(26)図書室で
翌朝、起きてすぐにキャロリと目が合った。いつものメガネがいない姿は結構レア。最悪の場合寝てる最中もつけてるし…まあいいけど。
その時は異様に私を見ているような気がして、後ろを見ても壁しかない。やっぱり私を見ている。
「キャロリ……どうかしたにょ?」
噛んだ。まあ寝ぼけてるしょうがない。
「……今日予定ある?」
「うん。クラノスト様と図書室に」
目を擦って体を起こす。キャロリは黙ってしまって私は少し困った。
「……着替えてもう行くわね」
休日だが一旦制服に着替え、真っ直ぐ図書室に向かった。
まだ誰も来ていないであろう廊下、早歩きで図書室に向かう。図書室は基本的にいつも開いてるらしい。これも魔法だって言っていた。
「……早すぎたかしら?」
図書室のドアを開けるとギィーと耳障りな音が響いた。誰もいない空間。というわけではないらしい。
「クラノスト様?お早いですね?」
「君もそうだよ。」
「フフ、そうですね。」
完璧な淑女の笑みを張り付け、私はクラノストの方へ近寄った。
クラノスト様は何か持っていて、私はそれを覗き聞いた。
「それは?」
少し目線を上げると目が合った。クラノストは少し棚の方へ視線をずらした。
「昔の歌集だ。古語だが……読めるか?」
「はい。一様、簡単な文なら」
私の返事を聞いて、彼は少し歩き始めた。2階の方に。
「え?ここって許可が必要なんじゃ……」
「それは魔物の所だけだ。」
そう言って足早に階段を登る。私は慌てて追いかけて、2階に上がった。
彼は少しして止まった。私は不思議で聞いた。
「いきなりどうしたんですか?」
「……いや?ちょっと気になることがあって」
いつもの犬らしさが何処か薄い何か。感じたことのあるような、ないような。そんな感覚。私は戸惑いつつ、綺麗に隠した。
「ねえ、今からこれ、読むから訳してくれない?」
「……わかりました。」
少し首を傾げつつ、了承した。別に失敗するはずないから。
『光は見つかった、暗闇の中。』
「ッ」
『人は光を見つめた。光は消えた』
『『あの光をもう一度』』
知ってる。この詩。覚えてる。何なら書いているのを横で見た。何でのこっているのだろう。もう400年たったのに。
「あっごめんなさい。訳すんでしたね。」
わざとらしく目を細めて笑うと、クラノストは私を睨見つけた。
「……なんで知ってるんだ?」
私は黙り込む。この詩は、私の知っている限り、残るようなものじゃない。あの方との手紙で、そこで書かれた詩。誰も残すはずない。
「……その本を、見たことがありまして。」
「暗記してるの?」
「いえ、気になった詩だったので」
そもそも読んだこともない。私は軽く誤魔化した。クラノストの意図が全く読めない。
彼は俯き、嫌な間が空く。
彼の目には、私じゃない誰かを見ているようだった。その視線、今までで何度も感じた。
「……これは、作者が不明なんだ。ただ、こう書かれていた。」
顔を上げ、目が合うと、今度はそらすことなく言った。
「『聖女キャエルと、その姉』聖女様には妹はいたけど姉はいない」
「……」
誰が、そんな物を残したんだろう?私とあの方しか知らないはずだった。それが400年後に残っている。それが不思議だった。
クラノストは私に何か聞いているわけでもないのに返事を求めているようだった。
「……君は、どのクリオブにはいるつもり?」
「魔生物、です。」
「だよな……」
彼は足を組み替えし、目線を下げる。私は奥歯を噛み締め口角を上げる。
(私は今、何をしてるのかしら?)
「あの……」
「さっきの詩は、ここの本ものじゃない。」
「……え?」
「あれは、家にあった写しにあった一つの詩……」
「……」
長い沈黙が続く。私は表情を取り付くろえずに、口が開く。前世どれほど、化かし合いをしたか、でもそれでも予想外だった。
(……さっきから話がたどたどしいわ。クリオブ?詩?意図は何?)
「ッ一体何を……!」
「さっきの詩、何処で知ったの?」
「!」
金髪の中に黒が混ざった髪。揺れて、光に照らされ、黒い所が銀色に輝いた。
その時、クラノストの髪が懐かしく感じた。
(…なんで、クラノスト様はその死を知っているの?)
彼は言っていた。『家にあった写しにあった一つの詩』と。
(あの詩は、あの方は残さない。じゃあ誰なら残せる?)
写しとクラノストは言っていた。つまり書いてあった手紙は別の場所にあるはず。
(あの詩が残せそうな人……私の机を探って、怒られなさそうな人……そんな人……)
たった一人だけ、思い浮かぶ人物がいる。チャルメイト・アテレス。前世の妹。金髪に紫の瞳を持った妹。
その瞬間、頭のなかに、最近の貴族名簿を思い出す。チャルメイト家と、セピノール家……
正しいか分からない。でも、私は今これを言うしかない。
「…魔生物のところであって……多分チャルメイト先輩が持ってきたんだと思います。」
「……そう。」
クラノストは納得はしていないが、小さく返事した感じだった。反応からして問題なかったらしい。
今日、わかったことがある。セピノール・クラノストが、前世の妹の子孫だったということだ。
(何ならリオルト様も……そう言えばあの子は黄色のマーガレットが好きって言ってたな。)
私は白いマーガレットが好き。そう言った。いつだったか忘れたけれど。
(まあいいわ。今日図書室に誘ったのは、こんな事をしたかったからじゃないもの。)
「……クラノスト様、私にちょっと付き合ってくれませんか?」
「?何にだ?」
「……歴史について、議論しませんか?」
つい口角が上がってしまった。こういうの、彼なら付き合ってくれると確信していたから。どうしてもしたかった。前世では王妃様すら引いていたから、ずっと語りたかったから。
「歴史?」




