(25)クリオブ体験その8−最終日−
「そうだね〜……魔物についての研究、というのが一番わかりやすいけれどね。」
チャルメイト先輩はあごに手をやって少し上を見上げた。
「魔物というものを理解する活動?」
「それって……」
魔物、歴史書にも昔話でも、悪として登場する。魔物は決まって戦争や、何かしらあった時に現れる。悪魔のような存在で、400年前は魔力の高い人が差別されていた。
前世で私は魔物への評価を誰よりも見てきた。聖女だから。それを理解できてもなににもならない。
私は死霊犬に手を伸ばす。反射的に。どうしてか、自分でも分からなかった。
「ここでは、魔物の生態系と大聖女様が作った結界。そして大聖女様と同じ時代を生きたフィロソン・リノンについて……」
「……リノン様?ってあの?」
フィロソン・リノン、今世で本を探した時に一番に探した歴史書を見た時と、この前の演劇を見た時。伝説の傾国の悪女。
「そう。……ハハハ、やっぱ帰っちゃう?」
先輩は笑いつつも引き攣っていて、こういうのを何回も経験してきたと分かった。変えられると分かって言う、その姿勢に、私は謎の安心を感じた。
「…また後で聞きます。」
「?ってあれ?」
私は死霊犬に目を向け、小さく微笑んだ。死霊犬は先輩の腕の中から抜け出し、私の前までゆっくりとくる。
先輩は空いた手を持て余し、私と死霊犬を交互に見た。キャロリは目の端で私を凝視しているのをそっと感じた。
「……」
死霊犬は私に頭を差し出し、私は素直に頭を撫でた。毛並みが整っていて、人懐っこい。普通の魔物はこうはいかない。私以上にそれを理解している人がいない。
「かわいいですね。私、動物が大好きなんですよ。」
「……それは良かった。」
「!」
先輩は目を細めて笑った。その姿が、妹にそっくりで、思わず私も笑ってしまった。
「ここならではなことってありますか?」
「そうだな〜、魔物の資料をゼーテオの許可で行ける?」
「なんですかそれ!」
◇◆◇
「……」
「う〜ん意外と楽しかったね〜」
帰りは迷わずに寮の方までたどり着き、夕飯を食べる。
「ちょっと、口に何か入れながら喋るんじゃないわよ!」
「へーい」
ケノンはオムライスにスプーンを入れる。薄暗い空にまん丸の満月が浮かぶ。
「まあ私は社交に行くけどね。」
「私は……社交は向いてなかったみたい。魔法にでも行こうかな?」
「だいたいはサンティさんが問題起こして早帰りだったんだし、謝ってよね!」
わざとらしく口をふくらませ、わたしをポコポコとたたいてくる。
「ごめんごめん。許して?ね?」
「う〜ん……許さん!」
「え〜」
笑いながら私はスープを飲む。今日のメニューはA定食?と言うやつでスープと魚それとフルーツのセット。これを考えた人は天才だと変なことを考えつつ、キャロリに目を向けると目に手を当て天を仰いでいた。
「キャロリ何してるの?」
「……サンティは自分の顔の良さを自覚して?」
「?」
その後ももぐもぐと夕食を食べ、食器を返しに行った。
(ふ〜、お腹いっぱ……)
「サンティ?なんでいきなりいなくになったんだ!?」
クラノストがいきなり背中から声をかけられる。いきなりでビクッとして、食器を落とし、お皿が割れた。
「あっ」
すぐに職員の人がやってきて、お皿の破片を拾い出す。私も一緒に拾い、ペコペコと頭を下げた。
「大丈夫か?怪我は?」
「大丈夫です。いきなりすいません。」
変な間ができて、何も言えずに立っていると先に沈黙を破ったのはクラノストの方。
「なんで…何処かに行ったんだ?」
大きな犬が尻尾が下がっている様子が目に浮かぶほどシュンと私を見た。思わず撫でそうになる。
「えっと、ちょっと代表の方に驚いてしまって、すいません。」
「いや、君が謝ることじゃないんだけど、その……」
何故ここまで顔を動かさずに感情を伝えられるのだろう。私はついクスリと笑ってしまった。
「?」
「今週末にでも一緒に図書室にいきませんか?」
「!ああ、君が行きたいなら付き合おう。」
明らかに嬉しそうにそう答えると、クラノストとわかれ、キャロリ達の所へ向かう。
「……なんでニヤついてるの?睨んでるの?」
ケノンはニヤ付き、キャロリは複雑そうに睨みつけられた。2人はお互いを見合って、ケノンは真顔なつもりなつもりだろうけど口元を緩ませ、キャロリ拗ねたように口を膨らます。
「「何でもない」」
「……ほんと何?」
◆◇◆
「おやすみ……」
「早いわね。いつもは本でも読んでるだろうに」
「ちょっとね〜」
先にベットにつき、浅い眠りにつく。キャロリも寝静まった時に、私は体を起こした。
「……」
ガチャとテラスドアを開け、夜中に外に出た。
満月は私を見つめ、私も満月を見つめる。そして私は口を開くのだ。
「楽しく笑う人々は影での泣き顔気づかない。心優しき者たちは、嘘に隠され消えてゆく。すべて――を見据える星々よ、正しいものに光あれ。」
前世で見つけた日記に書いてあった文章を、あの人は子守唄として歌った。これを知っているのは多分いないはずなのに、どうしてかこの身体は聞き覚えがあった。生まれ変わってから先月まで聞いたことないはずなのに。
「あの人見えたる未来には、影あるものに光灯る日、あると願いて」『空は光る』
「!」
聞き覚えのある優しい声が、聞こえた気がした。それは空耳か、何かしらの魔法なのか、私は考えるだけだった。
「……サンティ?」
部屋からの声には気づかずに、私は1人満月の下で歌った。この瞬間が心地よい。
暖かくなり出したけどまだ肌寒い風が肩を刺した。




