1-3 友と呼ぶまで
草地には、腰ほどの高さの石垣が残っていた。
かつては畑か、家畜を囲う場所だったのかもしれない。
今は誰にも使われず、背の低い草が風にそよいでいる。
銀華と朧は、十歩ほどの距離を空けて向かい合った。
街の門は遠くに見える。
ここなら、戦いを止めようとする者もいない。
銀華は剣を抜いた。
澄んだ音とともに、青みを帯びた刀身が午後の光を返す。
魔剣《青の輝き》。
女王瑠璃から授けられた、蒼緑王家ゆかりの剣だった。
日によって羽のように軽く感じることもあれば、鉛のように重くなることもある。
瑠璃からは、世に持ち主を選ぶ不思議な武器が存在することと、この剣が相当にひねくれた性質だということだけを聞かされていた。
朧も刀を抜いた。
古びた鞘から現れた刃には、装飾一つない。
銀華の剣と並べれば、どこにでもある刀に見えた。
だが、刀身が完全に鞘を離れた瞬間、低い震えが二人の間を走った。
《青の輝き》が鳴る。
朧の刀も、呼応するようにかすかに震えた。
「え……」
銀華は刀身へ視線を落とした。
握った柄から、これまで感じたことのない温度が伝わってくる。
喜んでいる。
そんな感覚が胸をよぎり、すぐに打ち消した。
剣は剣だ。
言葉を持つはずがない。
朧も自分の刀を見た。
「どうかしましたか」
「いや」
震えは、すぐに止まった。
その意味を、二人はまだ知らない。
銀華は両手で剣を構えた。
正面から相手を見据える、基本に忠実な構え。
対する朧は刀を片手に持ち、切っ先をわずかに下げただけだった。
構えているようには見えない。
隙だらけにも見える。
それなのに銀華には、どこから踏み込んでも届かないように感じられた。
「いつでもいい」
朧が言う。
銀華は深く息を吸った。
迷えば動けなくなる。
だから、考えるより先に地面を蹴った。
正面から踏み込み、上段から剣を振り下ろす。
速さには自信があった。
将軍として戦場に立っていた頃なら、この初太刀だけで並の兵士に受けへ回ることを強いていた。
だが、剣が朧の肩口へ届く直前、銀華の視界の端で草地の色が一瞬だけ消えた。
焼けた土。
崩れた家。
動かなくなった人影。
一年前の光景が、何の前触れもなく脳裏へ割り込む。
踏み込みが、ほんのわずかに鈍った。
朧の刀が傾く。
金属音。
剣の軌道が逸らされた。
「え?」
力で弾かれた感覚はなかった。
触れただけ。
それなのに剣は朧の身体を外れ、銀華の体勢だけが崩れていた。
朧の刀の峰が、銀華の首筋へ添えられる。
「一度だ」
銀華は息を呑んだ。
斬られていれば、今ので終わっていた。
朧が刀を引く。
「まだやります」
「好きにしろ」
銀華は距離を取った。
今度は不用意に踏み込まない。
朧の足。
肩。
視線。
わずかな動きを見逃さないよう集中する。
朧は何もしていない。
ただ立っている。
それだけなのに、銀華の額には汗が滲んだ。
朧はわずかに目を細めた。
先ほどの踏み込みは遅くない。
むしろ速い。
剣筋にも足運びにも、長い鍛錬と実戦の跡がある。
それなのに、最後の一歩だけが妙に浅かった。
技量が足りない者の崩れ方ではない。
できないのではなく、何かに止められた。
そんな違和感が残った。
左へ回り込む。
朧の視線がついてくる。
右へ切り返し、地面すれすれから剣を振り上げた。
朧の刀が斜めに降りる。
剣を受け止めるのではない。
刃の腹へ触れ、力の流れを外へ逃がす。
銀華の腕が浮いた。
腹部へ、朧の掌が当たる。
次の瞬間、身体が後方へ飛ばされた。
「っ……!」
草の上を転がる。
息が抜けた。
痛みより、何をされたのか分からないことの方が恐ろしかった。
銀華は咳き込みながら起き上がる。
「もう終わりか」
「まだです」
剣を支えにして立ち上がる。
足がわずかに震えている。
朧はそれを見て、わずかに眉を寄せた。
