総集編 エーテル・カンタービレその20
静紅と魔法人形コンビの加勢により一行の戦力は跳ね上がり、一行はカザキたちに王手をかける直前まで来ていた。
少し前に六花が「塔の上から妙な反応を感じた」と言ってアリスとマル姉を連れて戦線から離れたが、そこに静紅が入る形で加勢したので問題はない。
「蜜柑!」
「ああ、これで決める!」
腐敗の骸コロウを拳に纏わせ、蜜柑は因縁の相手ターボに向けてパンチを繰り出す。
が、彼女の手を意図も容易く受け止め、そして制止した人物がいた。
「失礼するよ。我々は予想以上の被害を受けた、ここは一時退却だ」
「この感じ……それにこの声、まさかあなた……」
今までペルソナたちと密接に関わってきた静紅だからこそ分かる。
この雰囲気は[成れの果てのソレ]と全く同じだった。
それにマル姉の倉庫にブーツを取りに行った時、聞こえてきた奇妙な男の声の主だ。
男は金の装飾が施された紳士服を着ており、またかえって不気味さを覚える微笑みを常に浮かべている。
破壊衝動の成れの果てルインズだ。
ぼうっとする静紅の背中を、アテナはぱしんと叩く。
「ご主人様、今目の前にいるのは世界平和を揺るがしかねない大悪党なんです。必ずアバドンに収容しませんとですわ! シャキッとしてくださいまし!」
「で、でもお姉ちゃん! あの男の人なんか変なの生み出してるよ!?」
「こらヘスティア、弱音を吐かな──────あ、あれは……」
ルインズが光の糸から生み出したのは、アテナが絶句するほど奇妙で悍ましい異形の生物。
異形の生物は生み出されると、打ち上げられた魚のように跳ね、暴れている。
「ホムンクルス……?」
一行はその化け物に既視感があった。
異様に肥大化した部位や奇妙な動きはまさにホムンクルスのソレだ。
しかしホムンクルスよりもさらに人間からかけ離れた見た目をしており、その背からは未完成の翼のようなものが生えている。
「半分正解。これは[カセドラル]、ホムンクルスをさらに改造して生み出した完全上位互換だ」
一行がカセドラルに気を取られていると、カザキたちはいつの間にか拘束を抜け出し、退却の準備を始めていた。
ダリアの瞬間移動で次々にカザキたちが姿をくらます中、最後にルインズが言う。
「今回の作戦は引き分けとさせて頂こう。クイナグチ君、君の活躍楽しみにしているよ」
「待て! エーテルを返せ!」
「ああ、残念だがエーテルは返却させてもらうよ。こちらが劣勢なのに引き分けというのは傲慢だろう? 詫びと言えば何だが、彼女は姉妹の元に返すよ。返してからの安全は保証できないけれどね」
劣勢でもなお、会話の主導権を握り続けるルインズに静紅は奥歯を噛み締める。
「今は自分の身を案じたまえ、カセドラルに殺されてはエーテルと姉妹の再会は見れないだろう」
ルインズはそれだけ言うと、指を鳴らしてカザキ一行と共に姿を消してしまった。
「追いかけたい気持ちは山々やけど、まずはこのバケモンを何とかせんとあかんみたいやな」
「俺たちに対してたった一匹なんて舐められたもんだぜ!」
傷ついた体に鞭を打って、意気揚々と戦闘準備を行う蜜柑と結芽子。
「ホムンクルスの上位互換だ、正直この人数でも勝てるかどうか……」
「お師匠様! 迷っている場合ではありません!」「私たちも加勢するから、頑張ろう!」
後方で治癒の効果を受けていた二人は顔を引き攣らせながら、しかし加勢せんと武器を構えてやってきた。
「フレデリカ、アルトリア! ありがとう、でも無理はダメだよ」
「一応傷は塞がりました……中身はまだ痛みますが戦えます!」
『ウギギ……標的、フクスウ……掃討ス!』
「べらべら喋ってる暇はねえ、構えろ!」
[残響]の意を持つ名を与えられたその化け物は、各々武器を構える静紅たちを認めると触手を出現させてこちらに襲いかかってきた───!
