1-10 聖域にて
蒼緑王国の王城、その最奥。
幾重もの結界に守られた聖域がある。
王族であっても、許しなく立ち入ることはできない。
王城の喧騒も、兵士たちの声も、この場所までは届かなかった。
巨大な御神木が、空を覆うように枝を広げている。
太い幹には注連縄が巻かれ、白い紙垂が風に揺れていた。
季節はすでに冬の気配を帯びている。
それでも、この場所だけは桜が残っていた。
夕陽を受けた花びらが、一枚、また一枚と舞い落ちる。
ここでは、時の流れさえ王城の外とは違って感じられた。
祈りを捧げるための場所であり、同時に、朱が誰にも聞かせたくないことを口にする場所でもある。
今日、ここへ呼んだ相手は一人だけだった。
御神木の前に、一人の女性が立っていた。
蒼緑王国の大巫女――朱。
長い黒髪に紅い花飾り。背には弓を負い、静かに御神木を見上げている。
祈っているわけではない。
ただ、待っていた。
石段の向こうから足音が近づく。
一定の歩幅。
迷いも、ためらいもない。
「来ましたか」
朱が振り返った。
白峰静が最後の石段を上がり、聖域へ足を踏み入れる。
「……急に呼び出すとは珍しいな」
「ここでしか話したくありませんでしたので」
静が朱を見る。
「瑠璃には?」
「お伝えしておりません」
「そうか」
それだけだった。
朱が瑠璃に知らせず自分を呼んだ。
ならば、瑠璃には聞かせたくない話なのだろう。
静はそれ以上を問わない。
二人の間を風が抜けた。
紙垂が揺れ、桜の花びらが静の肩をかすめる。
「銀華さんのことです」
朱から告げた。
静の視線が僅かに鋭くなる。
「何があった」
「何かがあったわけではありません」
「なら、何だ」
「未来を視ました」
その言葉だけが、静かな聖域の中に重く残った。
静は黙った。
「銀華の?」
「はい」
「なぜだ」
朱は少しも迷わなかった。
「瑠璃様が、あの方を大切にしておられますから」
静の表情は変わらない。
朱にとって、それで理由は十分だった。
銀華という人間そのものに、朱は特別な興味を持っていない。
白峰静にも同じだった。
強い剣士であることも、銀華の師であることも、朱にとってはそれ以上の意味を持たない。
ただ、瑠璃が銀華を大切にしている。
だから銀華は、朱にとっても失わせてはならない存在になる。
瑠璃がこの国を愛しているから、朱は国を守る。
瑠璃が民を慈しむから、朱も民を守る。
善悪を知らないわけではない。
命を軽んじているわけでもない。
ただ、朱が何より先に見るものは、いつも一つだった。
瑠璃が何を望むのか。
瑠璃が何を愛するのか。
そして、瑠璃がどうすれば幸せでいられるのか。
「それで」
静の声が朱の思考を切る。
「何が視えた」
朱は御神木へ視線を戻した。
「何も」
「何も?」
「はい」
「視えなかったのか」
「正確には――真っ暗でした」
遠くで枝が擦れ、乾いた葉音が一度だけ響いた。静は急かさず、朱の次の言葉を待った。
静の眉が僅かに動く。
「暗い?」
「銀華さんの先を視ようとしました」
朱の声は淡々としている。
「白銀王国へ向かう道。その先。さらに、その先も」
花びらが二人の間を落ちていく。
「何度視ても、途中から何もありません」
「……」
「人も、場所も、光も。道さえありません」
「霧で隠れているのとも違います。遠すぎて届かないのでもありません」
「では?」
「そこだけが、切り取られたように暗いのです」
朱は説明しながらも、答えを持っているようには見えなかった。いつもなら拾えるはずの断片が、そこには一つもない。その事実だけを、形を変えず静へ渡している。
朱は目を伏せた。
「未来を視る時、私は必ず何かを拾います。人の気配、景色、声。たとえ結末までは届かなくても、そこへ至る断片くらいは」
「銀華には、それすらない」
「はい」
「暗闇の向こうも?」
「視えません」
