第24話
ドアは半分吹き飛んでいるし、金具も曲がってしまって、どうにもならなかった。
メリーシアも魔術で直すことはできなさそうだ。
「そういえば、この家は建て直したと言ってたよな? そのときはどうしたんだ?」
十五年前、クロッシア討伐の際のことだ。
あのときは家そのものがなくなってしまったから、一から建て直しだったが、アベラードが全て采配してくれた。
「アベラードが中心となって、魔女省の人たちがやってくれたんですが……。頼んでみましょうか」
メリーシアは笛を吹き、アベラード宛ての手紙を認め、梟に持っていってもらった。
すぐには来られないだろう。恐らく。
今夜はドアなしでどうにか凌がないといけないが、その前にリックと話をしなければならないだろう。
「リック、こちらへ」
居間のテーブルへといざなった。
向かいに座ったリックを、メリーシアはまっすぐに見つめる。
「リッカのこと、黙っていてすみませんでした」
そう言って深々と頭を下げる。
本当ならば、話すつもりはなかった。
恨まれて当然だろうと思っていたし、話すならば最後の最後、殺される算段がついてからにするつもりだった。
「リッカは残っている子たちの中でも、強固に出ていかないと決めているようでして……。あなたと出会ってすぐに、彼女の弟だって気づきました」
初めて迎える『魔犬』を前に、緊張の震えもあったと思う。
だがそれ以上に、リッカの感激の奮えもあった。
「『魔犬』を扱き使い、姉の仇だとわかれば、『魔女殺しの魔犬』はわたしを殺してくれると思ったんです」
大真面目に言ったつもりだ。
しかしリックはなんとも言えない表情で、主を見ていた。
「……なんです」
「言っていいのか? あんた、そんな非情な魔女にはなりきれないだろう」
「そっ、そんなことないです! わたしは『災厄の魔女』ですよ!?」
「実態にそぐわない二つ名だがな」
そう言われてしまっては、なにも言い返せない。人づきあいを避けてきてしまったせいで、噂が独り歩きしているところはある。
「それに、俺はあんたとリッカがなにか関係あると、知っていた」
「え……そ、そうなんですか?」
ぽかんとするメリーシアに、リックは椅子に身を預け、思案顔になる。
「ここに来た初日、リッカの幽霊を見た」
初日、とメリーシアは記憶を辿る。
リックを居間のソファに寝かせ、自室で寝入っていた夜半。
そこまで思い出して、顔が熱くなってきた。寝覚めたら、リックが覆い被さっていたのだ。
「リッカを追っていったら、まぁ、あんな感じになったわけだが……」
リックも気まずそうな顔をするものだから、微妙な空気が流れてしまう。ただでさえ、さっきキスしたばかりだ。
「ともかく! あれはなんだったのか、聞きたかったんだ」
「と言われましても……。わたしはリッカの姿なんて、見たことありませんし……」
先刻、精神世界では相対したが、目覚めているときに出会ったことはない。
室内に沈黙が落ちる。
人は死んだらそれまでだ。皆、例外なく冥界へと向かう。
「わたしの中から漏れ出た魔力によるもの、と考えるのが妥当ですが……。でも、あんまり怖いとは思えないんですよね」
魔力を暴発させようとしたとき、メリーシアの前に姿を現してくれた。
あれは精神世界での出来事だったが、恨まれていたわけではないと、ようやくわかったのだ。
「そうだな。リッカは厳しいところもあるが、弟妹を見守る優しい人だった」
リックの目も優しくなっているのに、気づいているのだろうか。
その感情が恋情なのか、家族愛なのか、メリーシアはずっと気になっている。
「リッカはまだ、主人の中にいるのか?」
問われてメリーシアは、自分の心を探ってみた。
奥の奥に温かさを感じる。
「まだ残ってくれているようです。ほんと、わたしなんかを気に掛けなくてもよかったのに」
「あんたのことも、妹だと思ってるってことだろう」
メリーシアがリッカと話していたことを、リックが聞いていたわけではない。
だけどしっかり当ててくるところあたり、リッカのことをよくわかっている。
「わたしも、お姉ちゃんって呼んでいいか聞いちゃいました」
「そうか」
優しい声にリックの方を見ると、愛おしそうな目を向けてくるものだから、なにも言えなくなってしまう。
話しているうちに、窓の外は暗くなっていた。
いつもどおり、リックが夕食を用意して、あとは寝るだけという段になったのだが。
「ところで、主人。俺はここで寝ないといけないのか?」
居間のソファは、玄関ドアの直線上だ。そう寒くない気候とはいえ、ここで寝れば風が気になるだろう。
「このまま寝て、風邪をひかれても困りますしね」
「俺としては、共寝でも構わないんだが?」
過剰反応しかけたメリーシアだが、リックのからかうような顔に、咳払いする。
「またそういうことを言って……。口輪をつけられたいんですか?」
「おや、主人にはそういう趣味が?」
「おしおきって意味です!」
結局、ペースを狂わされてしまった。
メリーシアは、魔術で風が吹き込まないよう施した。
しっかり鍵をしてベッドに入ったが、ドア一枚隔てたところにリックがいることを、急に意識してしまう。
「今まで、どうやって眠ってたんだっけ……」
昨日までの『普通』がどうだったか、もう思い出せない。
何度も寝返りを打って、ようやく寝つけたころには、空が明るみ始めていた。