「お前では私に勝てない」
「分かっています」
「分かっていないから立つ」
「今のままでは勝てないと分かりました」
「同じことだ」
「違います」
銀華は剣を構え直す。
「今のままで駄目なら、今までと違うことをします」
朧は答えなかった。
銀華は再び踏み込む。
今度は剣を振らなかった。
間合いの手前で急停止し、朧が反応する瞬間を待つ。
だが、朧は動かない。
銀華の方が焦れた。
突きを放つ。
刀が横から触れ、切っ先が外れる。
その動きに逆らわず、銀華は身体を回転させた。
逸らされた勢いを利用し、反対側から横薙ぎを放つ。
朧の髪がわずかに揺れた。
刃は届かない。
だが、これまでよりは近かった。
銀華の目が見開かれる。
朧の口元が、ほんのわずかに動いた。
「悪くない」
次の瞬間、銀華の手から剣が消えた。
手首を打たれたのだと気づいたのは、剣が草地へ落ちてからだった。
朧の刀が喉元へ止まる。
「三度だ」
銀華は動けなかった。
完敗だった。
速さも、技も、判断も、今の銀華では何一つ届いていない。
朧は最初から、本気の片鱗すら見せていなかった。
それでも胸に湧いたのは、悔しさより感嘆だった。
これほど強い人がいる。
自分の知らない場所には、想像もできないほどの高みがある。
朧が刀を納める。
朧の中には、勝敗とは別の違和感が残っていた。
剣筋は悪くない。
身体も鍛えられている。
戦場を知る者の目もしている。
二度目、三度目と剣を交えるたび、こちらの動きを読み、すぐに自分の動きを変えてきた。
それほどの剣士が、決定的な瞬間になると僅かに鈍る。
踏み込めるはずの足が止まり、力を抜くべきところで身体が固くなる。
まるで、目の前にいない何かと戦っているようだった。
理由までは分からない。
ただ、この女が今見せているものが本来のすべてではない。
それだけは分かった。
「約束だ。もう私を誘うな」
銀華は落ちた剣を拾った。
柄を握る手が痛む。
視線を落としたまま、しばらく黙っていた。
朧は背を向ける。
「待ってください」
また、その言葉だった。
朧の足が止まる。
「約束は守ります」
銀華は言った。
「仲間になってくださいとは、もう言いません」
「なら何だ」
「稽古をつけてください」
朧が振り返る。
銀華は真剣な顔で立っていた。
「話を聞いていなかったのか」
「聞いていました」
「負けたら諦めると言った」
「仲間に誘うことを、です」
「同じだ」
「違います」
「お前はそればかりだな」
「違うものは違いますから」
朧は目を閉じ、ゆっくり息を吐いた。
「なぜ私がお前を鍛える」
「強くなりたいからです」
「私には関係ない」
「今日だけで構いません」
「断る」
「では、明日またお願いします」
「来るな」
「明後日にしますか」
「そういう意味ではない」
「分かっています」
銀華の顔には、少しだけ笑みがあった。
朧は、この女が存外図太いことに気づいた。
「好きにしろ」
投げ捨てるように言い、今度こそ歩き出す。
「はい。また明日、朧さん」
「来るなと言った」
背後から返事はなかった。
それでも明日になれば、あの銀髪の女は同じ場所に立っている。
朧には、なぜかそう思えた。
草地を離れ、宿場へ戻る道を朧は一人で歩いた。
背後から銀華が追ってくる気配はない。
約束を守ると言った言葉だけは、本当らしい。
宿場へ戻る途中、昨日の子供たちが道端から駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん、何かいいことあった?」
「何もない」
朧はいつもと変わらぬ口調で答え、そのまま通り過ぎる。
「笑ってるよ」
背中へ飛んできた声に、朧の足が一瞬だけ止まった。
笑ってなどいない。
そう言い返そうとして、やめた。
相手はもう仲間のもとへ駆け戻り、木の枝を振り回している。
