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災厄の魔女ですが使い魔の犬に手を噛まれています  作者: 安芸咲良
第一部 魔女殺しの魔犬

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第15話

 朝日が差し込んできて、メリーシアは目を覚ました。

 いつもどおりの朝だ。起き上がって、伸びをする。

 と、そこに。

「ママー、起きたー?」

 ノックの音とともに声がかかり、びくりと肩が揺れる。

「そうだった……」

 娘、もとい弟子ができたのだった。

 返事をしないメリーシアに、アリアはまだ「ママー?」と呼びかけている。

「起きています。すぐに行きますから」

 メリーシアはそう言ってベッドを降り、身支度を始めた。


   *


 自室を出ると、もう朝食の用意が整っていた。

 アリアはすでにテーブルについており、そこにリックがスープを運んでいく。

「お前も手伝え」

「おまえじゃなくて、アリアー!」

 なんだか、すでに仲良くなっている気がする。

 リックはもともと孤児院の出で、大人数での生活に慣れている。

 それに、『古の三魔女』の元で暮らし、彼女たちの世話役をこなしてきていたようだ。

 子ども一人の相手くらい、朝飯前なのだろう。

「主の威厳とは……」

 ぶつぶつ呟きながら、メリーシアも席に着いた。

 リックはマッシュポテトのサラダとフライドエッグをテーブルに並べ、それからパンの入ったバスケットを置いた。

「また沢山のパンを持って帰ってきたな、主人」

「アベラードが、持って帰れってうるさくて……」

 あのまま拒否しなければ、毎日家までごはんを届けに来る勢いだった。

 三人で祈りを捧げ、フォークを手にする。

 この味を知ってしまったら、他のごはんでは物足りないんだよなぁ、とメリーシアはしみじみ思う。

 完全に胃袋を掴まれているこの状況を見たら、アベラードはなんと言うだろうか。

 しばらくここには来ないはずだから、来たときに考えよう、とメリーシアは先延ばしにすることにした。

 食事を続けるメリーシアに、隣に座るアリアが笑いかける。

「パパのごはん、おいしいね」

「さっきから言ってるが、アリア、俺はパパじゃない」

 リックはフォークでアリアをピッと差し、苦々しげな顔をする。

 行儀が悪い、と言いたいところだが、メリーシアも同じ気持ちだ。

「弟子に、という話だったはずですが」

 いつの間にか、ママになってしまっている。魔女の弟子ではなかったのか。

 弟子を取るのは初めてだ。そもそも、リックを魔犬に取るまでは、人づきあいを極端に避けてきた。

 師匠としていた魔女もいない。受け入れたはいいものの、師匠とはなにをするものなのか。

 今さらながら、早計すぎたかと不安が過ぎる。

「じゃあ、魔術の修行のときは、師匠って呼ぶわ。師匠はふだん、どんなことをしてるの?」

「普段……」

 メリーシアは、リックの方を見やった。

 ガーデニングと言って微妙な表情をされたことは、記憶に新しい。

「……植林、です」

「しょくりん?」

 改めて言葉にすると、なにをやっているんだという気がしてくる。

 魔女が植物を育てることはままあるが、それは育てた植物を使って薬や魔法薬を作るためである。

 メリーシアが木を植え続けるのは、己が破壊した森を再生し、誰もが来られる森をつくるため。

 その行動は褒められたものだが、魔女に憧れを抱く少女の目に、どう映るものなんだろうか。

「それって……」

「あの、アリア」

 アリアの視線は、テーブルに落ちてしまっているではないか。

 やはりがっかりさせてしまった。ここから挽回できる道筋はあるんだろうかと、慌てるメリーシアだったが。

「すっごくすてきね!」

 キラキラの笑顔が降ってくる。

「森をゆたかにするのでしょう? あたしもそのお手伝いをすれば、いいのかしら?」

 楽しそうに語るアリアに、メリーシアはほっと息を吐く。

 それをリックは見逃さなかったが、なにも言わなかった。言うべきではないことを判断するくらいには、もうこの生活に慣れている。

「今日もしょくりんをするのかしら? はやく行きましょう!」

 急いでパンを飲み込んだせいで、アリアはむせてしまう。

 背中をさする姿に、リックは主人は本当に母か姉のようだなと思っていた。


   *


 リックには家事を頼み、アリアとメリーシアは、まだ木を植えていないところに来ていた。

 あのワンピースでは動きにくそうだったので、メリーシアの服を貸したのだが、少し大きいようだ。袖や裾をリボンで縛り、なんとか着こなしている。

「師匠! こんなかんじでいいかしら?」

 アリアは木を植えるのがうまかった。

 ひょっとして、自分は師匠として教え方がうまいんじゃないだろうか、とメリーシアが思ってしまうくらいだ。

「ゆっくりでいいですよ。病み上がりなんですから、あまり無理しないよう」

「もうっ、病気じゃないって言ったでしょう?」

 隣にしゃがんで心配するが、アリアはぷくっと頬を膨らませてしまう。

 この子はいったい何者なんだろうかと思うけれど、こういうところを見ると、可愛がりたくなってしまう。

「ねぇ、聞いてもいいかしら?」

「なんでしょう?」

 メリーシアも目の前の土を掘り始めた。

 手を止めて、メリーシアのことを見ているアリアには気づいていない。

「師匠は、リックのことが好きなの?」

「ほぁっ!?」

 スコップを思いっきり突き刺してしまった。

 真っ赤になった顔を向けるメリーシアに、アリアはぱぁぁと満面の笑みになる。

「やっぱりそうなのね!? 両想い!? でも夫婦じゃないのよね? お付き合いはしているの!?」

 矢継ぎ早に尋ねてくるアリア。

 まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかったメリーシアは、頭が回らない。

「いやっ、あの……待ってください……! 夫婦じゃないし、付き合ってもいないし、そもそも好きとか……。いえ嫌いとか、そういうのではないけれど……。好き……両想い……わたしとリックは、魔女と魔犬で……」

 かつてないほどに慌てふためいている師匠に、アリアは目をぱちくりさせる。

 その口が、にーっと弧を描いた。

「協力しましょっか?」

「だから違うんです! リックを更生させるのが、わたしの役目で!」

 はいはいわかった、と流されてしまう。


 やはりわたしに師匠は向いてないんじゃないんだろうかと思いながら、メリーシアは残りの作業をこなした。

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