朱自身にも、その意味は分からなかった。
だからこそ、吉兆とも凶兆とも決めつけてはいない。ただ、これまで見てきた未来とは明らかに違う。それだけは確かだった。
「死んでいるということか」
「分かりません」
静の目が朱へ向く。
「死なら分かるのか」
「死へ至る未来が視えることはあります」
「なら、これは違う」
「少なくとも、私には同じものには見えません」
「では何だ」
「分からないから、お呼びしました」
静が黙る。
朱はそれ以上、意味を付けなかった。
未来が暗い。
だから不吉だとも言わない。
銀華が死ぬとも言わない。
視えないものを、視えたように語るつもりはなかった。
「今までにもあったのか」
「ここまで完全に何も視えないことは、ほとんどありません」
「ほとんど?」
「絶対とは申し上げません。未来を見る力は万能ではありませんから」
「そうか」
静は短く答えた。
それだけだった。
表情も変わらない。
声も変わらない。
だが、朱は静の右手を見ていた。
指先が、僅かに強く握られている。
「心配ですか」
「当然だ」
静は否定しなかった。
「弟子ですものね」
「そうだ」
「銀華さんが死ぬと決まったわけではありません」
「分かっている」
「では」
「分かっていても、考えることはある」
静の声は平坦だった。それでも、肩をかすめた花びらを払おうとはしなかった。
朱が静を見る。
静は御神木へ視線を向けたままだった。
銀華が死ぬ。
その言葉を、頭の中で形にした。
ただの可能性。
朱は死が視えたとは言っていない。
未来が暗いだけだ。
それでも一度浮かんだ想像は、簡単には消えなかった。
銀華が倒れている。
呼んでも返事をしない。
あの銀色の髪が地に広がり、二度と目を開かない。
静は目を閉じた。
すぐに別の光景が浮かんだ。
もし、誰かの手によって銀華が命を奪われたのなら。
その時、自分は何を感じる。
怒り。
憎しみ。
悲しみ。
どれも、今の静には想像することしかできない。
だが一つだけ、嫌なほどはっきりしていた。
その瞬間の自分に、いつものように剣を握れるという確信がない。
静はこれまで、感情のままに剣を振るったことはなかった。
怒りがないわけではない。
憎しみを知らないわけでもない。
それでも剣を抜く時には、必ず自分で理由を選んできた。
斬るべきか。
止めるべきか。
守るべきものは何か。
どれほど激しい戦場でも、その判断だけは手放さなかった。
銀華にも、そう教えてきた。
だからこそ怖かった。
もし銀華を失った直後に、その原因となった者が目の前に立っていたら。
自分は立ち止まれるのか。
剣を抜く前に考えられるのか。
誰かの声が耳に入るのか。
それとも、何も聞こえなくなるのか。
静には答えられなかった。
報復したいのではない。
まして、誰も彼も傷つけたいわけではない。
ただ、その時の自分を自分で制御できると、今は断言できなかった。
それが恐ろしかった。
敵ではない。
未来でもない。
自分自身が。
「……静様?」
朱の声がした。
静は返事をしなかった。
胸に浮かんだのは、銀華を失う恐怖だけではなかった。
その直後、自分が剣を止められるのか。
これまでなら迷わず答えられた問いに、今は答えが出なかった。
「私は……」
静の声が止まる。
朱は待った。
励まさない。
心配もしない。
ただ、静が何を言うのかを見ている。
「銀華が死ぬようなことがあれば」
一拍。
「正気でいられるか、分からん」
口にした瞬間、静は自分の言葉を確かめるように黙った。撤回する気はなかった。
風が止んだ。
朱の表情は変わらない。
「そうですか」
それだけだった。
静が朱を見る。
「驚かないのか」
「あなたが銀華さんを大切にしていることは存じております」
「そういう話じゃない」
「では?」
「私は、その時に自分を止められるか分からないと言っている」
「報復を望んでおられるのですか?」
