総集編 エーテル・カンタービレその21
塔の頂上から脱出した六花たちは、エーテルを連れて地上へ降りてきた。
そこにはカセドラルと激闘を繰り広げる静紅たちがおり、頂上にいたメンバーはすぐに戦闘態勢をとる。
「私に良い策がある。特にアリス、ベルア! 二人ともよく聞いて!!」
塔の地下には高濃度のエネルギーを含んだ液体を運ぶパイプが張り巡らされている。
カセドラルの激しい攻撃によりそれが露出し、周囲に電気が迸っている。
それを上手く利用し、静紅たちはカセドラルに大ダメージを与えることに成功する。
「死になさいカセドラル!」
『力……力が……ホシイ……[蒼穹の巫女]……オマ、エの……力があれ、ばばばば……』
肌が焼けただれた、見るだけで吐き気を催しそうな容姿になったカセドラルが、地を這いながら姿を見せた。
「蒼穹の巫女……ってまさかエーテルのこと?」
その単語には一切の聞き覚えがないものの、重要な単語ということを言っているような気がした。
「往生際の悪い!」
マル姉はエーテルを自分の後ろに行かせて、対物銃の引き金を引いた。
火薬の匂いが辺りに充満したのと同時に、カセドラルは今度こそ脳天を貫かれて事切れた。
「カセドラル……彼の言っていた[蒼穹の巫女]ってどういう意味なんでしょう」
「分からない……けど、アイツが死に際にそう言うほど重要なことに変わりはないよ」
たしかにエーテルの能力がこの都市にもたらした祝福は計り知れない。
それと関係したものなのか、それともまた別の何かなのか。
今の静紅たちには知る術も由もない。
エーテルの保護と奪還、カセドラルの討伐という大仕事を終えた静紅たちだったが、いつものようなハッピーエンドにはなりそうには無かった。
・・・・・
エーテルを救い出すため、煙炉塔に潜入してから数日。
近代都市アドウェルでは未だに電気の復旧作業が続いている。
「しっかしどうしたものかね、これは」
「師匠、この通りや! この都市を救ってあげてもらえへんか!」
かつて鍛治の賢者と謳われた女性であり、結芽子の師匠であるポカは地下から崩れ落ちた煙炉塔と、その設計図を眺めていた。
結芽子は腰を九十度に折ってお願いするが、ポカは厳しい表情を浮かべている。
「ボクだって何とかしたいさ、それでもこれは修復不可能ってやつだよ」
煙炉塔が修復不可能では、電力を供給出来るようになるのは更に後になる。
「建物自体は何とかなるんだけど、やっぱりエネルギーを抽出する物がないと」
「や、やっぱりわたしがもう一度やる」
エーテルがポカに近くに寄ってそう言うが、ポカは首を横に振る。
「君の話は聞いたよ、三年もの間、地下に隔離されて能力搾取を行われて居たってね」
「のうりょく、さく……なんて?」
「能力搾取さ。[本人が望んでいないのに、無理やり能力を使わせて利益を得る]ことは国際法に反するのさ」
人権的なあれか。
この世界にもそういうものはあるんだね。
「話を戻すけれど、君がもう一度この街の電力を生み出すという意見には反対するね。けれど君が苦しまなくて、悪い気もしない方法で電力を生み出す方法ならある」
「教えて! ぜったい成功させるから!」
三年間、暗い地下で隔離されていたとは思えないほど元気な少女エーテル。
空元気かどうかは分からないが、少なくとも人為的災害が起きたこの街にとって彼女の無事が何よりもの幸いだったことには変わらない。
「静紅さん、物運び手伝ってください」
「もー、能力搾取だよそれー」
「はいはい、さっさと働いてください冴えない社畜さん」
そうそう、この街の人達は電力が一人の少女の苦痛によって生み出されていたということを知らなかったらしい。
そしてこの街の電力を扱っていたのは、あの[ルインズ]だった。
彼は長年かけて街の人からの信頼を得て、エーテルを能力搾取出来る地位まで上り詰めたという。
ペルソナは、成れの果てのことを人間の皮を被った化け物だ。と言っていた。
彼女のことはそう思っていないけれど、ルインズに関しては化け物よりもタチが悪いだろう。
カザキ、そしてチカコと共に姿を消したルインズ。
彼らは今回の一件で、世界を敵に回したことになった。
というのもポカの伝書鳩で王都の方にいる紗友里に、今回の件について手紙を送らせてもらった。