・・・・・
煙炉塔頂上にて、六花の案内でやってきたアリス、マル姉そしてベルアは小さな古屋を発見した。
「あの小屋にエーテルが居るの?」
六花が感知した妙な気配というのは、エーテルの気配に近いものだった。
だからもしかしたら、塔の地下から移動させられたエーテルが頂上にいるかもしれないと皆を連れてやってきたのだ。
妹との再会を目前にしたアリスは、息遣いを荒くしながら小屋の方に駆けていく。
「待ってください、エーテルさんほどの重要人物をこんな小屋に放っておくわけがありません!」
「敵が潜んでる恐れがあるってことか」
「だったらそいつを倒してエーテルを救うだけ!」
小屋の扉を蹴破り、中の様子を確認する。
そこには黒曜の箱とうずくまった男性の姿があった。
「……あ?」
「あなたがエーテルをここに?」
「ここでエーテルを護衛するって任務だけど……この人数じゃ勝ち目は無さそうっスね」
引きつった笑みを浮かべてそう言った男性は目を泳がせながら話し始める。
「俺はマスラ、一応組織の幹部だけどそれは着任歴が長いってだけの幹部さ」
「組織っていうのは今回の件で暴れ回ってる集団よね?」
アリスに追いついたベルアが問う。
「そう。でも俺は思うんだ、俺達にはこの子の未来を奪う権利も、姉妹の幸せを奪う必要も無いんじゃないかって」
「何が言いたいの」
「ボス達には悪いけど、俺はエーテルを逃がそうと思う。とりあえずあんた達に引き渡すから、それからこの子の姉妹の所に送ってあげてくれ」
敵の言葉など信用するものでは無いが、アリスには彼が嘘をついているようには見えなかった。
こんなにも誠実で、それでいてエーテルの未来まで考えられる人物がどうして悪の組織なんかにいるのか不思議でたまらなかった。
「私がエーテルの姉、アリス。それでこっちがマル姉」
アリスが自分たちに指を向けて自己紹介をしていると、突然黒曜の箱の中から物音がした。
「マスラさん、もう出てもいーい?」
聞き覚えのある声だ。鐘の音のような透き通った可愛らしい声。
三年ぶりのその声に、アリスはそれだけで胸がぎゅっとなる。
「危険な人かと思って急いで箱の中に隠れさせたんだ。もういいよ、ほら出てくるんだ」
マスラは黒曜の箱の蓋をゆっくりと開けて、中にいる少女の様子を確認する。
「[あの機械]からこの子を取り出した時は心拍停止とか吐血とかでどうなることかと思ったけど、この箱のおかげで何とかなったみたいだ」
チカコの発明品、[黒曜の箱]はいわゆる持ち運び式の生命維持装置だ。
重症患者を箱の中に入れることで、自動的に治療が始まり少しすると完治する。
生産コストがあまりにも高いため、量産は難しく患者の後遺症に関しても現在は特に分かってはいない。
それでも死ぬよりはマシだったはずだ。
「あ……ああ……」
箱の中からぴょこっと頭を覗かせたエーテルを見て、アリスは膝から崩れ落ちた。
もう何十年も会っていなかった気がする。
この瞬間をどれほど夢見てここまで頑張ってきたか。
「エーテル、ほら。お姉ちゃんたちと一緒にここを出るんだ」
「うん、わかった。ありがとうマスラさん」
相変わらず美しい髪色だ。
布一枚で作られた貧しい服を着ているが、アリスにとってはそんなことはもうどうでも良くなっていた。
「アリスお姉ちゃん、きっと助けに来てくれるって信じてた」
「助けに行くに決まってる……あなたが世界の反対に居たって、必ず私はあなたを助けるよ……」
思わず泣き出して、それを隠すようにエーテルを抱きしめるアリス。
「マル姉もありがとう、二人とも大きくなっててびっくり」
「それを言うならエーテルもだろう、こんなに大きくなって……」
姉妹三人で抱き合う光景に、六花とベルアは思わず目を逸らす。
「マスラさん、と言いましたか。あなたはカザキ一派の幹部なんですよね。犯罪者は犯罪者です、牢に入れるかはおいおいとして、話を聞かせてください」
「……それは無理なお願いだよ。俺だってもうこんなことはしたくないさ、それでも俺はボスに救ってもらったから生きている。恩を仇で返すようなことはしたくない」
「あっそ! なら無理やりにでも連れて行ってやるわ!」
杖を構えるベルアは、マスラに向かっていつでも発射できるように炎の小鳥たちを数体出現させた。
「ちょっと待ってくれ! 俺はあんた達に危害を加える気は無いんだ!」
と、顔を覆うように驚いた瞬間。。
小屋の中に突然、眼帯の少女が現れる。
「マスラ、作戦失敗、撤退する」
そう言ってダリアは彼の背中に触れると同時に、二人共が突然姿を消した。
「消え……た? ああもう! またこの瞬間移動ってやつね! あんなのずるいわよ!」
「ダリアという少女がいる限り、組織は奇襲も撤退も自由にできます。何気に一番厄介な存在かも知れませんね」
それはそれとして、六花はエーテルと再開した二人の肩に触れた。
「気持ちはすごく分かりますが、再会を噛み締めるのは後にしてください。今はここから脱出しましょう」
遂にエーテルと再会できたアリスとマル姉さん。
総集編はあと3話程度で終わります!