「違う」
静は即座に否定した。
「望んでいるわけじゃない。だから怖い」
朱はそこで初めて、静の握られた右手へ視線を落とした。
剣はない。それでも、その手だけが今の静をよく語っていた。
「……」
「今の私なら止まれる。何をすべきか考えられる。だが、銀華を失った直後の私まで同じだと、言い切れん」
「銀華さんを殺した相手を?」
「ああ」
「その可能性は高いでしょうね」
あまりにも淡々とした返答だった。
静の眉が寄る。
「お前は……」
「困ります」
朱が続けた。
「何?」
「銀華さんを失えば、瑠璃様は深く悲しまれるでしょう」
朱は静から視線を外さない。
「その上、あなたまで理性を失えば、瑠璃様の負担が増えます」
静は黙った。
「ですから、困ります」
「静様がどう思われるかではありません」
「分かっている」
「銀華さんがどうなるかでもない」
朱は静かに言い切った。
「その結果、瑠璃様がどうなられるか。それが私には一番重要です」
風が戻り、朱の黒髪をわずかに揺らした。
言葉の冷たさとは裏腹に、その基準だけは最初から一度も揺れていない。
静は朱を見た。
「徹底しているな」
「そうでしょうか」
「銀華の命まで、瑠璃を通して見ている」
「はい」
そこに後ろめたさはなかった。
「ですが、瑠璃様が銀華さんの無事を望まれる限り、私は銀華さんを守る側におります。それでは不足でしょうか」
「いや」
静は首を振った。
「結果だけ見れば、誰より信用できるかもしれんな」
静は皮肉を込めたつもりはなかった。朱が誰のために動くのかさえ見誤らなければ、その行動はむしろ読みやすい。
冷たい言葉だった。
だが、悪意はない。
静を軽んじてもいない。
朱にとっては、ただ事実だった。
「私の心配はしないんだな」
「必要ですか?」
「いや」
「では、いたしません」
静は小さく息を吐いた。
不思議と腹は立たなかった。
朱がそういう人間であることは、静も知っている。
「もし瑠璃が、私を止めろと言ったら?」
静が尋ねた。
「止めます」
即答だった。
「殺してでも?」
「必要なら」
短い返事だった。桜が一枚、二人の間へ落ちる。朱はその行方すら追わなかった。
静は朱を見つめた。
「迷わないな」
「瑠璃様がお望みなら」
「……そういう奴だったな」
「はい」
朱は微笑みもしない。
それを誇ってもいなかった。
ただ、自分にとって当然のことを答えただけだった。
「静様」
「何だ」
「銀華さんが死ぬと決まったわけではありません」
「二度目だ」
「大切なことですので」
静は小さく息を吐いた。
「分かっている」
「本当に?」
問いは柔らかくない。だが、いつもの朱なら確認すらしないことだった。
静が朱を見る。
その問いだけは、少し意外だった。
「お前が私を気遣うとは珍しい」
「気遣っておりません」
朱は即座に否定した。
「あなたが今から銀華さんの後を追えば、瑠璃様が困ります」
「行かん」
「なら結構です」
「……」
「何でしょう」
「いや」
静は視線を外した。
朱は本当に朱だった。
それが、今は少しだけありがたかった。
下手に慰められるよりいい。
「ただ」
朱が言う。
「一つ、興味深いとは思います」
「銀華に興味はないんじゃなかったのか」
「ありません」
朱の答えに迷いはなかった。
「なら何だ」
「瑠璃様です」
静は黙って続きを待つ。
「銀華さんの未来が真っ暗であることを、瑠璃様が知ればどうなさるでしょう」
静の目が僅かに細くなる。
「言うつもりか」
「いいえ」
朱はすぐに答えた。
「お伝えしません」
「……なぜだ」
「瑠璃様が心配なさるからです」
静はすぐには返さなかった。女王としてではなく、一人の人間としての瑠璃を思えば、その答えは理解できた。
あまりにも単純な答えだった。
「それだけか」
「十分でしょう?」
朱は御神木から落ちてきた花びらを一枚、掌で受ける。
