(8)デートなりその2
「実況のケノンで〜す。ただいまサンティさんが本屋さんから出てまいりました。サンティさんは体力がありませんがしっかり本の入った紙袋を持っています。紙袋は破けることはないのでしょうか!」
ケノンは物陰からサンティを観察しながらそうブツブツ言っている。隠れて尾行すると言いつつ全く隠れられていないのは欠点なのか。
なぜ私はここまでついてきてしまったのだろうと、自問自答しながらケノンの話を聞き流す。
「おっと!ゲナイオス先輩が紙袋を持ちました!何でしょう。『重たいものは持たせられない』と言ってるのでしょうか?!」
「いや『お詫びなんだから持たせて』だよ。」
セー様はケノンのアフレコを瞬時に直した。この距離で聞こえるのかと驚いているとケノンが聞いた。
「え……なんでわかるんですかな?」
「口の動き」
「読唇術……」
口を開けて驚いているケノンに私は肩をすくめる。しかしそれと同時にセピノール様に感心した。
少しするとサンティは動き出し、すぐにカフェのなかに入った。
「ゲナイオス先輩が先に入ってドアを押さえている!これは小さなトキメキポイント!」
「これくらいでときめくような人じゃないわ。」
「えぇ…」
ケノンはサンティへの解像度が低い。セピノール様は目線をサンティから動かなさない。
サンティが入ったカフェは私でも知っている有名なスイーツ店。
「サンティって甘いもの好きだったっけ?」
シンプルな疑念。食堂には基本的にデザートは食べないし、出てもフルーツ系であってお菓子系じゃない。もし嫌いなのならでゲナイオスいう男は愚か者だ。
「好きなんじゃない?少なくともあそこのデザートを嫌いな人はいない!」
「そうかしら……」
「そうよ〜キャロリさんよ、粗探しはよしなさいな」
粗探しなんてしていないと反論しかけたけれど、言うのも面倒になってサンティの方を見つめた。
「セピノール様、サンティさん達何言ってるかわかります?」
「……『何を頼むかい?』『ではこの1番人気のやつを』」
「あのケーキ美味しいですよね〜!」
「ケノン……はぁ…セピノール様も協力しなくてもいいです。」
▼▽▼
本屋さんからでるとゲナイオス先輩は本の入った紙袋を私から取った。
「お詫びなんだから持たせて」
「……ありがとうございます」
「にしてもどうして紙なのに破けないんだ?」
紙は400年前は高級品だ。平民はほとんど手が出せず、紙を丈夫にする魔法の研究が行われ、そこに私も少したずさわっていた。だからちょっとした保護魔法は無意識のレベルでかけられる。
「この後どこ行きますか?まだ時間もありますし……」
「じゃああそこのカフェはどうですか?美味しいスイーツで有名なんだけど」
「わかりました……」
指さされたカフェはいつだったかケノンが言っていたお店。甘いスイーツがあってその美味しさは王都で一二を争うほどなんだとか。
ゲナイオス先輩は先に入ってドアを押さえてくれた。小さなことでもお礼は言うのが私の美徳だ。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
カフェの中には物理的に甘い空気が漂う。砂糖の匂いだ。適当な席に座ってメニュー見た。
どれも本当に甘そうで、見た目は可愛いけれど本当に甘そうだ。
失礼かもしれないが、私は甘いものが苦手だ。正確には砂糖が多くてザラザラとしたクリームが苦手だ。クッキーは好きだけどメニューにはやはり無い。
「何を頼むかい?」
店員さんは注文を聞きに来たそうで、ゲナイオス先輩は私に聞く。
「ではこの1番人気のやつを」
理由はなく、ただ目についたから。ただタイトルだけでも甘そうだ。
「わかった」
沈黙は長いような短いような。わからないけど微妙な雰囲気。少しだけゲナイオス先輩の視線が私の胸元に行っていた。
「どうしましたか?」
「あっすまないね。そのペンダントが気になって」
私はペンダントを首から外して机に置く。少し錆びていはいるけれど、事前に磨いておいたし銀のペンダントに彫られた模様も悪くないはずだ。
「これですか?」
「ああ、ずいぶん年季の入っているし…それロケットペンダントだろ?」
「ええ」
少しだけ驚いた。パッと見はロケットペンダントに見えない。
「よくわかりましたね。ロケットペンダントってそんなに分かるものですか?」
「……まあなんとなく。何か入れてるのかい?恋人がいたら済まないが……」
頭をかきながら、気まずそうに言う。
ロケットペンダントなんて恋人へのプレゼントくらいにしか使わないし用意しない。
「知り合いが、婚約者とお揃いにと2つ買ったらしいんですが、恥ずかしくて渡せなかったから貰ってと頂いたんです。」
事実だ。知り合いが妹という以外間違いない。私は少しロケットをいじっているとパカっと開けた。
「?何を入れてるんだい?あっ見せたくないならそれで良いんだが……」
「いえ……実は知り合いに書いていただいたもので」
「?」
ロケットに入った絵を見て口角が上がる。
そこには400年前の、キャエルだった時の自画像が描かれている。顔だけで、今とそう変わらない。保護魔法もかけていたので絵は全く衰えていなかった。
「ふふっ……使い道に困っていたら、知り合いはなんでか私の絵を描いたんです。少し美化されていますが。見ます?」
差し出すと美術品でも見るようにじっくりと見て、目を見開く。
「これは、誰の絵ですか?こんな画風の画家は聞いたこともない」
自画像をじっくり見られるのは変な感覚だけど、大好きな絵が評価されるのは悪い気持ちにはならなかった。
「画家じゃないんです。器用な方で、他の分野で活躍していたんですが、私は絵の才能のほうがあると思います。」
「え?今からでも画家の道に進んだほうがいいと……っ」
「でもきっと、今はなりません。でも、いいでしょ?綺麗で」
私は少し口角が上がって、ニヤけながら見た。