宿屋へ戻ると、帳場の女主人にも顔を見られた。
「何かいいことでもあったのかい?」
「お前もか」
「その顔を見ればねえ」
「何も良いことなどない」
女主人は意味ありげに笑ったが、朧は取り合わず、階段へ向かった。
自室の扉を閉めてから、指先で口元へ触れる。
いつもと何も変わらない。
そう結論づけ、朧は旅支度の脇へ刀を置いた。
翌朝。
「おはようございます」
「なぜいる」
「稽古をお願いしに来ました」
「断った」
「昨日は、です」
朧は無言で通り過ぎた。
銀華は後ろをついてくる。
「どこへ行くんですか」
「お前には関係ない」
「では、邪魔にならないようについていきます」
「邪魔だ」
「少し離れます」
「帰れ」
「稽古をしてくださったら帰ります」
朧は足を止めた。
銀華も止まる。
「一度だけだ」
「ありがとうございます」
草地へ移動し、銀華は昨日と同じように剣を構えた。
結果も、ほとんど同じだった。
一合目で剣を逸らされ、二合目で転ばされ、三合目で武器を落とされた。
違ったのは、銀華が昨日と同じ負け方をしなかったことだけだった。
「足を止めるな」
朧は言った。
「踏み込みが浅い」
「はい」
「剣だけを振るな。身体ごと運べ」
「はい」
「返事をする暇があるなら立て」
「はい」
銀華は立ち上がる。
朧は自分でも気づかぬうちに、修正点を口にしていた。
そして、もう一つ気づいていた。
銀華の踏み込みが浅くなるのは、技術の問題だけではない。
何度直しても、ある瞬間だけ足が止まる。
敵の刃が自分へ向いたときではない。
むしろ、自分から深く踏み込み、相手を斬れる距離へ入ろうとしたときだった。
朧は理由を聞かなかった。
まだ聞くほどの関係ではない。
代わりに、一つずつ余計な力だけを削っていった。
三日目。
銀華は朝露に濡れた草地で待っていた。
四日目は雨だった。
来ないだろうと思っていた朧の前へ、髪も衣服も濡らした銀華が現れた。
「馬鹿か」
「少し降っていますね」
「少しではない」
「雨の日にも戦うことはあります」
「風邪をひいて終わりだ」
朧は宿屋の軒下へ銀華を押し込み、女主人から布を借りた。
「髪を拭け」
「朧さんは優しいですね」
「死なれて面倒になるのが嫌なだけだ」
「そういうことにしておきます」
「何だ、その顔は」
「何でもありません」
その日の稽古は、宿屋の裏手にある屋根付きの物置で行われた。
剣を振る広さはない。
朧は銀華の足運びだけを直した。
「軸が上がっている」
「こうですか」
「違う」
朧が銀華の肩を押す。
「力を抜け」
「抜いています」
「抜けていない」
「これ以上抜くと立てません」
「それでいい」
「倒れます」
「倒れない位置を探せ」
銀華は何度も姿勢を変えた。
朧は気づくたびに直した。
夕方には、雨が上がっていた。
五日目。
銀華は初めて朧の袖へ剣先を触れさせた。
本当に、布の端へ掠っただけだった。
それでも銀華は目を輝かせた。
「今、届きました」
「触れただけだ」
「昨日までは触れませんでした」
「だから何だ」
「強くなっています」
「わずかにな」
「はい」
銀華は嬉しそうに笑った。
朧は目を逸らす。
褒めたつもりはなかった。
だが、最初の日より動きが良くなっているのは事実だった。
新しい技を覚えたからではない。
元から持っていたものが、少しずつ表へ出てきている。
やはり、この女は弱くない。
むしろ相当に強い。
ただ、自分で自分の剣を縛っている。
六日目。
稽古の後、二人は草地の石垣へ腰を下ろした。
銀華が持ってきた包みを開く。
「昼食です」
「頼んでいない」
「私の分です」
「なら一人で食べろ」
「二人分あります」
「なぜ二人分ある」
「宿舎で多めにいただきました」
「……」
銀華は包みから握り飯を取り出した。
「食べますか」
「いらない」
「そうですか」
銀華は一人で食べ始める。
