(27)歴史オタク達
聖女キャエル、彼女の好きなものは何か、それは魔法なのか、女神アルガーペか、どちらも合っている。だがその中で『歴史』もある。
王妃教育でも皆に引かれるほどの『歴史オタク』を発揮していた。彼女は愛読書を聞かれら時にこう答えたと言われている。
「聖典と、神話の本と、歴史書です。」
面白みがないと、民衆は当時一番彼女と仲の良かった護衛の聖騎士、騎士Aに詰め寄った。そうすると少し困りながら答えたという。
「あの方は……あの方の棚には歴史書か神話しか入っていない。歴史に関しては……知らないことなどないかもしれない。そんな方だ。」
そんな彼女は、歴史を語りたい。そんな欲求があった。そして、400年たった今も、その欲求は満たされていない。
彼女は欲していた。騎士Aですら少し引いてしまうような自身と歴史を語り合える、彼女にとって唯一無二の『友人』を!
目の前に、それになり得る人物、クラノスト。彼と語れるかもと思うと、笑わずにはいられない。完璧な淑女の顔を崩さずにはいられない。
「歴史?」
不思議そうに首を傾げてこちらを見る。彼が前世の妹の子孫だと分かった時点で彼は身内同然だ。まだ明け方。まだ朝食も食べていない時、小さい議論が巻き起こる
「はい。私は歴史が大のつくほど好きなんです。」
「あっああ。」
「なので、歴史の知識で、議論いたしませんか?できませんか?」
ほんの少しの煽り。これに引っかかってくる貴族などたかが知れている。でもここは違う。ここで乗ってくる人は、プライドと、自分の力をよく理解した人だ。
「……わかった。負けるつもりはないから」
「ありがとうございます。」
元孤児であり魔力量だけで首席に登り上げた、何か聞かれて答えるくらいしか今までしていないつもりだ。私の歴史に対する熱意、私は思った。この人は私の良いライバルになると!
「先行は譲ります。好きに始めてください。」
「ではありがたく頂戴しよう。そうだな……今から500年前、隣国メルチャーディ王国の革命伝承で。」
(得意分野でしかないわ。)
前世の私が生まれているより前、それなら何百冊も何千冊も歴史書で読んだ。世界大図書館と言われるこの国の図書館で歴史書を読破した。当時一番歴史書を読んでいたのは私だろう。
「パレルソン公国を平民だったアルヒが革命を起こして、メルチャーディ王国を建国した話ですよね?私、新王となったアルヒの言葉が好きなんです。」
「……」
「アルヒは国の名前を決めた時にこういったんです。『君の名前を後世に伝えよう。君が生きていた証明だ』って。当時の王妃メルチャーディに言ったんです。いいですよね!」
早口でまくし立てるように言うとクラノストとの間に小さな沈黙が流れた。
(……やっぱりだめかしら……)
彼なら聞いてくれると勝手に思っていたけれど、自分の事をみくびって相手が引いていたのを何度も見てきた。
「……僕は……死に際の方が好きだ。」
「!」
「アルヒの最後の言葉は王妃メルチャーディではなくに親友のヴルポについて話したそうだ。」
「「『あの日の夢が果たせたはず。きっと。』」」
彼の言葉に私も重ねる。私は目をキラキラさせていつもの淑女の仮面完全に剥ぎ、彼に近寄る。
「いいですよね!だいぶコアなやつです!ヴルポはパレルソン公国の最高役職だったのにパレルソン公国を見限った1人目の協力者ですよね!確かアルヒとは私たちと同じ頃、15歳の時に出会ったのに、アルヒを信じて初代宰相になった人!見る目がありすぎと思いました。」
つい熱が入ってい思いっきり話す。自慢だけれどヴルポの話は2代目のメルチャーディ王に直接聞いた。歴史書にはその言葉は載っていないとか。
(…あれ?何でクラノスト様は知ってるの?)
「……よく知ってるな。そうだ、そうなんだ!ヴルポとアルヒは主従関係になるのにもかかわらず、妻ではなく彼に最後の言葉を聞かせる。ってのがいい。ヴルポは最後まで伴侶がいないってのも、主人に一生を捧げている感じもいい。」
「わかります!ヴルポという人物は、だからこそ生きる!」
白熱して話すこと10分、もうそろそろ食堂が開く時間だ。でも議論は終わらない。
「で、……」グゥ〜
クラノストの腹から大きな音が鳴る。私は必死に口元を隠すが、抑えられずに笑ってしまった。
「ハハハッこうこんな時間ですね。一緒に朝食にしましょう?」
「……うん。」
◇◆◇
小さく頷くクラノストと一緒に食堂へ向かった。いつも行く時間より遅かったからか、あちこち埋まっている。朝っぱらから議論していて消耗しているので私もおなかが鳴らないかギリギリだった。
「……あった!」
小さく喜びの声を上げると、私は席に座わった。私はクラノストを手招きする。
「……ありがと。」
そう言って私の向かいに座る。謎の沈黙が私を困惑させて、あたふたしてしまう。
「クラノスト様、取り敢えず朝食頼みましょう。何にします?一緒に取ってきますよ?」
「僕も行く。」
「それじゃ席取られます。」
「……じゃあ……サンドイッチで。」
ポツリとこぼした返事を頼りに私は列に並ぶ。席を見つけられてホッとしながら、少し目をこする。
「何にします?」
「……トーストとサンドイッチを一つずつ」
「はいよ」
ざわざわと周りの雑音が子守唄のようになって眠らせてこようとする。私はどうにか耐え、届いたトーストとサンドイッチを持っていった。
「ありがとう。」
「いえいえ。大丈夫です。」
また小さな沈黙が流れた。気にせず私はトーストを見る。
「では……」グゥ〜
「「……」」
(遅かったか)
私のお腹から音がする。周りの雑音で少しはかき消されたけれどクラノストからは確実に気づかれる距離だった。
「……ハハハッハハハ」
クラノスト耐えきれずに大笑いしだした。私も恥ずかしながらつられて笑った。
この回で1章が終了。