「瑠璃様は銀華さんを送り出されました」
「ああ」
「ご自身で考え、ご自身で決めて」
静は、銀華を送り出した日の瑠璃を思い返した。
「そうだ」
「この話を知れば、その判断を疑われるかもしれません」
朱の声が僅かに柔らかくなる。
銀華の話をしている時にはなかった変化だった。
「行かせてよかったのか。止めるべきだったのではないか。自分の判断で銀華さんを危険な場所へ向かわせたのではないか」
静は何も言わない。
容易に想像できた。
女王としての瑠璃ならば、情報を受け止めるだろう。
必要なら対策も考える。
だが、銀華を家族のように想う瑠璃は、それだけでは済まない。
「瑠璃様は、ご自分を責められるでしょう」
朱は掌の花びらを見つめた。
「私は、それを望みません」
「未来が暗いというだけで、瑠璃様の心まで暗くする必要はありません」
朱の掌には、先ほど受け止めた花びらがまだ残っている。指を閉じることも、捨てることもしなかった。
「大巫女としてではなく、か」
「はい」
「朱として?」
「その区別に意味がありますか?」
静は答えなかった。
朱の中では、大巫女である自分と、瑠璃の側に立つ自分を分ける理由がなかった。
「だから黙る」
「はい」
「国に関わる可能性があっても?」
「現時点では、銀華さんの未来が視えない。それだけです」
朱は静かに答える。
「危機が視えたわけではありません。敵が視えたわけでもない。死が視えたわけでもない」
「そうだな」
「ならば、瑠璃様を不安にさせるためだけの情報です」
静が僅かに眉を上げる。
「切り捨てるのか」
「必要のない情報として」
「女王に隠すことになる」
「そうですね」
「迷いは?」
「ありません」
朱は静を見た。
「瑠璃様のためですから」
そこまで言い切られると、静にも返す言葉はなかった。価値観が同じなのではない。ただ、この場で選ぶ結論が同じだった。
静はしばらく何も言わなかった。
忠誠。
その言葉だけでは、朱を表せない。
それが正しいかどうかは別として、今この話を瑠璃に伝えないという判断だけは、静も同じだった。
「私も、言う必要はないと思う」
「そうですか」
「だが」
「はい」
「状況が変わったら話せ」
「もちろんです」
風に揺れた紙垂が、二人の間で小さく鳴った。
朱は迷わなかった。
「瑠璃様に必要な情報になれば、すぐに」
「そこは信用している」
「光栄です」
「褒めてはいない」
「存じております」
静の口元が、ほんの僅かに緩んだ。
それを朱は見ても、何も言わなかった。
しばらく二人は黙って御神木を見上げる。
夕陽がさらに低くなっていた。
桜の影が長く石畳へ伸びている。
「朱」
「はい」
「もう一度、銀華の未来を視ることはできるか」
「できます」
「頼む」
朱は静を見る。
「理由を伺っても?」
「確認したい」
「何を?」
静は答えるまでに少し時間を置いた。
「私が、冷静でいられるうちに」
言葉のあとに、短い沈黙が落ちた。
静自身、その頼みが弱さから出たものなのか、備えなのかを決めるつもりはなかった。
朱の瞳が僅かに動く。
静は自嘲するように息を吐いた。
「今まで、自分が剣を止められないかもしれないなどと考えたことはなかった」
「そうでしょうね」
「銀華には、感情に任せて剣を振るうなと教えてきた」
静の視線が、自分の右手へ落ちる。
「はい」
「それなのに、私がこれでは笑えん」
「笑いませんよ」
「お前はな」
何十年も剣を握ってきた手。
この手で多くの者を守った。
必要なら敵も斬った。
だが、憎しみだけで振るったことはない。
それが自分の剣だと思っていた。
その剣が、銀華を失った瞬間に変わってしまうかもしれない。
その可能性を、静は初めて恐れていた。
「静様」
「何だ」
「あなたが今それを怖いと思えているのなら」
朱が言葉を切る。
「少なくとも今は、まだ大丈夫なのでしょう」