朧は隣で黙っていた。
しばらくして、銀華がもう一度差し出す。
「食べますか」
「いらないと言った」
「先ほどより、お腹が空いているかもしれません」
「空いていない」
さらにしばらくして、朧は無言で手を伸ばした。
銀華は何も言わず、握り飯を渡した。
わずかに笑っていたが、朧は見ないふりをした。
「朧さんは、なぜ旅をしているんですか」
銀華が尋ねる。
「団長に追い出された」
「追い出されたんですか」
「少し違う」
「どちらですか」
「旅をしてこいと言われた」
「なぜ?」
「ここではこれ以上強くなれない、と」
銀華は驚いたように朧を見る。
「朧さんより強い人がいるんですか」
「いる」
「世界は広いですね」
「怖くないのか」
「何がですか」
「私より強い者がいることが」
銀華は少し考え、首を横へ振った。
「怖くはありません」
「なぜだ」
「会ってみたいからです」
「戦えば死ぬぞ」
「戦わずに話せばいいでしょう」
朧は答えなかった。
銀華なら、本当にそうするのだろう。
相手が剣を向けるまで、まず言葉を交わす。
剣を向けられてなお、何かを伝えようとするかもしれない。
愚かで、危うい。
それなのに、なぜか否定し切れなかった。
「団長さんは、朧さんに何を見てほしかったのでしょう」
「知らない」
「強さ以外の何かでしょうか」
「さあな」
「見つかるといいですね」
「他人事だな」
「私が決めることではありませんから」
「仲間にはしようとした」
「それとこれは別です」
「やはりお前は勝手だ」
「すみません」
銀華は謝りながら笑っていた。
七日目。
空はよく晴れていた。
草地には柔らかな風が吹き、遠くの石壁に旗が揺れている。
銀華は剣を構えた。
一週間前より、姿勢は低い。
肩の力も抜けている。
足は止まっていない。
朧は刀を抜く。
「来い」
銀華が踏み込んだ。
正面からではない。
斜めへ入り、朧の視線を外へ誘う。
剣先が揺れた。
上段。
そう見せて、横薙ぎへ変わる。
朧が刀で流す。
銀華は逆らわず、身体を回転させた。
一週間前と同じ動き。
だが、今度は途中で止める。
足を踏み替え、低い位置から突きを放つ。
朧の刀が切っ先を逸らした。
銀華は剣を手放さない。
手首の力を抜き、逸らされた方向へ一歩踏み込む。
朧の懐へ入った。
銀華の左手が、朧の肩へ伸びる。
触れる寸前。
刀の柄頭が、銀華の胸元で止まった。
銀華も動きを止めた。
あと少しだった。
届かなかった。
それでも、初日とはまるで違う。
踏み込みの最後に一瞬だけ呼吸は乱れた。
それでも今度は、足を止めなかった。
「負けました」
銀華は素直に言い、剣を下ろした。
「分かっている」
「でも、少し近づきました」
「少しだけだ」
「はい」
銀華は笑った。
悔しさはある。
それ以上に、できなかったことができるようになった喜びが顔に出ていた。
朧は刀を納める。
この一週間で銀華が突然強くなったわけではない。
眠っていた力のすべてを取り戻したわけでもない。
元から持っていたものが、ほんの少し戻っただけだ。
それでも、朧にはこの女の奥にまだ先があると分かっていた。
「今日で終わりだ」
銀華の笑みが止まった。
「そうですか」
「一週間も付き合った」
「はい」
「私は先へ行く」
「はい」
銀華は引き止めなかった。
ただ、剣を鞘へ納め、朧へ深く頭を下げた。
「ありがとうございました」
「大したことはしていない」
「私にとっては、大したことでした」
朧は返事をしない。
銀華は顔を上げた。
「朧さん」
「何だ」
「旅が終わったら、またこの街へ来てください」
「約束はしない」
「それでも、お待ちしています」
「なぜ待つ」
「仲間には誘いません」
「なら何の用だ」
銀華は少し迷った。
言葉にすることが、急に恥ずかしくなったようだった。
それでも、目を逸らさずに答えた。
