の肩を力強く叩きながら言う。

「反響しただけだよ。」


そして、勝は背を向けて再度カメラを見始める。


(やっぱり、俺がナイーブになってるだけか…?)

なんだか腑に落ちないが、そう思うことにした。

その方がこの先恐怖に支配されることはないと透は心を切り替える。


そして、立ち上がり勝とは別のカメラに目を向ける。

透が通った客室廊下が映っている。

(誰もいない。大丈夫。)

透はそう思って、少し安心して目を離す。


カメラ映像が三階に切り替わる。


その中心に一瞬ノイズが走った。

1日目の巡回を終わらせた透。

巡回で遭遇したあの怪異は、ただの勘違いだったのか……?

しかし、2日目の夜間巡回で、事態はさらなる最悪の恐怖へと動き出します。

誰もいないはずの暗闇の奥で、一体何が起きたのか?

ぜひ、画面下の【次へ >】ボタンから、恐怖の2日目へお進みください……!

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