朱の言葉には温度がない。それでも静は、否定する理由を見つけられなかった。
静が顔を上げる。
朱はいつもと同じ表情だった。
「慰めているのか」
「いいえ」
「では?」
「あなたが理性を失えば瑠璃様が困る、と申し上げたでしょう」
「ああ」
「ですから、失わないでいただきたいだけです」
静は数秒、朱を見た。
そして小さく笑った。
本当に僅かなものだった。
「お前らしいな」
今度の沈黙は、先ほどまでより少しだけ軽かった。
「ありがとうございます」
「褒めていない」
「存じております」
今度は朱の口元にも、ほんの少しだけ笑みが浮かんだ。
静は踵を返す。
「帰る」
「はい」
「視えたら知らせろ」
静は石段へ向かいながら言った。
「静様に?」
「ああ」
「瑠璃様には?」
静が足を止める。
「お前が決めるんだろう」
朱は一瞬だけ静を見る。
それから静かに頷いた。
「はい」
「なら聞くな」
「念のためです」
「そうか」
静は聖域を後にした。
石段を下りる足音が遠ざかっていく。
朱は追わない。
静の背中にも、今の心にも、それ以上の興味はなかった。
必要なことは聞いた。
銀華の未来が暗い。
静は、その事実だけで自分自身を恐れるほど銀華を大切にしている。
もし何かが起これば、静が瑠璃の負担になる可能性がある。
それだけ覚えておけばいい。
朱は御神木へ向き直った。
再び、銀華の未来へ意識を伸ばす。
白銀王国へ向かう馬車。
三人の旅。
そこまでは視える。
その先。
暗い。
光が消える。
何もない。
朱は目を開けた。
やはり同じだった。
「……」
不安はない。
銀華がどうなるのかという意味では。
ただ、その暗闇が瑠璃へ届くことだけは避けたかった。
瑠璃はきっと心配する。
自分の決断を振り返る。
銀華を送り出した日の言葉まで思い返すかもしれない。
そんな必要はない。
少なくとも、今は。
「……瑠璃様には、必要ありませんね」
返事をする者はいない。朱はそれでよかった。自分で選ぶために、もう一度視たのだから。
朱は一人、静かに呟いた。
それは静に命じられたからではない。
大巫女として国益を計算した結果でもない。
朱自身が選んだ。
瑠璃の心を曇らせるだけの情報なら、今は渡さない。
もし、この暗闇が国を脅かすものだと分かれば。
瑠璃が知るべき時が来れば。
その時は迷わず伝える。
瑠璃が国を愛しているから。
国を守ることは、瑠璃を守ることでもある。
朱は祠の前で静かに手を合わせた。
願う相手は、一人だけだった。
「瑠璃様が、笑っていられますように」
風が吹く。
御神木の枝が揺れ、夕陽の中へ桜の花びらが舞い上がった。
遠くでは、銀華たちを乗せた馬車が白銀王国へ向かっている。
朱はその旅の無事を願わない。
ただ。
銀華が無事に帰ることが瑠璃の笑顔に繋がるのなら。
銀華の旅がどんな意味を持つのか、朱にはどうでもいい。
銀華が何を見て、何を得て、どう変わるのかにも興味はない。
ただ、帰ってきた銀華を見て瑠璃が笑うのなら。
その未来だけは、暗闇の向こうにあってほしいと思った。
その帰還を、誰より強く望んでいた。
――
第一章 1-10『聖域にて』 完
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、朱と静。
銀華たちが旅立ったその裏側で交わされていた、二人だけの話でした。
見えるはずの未来に、何も見えない場所がある。
それが何を意味するのか。
まだ誰にも分かりません。
そして朱が何より大切にしているものも、少し見えてきたのではないでしょうか。
銀華たちの旅と、その帰りを待つ人々。
それぞれの想いが、少しずつ重なり始めています。
次回もよろしくお願いします。
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