その返信には、今回の件について近いうちに王様同士で会議をする場を設けると書いてあった。
まだまだ問題は山積みだが、今はエーテルの笑顔が見れるだけで静紅は幸せだ。
「…………」
「どうしたのアリス」
「ひっ!? あ、ああ……なんだシズクか……」
「あなたがぼうってしてるなんて珍しいね」
「いやその……なんというか、三年間も話していなかったんだし、恥ずかしいというか」
まあ、気持ちが分からなくもない、夏休みの間一言も話さなかった友達と、新学期話すのは気恥ずかしい。
それの三年バージョンと思えば、アリスの気持ちは少しわかる。
「でも、エーテルは話しかけて欲しいと思うけどね」
「それはそうかもだけど……」
「少なくとも私なら妹に話しかけて欲しいけどなあ」
「え、シズク妹いたんだ」
驚いた表情のアリスの隣で、六花は声にもならない驚きの声を上げていた。
「あれ、言ってなかったっけ。妹が一人いるよ」
「聞いてないですよ静紅さん!? え、本当です!?」
「嘘ついてるように見える?」
「いやしかし、家に遊びに行った時には妹さんは居なかったような……」
「姉妹っていってもいとこみたいなものなんだ、中学の頃に義妹が出来て、それからすぐに寮制の学校に行っちゃったから、あんまり覚えてないけどね」
六花がよく家に遊びに来ていたのは小学生の頃だ。
この時はまだ義妹は家に来ていなかったからね。
「まあ、なんだ……だからエーテルも話しかけて欲しいと思うよ」
「分かった、言ってくるよ」
アリスもアリスで可愛いところはあるんだな、と見送る静紅に抱きつくように六花が飛んできた。
「静紅さんんんん、せめて妹さんの名前だけでも!」
「別に名前くらいならいいよー」
先程から六花は、妹に会わせてとか話したいとかこの世界では無理なことばかり要求してきていた。
名前くらいなら教えてもいいだろう。
「あの子の名前は──────」
「うんうん! 名前は名前は!?」
「名前は──────」
「おーい静紅ー! なんか偉い人が呼んでるってよ!」
「蜜柑さあああん!?!?」
邪魔が入った六花は、頭から煙を出しながら蜜柑の胸元を掴みあげた。
とりあえず蜜柑のいう偉い人の所に行かないと。
「げっ」
そこには見覚えのある顔があった。
帽子を深く被った、黒服の美少年。
「シズク・クイナグチ殿、今回お伺いさせていただきましたのは前回の非礼の詫びと今回の件の報酬です」
たしか名前は、処刑人エクス。
縛り上げられて苦しんでる女の子を見て股間を興奮させるド変態野郎だ。
「報酬?」
「はい、まずは謝罪からさせていただきます」
静紅と処刑人エクスという異例のコンビの会話によって、野次馬がどんどん増えていく。
「ルファス刑務所での非礼、私から詫びさせていただきます。脱獄の共犯であることには変わりありませんが、シズク様がいなければアドウェルはカセドラルに蹂躙されていましたから」
「ちょっと、頭上げてよ。あなたの言うとおり、私は脱獄に協力した犯罪者だった。あなたが刑罰を下すのも仕方ないことだったと思ってるよ」
「感謝します。それと今回の報酬なのですが、独自のルートからとある紙を用意させていただきました」
「紙?」
エクスが差し出したのは、ただの紙切れだった。
「黄昏の王国アーベント・デンメルングの件、そして今回の近代都市アドウェルの件により、世界各国の国王様があなたと会いたいと仰っています。スムーズにかつ円滑に面会するため、この紙を用意しました」
面会証明書的なやつか。
これがあれば、いつでもその国のお城に行って王様と話せると。
「あれ、そういえばマカリナからそういうの貰ってた気がする」
「はい、ですので今回は二時間延長コースの証明書でございます」
「カラオケかよ」
マカリナとは獣人族の王国アーク・ビレッジを治める静紅と仲のいい猫耳の少女だ。
「お納めください」
「あ、ああ……ありがとう、貰っておくね」
王様との面会券なんて、お金を出しても買えないものだ。
貰っておいて損は無いし、きっと必ずいつか使うだろう。
静紅は数枚の王様のサインと名前が書かれた紙切れを握りしめて、エクスと握手を交わすのであった。
次回くらいで終われたらいいな・・・!!
そして!
総集編が終わったら遂に新章の第23章開幕ですよ!!!