「また、お話をしたいからです」
朧は答えなかった。
銀華の言葉には、裏がない。
力を欲しがっているわけでも、国のために利用しようとしているわけでもない。
ただ、また話したいのだという。
そんな理由で誰かを待つ感覚を、朧はよく知らなかった。
美葉とサンドラは戦友だ。
命を預けられる。
互いの強さも、考え方も知っている。
だが、立場が変われば刃を向けることもある。
そういう関係だった。
銀華は違う。
戦場でも、国でも、仕事でもない。
何の理由もなく、自分と繋がろうとしている。
それをどう呼べばよいのか、朧には分からなかった。
「仲間にはならない」
朧は言った。
銀華の目がわずかに伏せられる。
感情がすぐに顔へ出る。
やはり分かりやすい女だ。
「だが」
銀華が顔を上げる。
「友としてなら、力くらい貸してやる」
数秒、銀華は言葉を失っていた。
「友……」
「不満か」
「いえ」
銀華の表情が、ゆっくりと明るくなる。
やがて、隠すこともできないほど嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます、朧さん」
「礼を言うことか」
「私には、友と呼べる人があまりいませんから」
「私も友と呼んだ覚えはない」
「今、友としてならと」
「言葉の綾だ」
「では、友ではないのですか」
朧は口を閉じた。
銀華はじっと待っている。
「……好きに解釈しろ」
「はい」
銀華の笑みが深くなる。
「それから」
朧は視線を逸らした。
「呼び捨てでいい」
「分かりました、朧さん」
「分かっていない」
「急には難しいです」
「一週間ずっとそうだっただろう」
「友になったのは、今ですから」
「なら、なおさら呼び捨てでいい」
「努力します、朧さん」
朧は小さく息を吐いた。
だが、その声には、以前ほどの冷たさはなかった。
草地を風が渡っていく。
銀華の銀髪と、朧の黒髪が同じ方向へ揺れた。
遠くでは街の鐘が鳴っている。
朧は、まだ銀華へ心を開いたつもりなどなかった。
ただ、一緒にいても居心地が悪くない。
その程度だった。
その程度のはずだった。
「では、帰りましょう」
銀華が言う。
「どこへ」
「街です」
「なぜそうなる」
「旅を続ける前に、食事くらいご一緒しませんか」
「断る」
「では、お茶だけでも」
「断る」
「少しくらいお話を」
「断る」
「せっかく友になったんですから」
「話を聞け」
「聞いています」
「聞いていない」
銀華は笑いながら、街へ向かって歩き始めた。
朧はその背中を見送る。
ついていく理由はない。
ここで別れればいい。
そう思っていた。
「朧さん?」
数歩先で、銀華が振り返る。
待っている。
朧はしばらく動かなかった。
やがて、諦めたように歩き出す。
「一晩だけだ」
「はい」
「朝には出る」
「分かりました」
「仲間にはならない」
「友ですから」
「……面倒な女だ」
銀華には聞こえなかったのか、それとも聞こえないふりをしたのか。
嬉しそうに前を向いた。
二人は並ばず、わずかな距離を空けて歩いた。
けれど、その距離は門の外で初めて向き合ったときより、確かに近くなっていた。
ただこの日、緋月朧は旅の途中で、初めて友と呼べる人間に出会った。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
無敗の将軍・雪乃銀華。
……なのですが。
今回は朧に、見事なくらいボコボコにされました(笑)
もちろん、これだけで二人の実力差が決まるわけではありません。
銀華には銀華の事情があり、朧には朧の強さがあります。
ただ一つ確かなのは――
この出会い、どう考えても穏やかには終わりそうにありません。
ここから二人の関係がどう変わっていくのか。
次話もお付き合いいただければ嬉しいです。




