(5)服選びなり
読んだこともないはずなのに、どうしてか頭に入っている物語がある。それも1つや2つじゃなくて、何十も、何百もある。
聞いたこともない論文や、物語の中にも聞いたこともない物が登場する。
前世、仲の良かった神官長にいうと、聖女にそんな特徴は聞いたことがない。そう言っていた。
でも記憶のなかにある物語は面白くて、記憶の中で本を読んだ。
他にも初めて聞いたはずの神話に聞き覚えがあった。絶対に知る方法がないような書類を見たのにふんわり内容が先に分かっていて、デジャブだったり。
かといってそれはとても断片的で、記憶にあった気がしたが全く違うようなものもあった。
「はぁ〜……やっぱ」
「ただいま〜」
「……おかえり。」
◇◆◇
数日後、先輩との約束の日の1日前。私の右腕にはケノン、左腕にはキャロリがくっついて離れない。
「じゃあデート用に服買いに行くか〜!!」
「……」
「ちょっと、デートじゃないでしょ!」
「……」
私を真ん中に、二人は言い争う。因みに今ケノンは真っ白なシャツに薄ピンクのスカート、キャロリは紫の胸下にリボンがあるキャミワンピース。私は子爵夫人が用意してくれた青いワンピースを着ている。
別にこの服で十分だと思うけど違うらしい。前世は基本教会に服が決められていたし、今世は孤児でオシャレなんてするところじゃない。引き取られてからもオシャレに目覚められなかった。
「まあ、他に私服もないし……お願いするわ。」
「エッヘン!この最強コーディネーターに任せなさい!」
「また変なこと言って……」
服に関心のないので全部任せたいところだ。ケノンは私の腕を離して私の前で仁王立ちする。
「う〜ん……」
自分の目の周りに人差し指と親指で四角をつくり、その間から私を見回した。
「……どうしよ、何でも似合いそう……」
「そりゃ、こんな美少女に似合わない服があるか疑問ね。」
「サンティさん!好きな色は何ですか?好みの服を探ります!」
分かりやすい質問だけど、考えたことはあまりない。ケノンは楽しみと言いたげな顔をするのでつまらないだろうに。
「白と……紫と青」
「あー好きそ〜。髪と目の色だから?」
「……違うかな?理由ははっきりしてないから」
「ふーん」
ケノンは不思議そうに口を尖らせて首を傾げたかと思うと、彼女は私の前を1周も2周もして私を見回し、私の腕をガシッとつかむ。
「取りあえず行くぞ!」
「はーい」
「っちょっと!」
最初に向かった先は服屋。チャランチャランと鈴の音。
「いらっしゃいませ。」
女の店員さんは私たちの方を見た瞬間、目の色を変えて私に近づいて来た。
「お客様、お洋服をお選びしてもよろしいでしょうか!?」
「エッヘン!この子は私がコーディネートするからダメですよ」
ケノンが自慢げに私の腕を引っ張る。店員さんは残念そうに肩を落とす。
「サンティさんはここで待ってて、服を何着か用意するから」
「あっはい」
ケノンはキャロリを引っ張って私から引き離し、店のあちこちを回って服を選ぶ。
「……」
ケノンは服とにらめっこしながらアレやコレや腕にかける。ちょっと面白そうに見ていると店員さんが私の横にやってくる。
「真剣ね。」
「こんな完璧なモデルがいらっしゃるならそうなるのでは?」
「ふふっありがとうございます。」
社交辞令に離れている。侍女やお母様に服を選んで貰うこともあった。でも友人が選んでくれるなんて初めてだ。
「……ありがたいな」
「サンティさ〜ん!できました!こっち来て!」
「はーい。今行くわ。」
服を渡されてすぐに試着室に押し込まれて、渡された服に着替える。服を見ながらこんなかわいい服が似合うか心配になる。
(……一着じゃなさそうね……)
「コホンコホン、ではサンティさん!でてきて!」
「……」
着替え終わり、カーテンを開けるとケノンは自信満々に解説を始める。
「No.1!白を基調としたワンピースに透けた青い上着!ワンピースは裾のほうが薄紫でグラデーションになっていて、締めるところもなく、軽い印象を!似合ってるよ!サンティさん」
「……なんか違うような……」
たしかに可愛いけれど、ピンとこなくて、暗い顔をするとケノンは「じゃあ」と言いながらカーテンを閉じる。
「No.2!フリルをたっぷり!可愛い襟のちょっとピンクなシャツに紫の大人っぽい無地のスカート。その下にはパニエ!ちょーかわいい!」
「可愛いけど私は……」
「えー似合うのに。じゃあ次!」
またにカーテンを閉めて開ける。
「No.3――」
「「……」」
((すぐに次の服を着させて説明しだすのはちょっと酷いけど……それに合わせられるのもおかしい))
その調子で何着も試着して、いい加減私もケノンも疲れてきた。
「も〜文句ばっか言わないでよ〜」
「ケノンから言い出したんじゃないの。と言うかサンティはいつ着替えてるの?カーテン開けたら違う服着てるし……」
「ハハ……」
教会で聖女はだいぶ過労する。朝っぱらから女神アルガーペへの祈り、これが4時にある。教皇の次くらいの立場はあるので部屋は良いし、ご飯も美味しいけれど、聖女だけじゃなく第3王子の婚約者という立場もあるら日中暇がない。それで生まれた処生術。
「う〜ん……じゃあ次はサンティさんが選んで!」
「……え?」
「そっちのほうがうまくいくかもしれないわ!」
キラキラした目で近寄られては断りようもない。私は笑って了承した。
「……これかな?」
「サンティさ〜ん?選んだなら着替えてみて〜」
「わかったわ」
私は服を自分で選んだことは少ないはずだ。いつも私がするのはデザイナーが提示してきたドレスに許可するくらい。でもとても楽しかった。
「コホン、ではサンティさんコーデ!着替えられたら見せて」
「うん……」
私が選んだのは薄紫に白いマーガレットが刺繍されたワンピース。丸襟でリボン付き。
「おおー!いい感じいい感じ!決定!」
「ちょっと、勝手に決めるんじゃ……」
「自分で選んだんだから別に良くない?」




