(6)デート前日
ケノンとキャロリは言い争っているけど、私はだいぶ気に入っていた。
特にマーガレット。私の一番好きな花。前世から何かしらにはつけていて、聖女衣装のときはブローチ、令嬢としては刺繍のついたドレスを着ていた。
「買お!サンティさん、お金だして」
「はいはい。」
私のお金の出どころは子爵夫婦にもらった分で、子爵は大きな商会を持っているから前世侯爵令嬢に私からしても多い分を渡されている。
「次はアクセサ……」
「ごめん、ちょっと行きたいところあって……先に帰ってて」
私は申し訳なさそうに笑った。その態度が有効だったのか、ケノンは口を膨らませながらキャロリの腕を掴んで学園の方に帰っていった。
「ふふ〜ん」
買ったばかりの服が詰められた紙袋を揺らしながら、鼻歌交じりに裏山を登った。
ここは朝でも昼でも薄暗いけれど、ここの空気は気持ちがいい。そうするとすぐに教会が見えてきた。今でもここは私の秘密基地である。
ギィー
「っここの軋む音は変わらないわね……」
つい耳をぐっとふさぐ。それでも少なくとも築400年以上のここがここまで形を保っているだけでも国宝にしてもいいんじゃないのかと思ってしまう。
私は紙袋を長椅子に置いて、女神像に体を向ける。ここの女神像だけはクモの巣も張っていないし埃もかぶっていない。
「……私、友達と買い物に行きました。前世でもなかったんです!初めて、初めて友達と買い物したんです。」
私はここに来ると決まって女神像に祈りと近況報告をする。王都にあった1番大きな教会よりも、ここの方が心が込められる。
「キャロリもケノンとっても優しくて、可愛くて、自慢の友達です。」
今世の私に両親はいない。知らない。前世はお母様もお父様もいたし、大好きだけれど、物心のついた後は教会で暮らす時間のほうが長くなってしまった。
だから私の信仰心は熱い。親のいない私の親代わりと言ったらなんだけれど、それくらい大切だ。だから私は女神像にいっぱい話す。
「学園は思ったよりずっと楽しいものでね……」
「キャロリは私の前ではとってもおしゃべりで元気なのに、他の人を前にしたら声が小さいのよね〜」
「クラノスト様は、初めての男の子の友達!アテレスの子孫だったの。どうりで話しやすいわけだわ」
「ケノンは人懐っこくて、とっても可愛いの!それで、ゼーテオ君にはお姉さんっぽくてすっごいいい子」
私は話す相手は居ない。でも話すのは大のつくほど好きだ。いつまで話してもまだまだいくらでも話したいことがあってならない。
「恋のお話なんてする事になるとは……私は見聞きしましたことないのにね。」
いつだって恋の話は花を咲かせるものだ。でも私は今まで一応王子殿下の婚約者だったのに加えて、私達は超のつくほどの不仲だったのもあり、聞くような人はいなかった。
「服を選んだなんていつぶりかしら?あれ?選んだことあったかわからないけど……とってもたのしかったの!マーガレットが好きなのは知ってるでしょ?」
「男の人と出かけることになるなんて思ってもみなかったの。髪飾りでも着けたほうがいいのかしら?」
色々話していたらいつの間にか夕方だった。もうそろそろ帰らないとキャロリに心配されるだろう。
「……女神様、少々失礼します。」
私は女神像の後ろに回り込み、しゃがみ込む。そして床にある扉を引っ張った。これが意外と力がいる。
ギィー
最初の扉よりも数段耳障りな音。私の研究室は見つかることはないとは思うが見られる可能性がある上には置いておけない宝物とかも置いてある。
魔石や大好きな歴史書なんかも宝物だけど、それとは別のものだ。両手で収まるくらいの白い木箱の中にそれは入っている。
「……やっぱ、可愛いな〜」
中には水色のリボン。そしてマーガレットのブローチ。花弁は真珠で、真ん中は青い宝石でできているので結構値も張る。しかもオーダーメイド。私のお気に入りだ。
水色のリボンは知り合いがくれたもので、聖女として動いてた時か、家にいるときはだいたいこれで髪を束ねていた。
そしてその2つのほかにもう1つ。ロケットペンダント。仲に何を入れているのか分からないので何を入れているかと話に花を咲かせ、恋人と交換するなどで前世で大きく人気を誇り、妹から貰ったものの、使い道に悩んでいると話したら知り合いが私の絵をぃくれたので入れてある、謎の自画像ロケットである。
3つとも私の宝物。
私はそのうちから私はリボンとペンダントだけに抜き取って、地上に登る。
ガッ……ドン
どうにか扉を上に上げ、上がると力が抜けて扉が落ちて音がした。女神像の背中は鏡が会った場所は色が落ちていない。
「…女神アルガーペ様、私はもう帰ります!!」
服、アクセサリー。謝罪でも男性と遊びに行くの最低限は用意した。もう日は落ちて、もう帰らないといけない時間。
「ただいま」
「はぁ……おかえり。サンティよ、あんた美少女よ?こんな遅くまで外にいるの……」
「……ハハ」
わかっていたものの、キャロリに散々文句を言われた。ついでに明日出かけるのもやめるように止められた。まあ拒否する連絡手段はないけれど。
そして夕食の時にケノンに色々と明日の作戦だかなんだか言われたものの、ただお詫びをしてもらうのに、どうしてそこまでやるのだろうか?
「ふふ……」
「ちょっと、変な笑いしないでよね。」
ケノンとキャロリが何かしようとしているのは分かったものの、何をしようとしてるかまでは詮索しなかった。




