5 如月上総の動揺
5如月上総の動揺
「むー・・・。」
英語なんて、なくなってしまえばいい・・・
「どうしたの?上総ちゃん。」
あたしのクラスは、今日、こないだの模試の結果が返された。
「A判定が出ない・・・」
「え?・・・しょうがないんじゃないの?まだ二年の十二月じゃん。」
「そうそう。・・・テストは、十一月だったし。」
弥生と洋介が慰めてくれるけど、気分は晴れない。
「滑り止めのつもりの私大も、あんま良くないしさ。」
「でも、山勝先生言ってたよ?今から、A判定もらえるような学校目指してるんじゃない!この時期にD判定E判定もらってるような大学を目標において、最終的にはそこに合格するくらいの気概で行け!て。」
「まぁ、そうなんだけどさー・・・。」
通知表には、見事にEDDCCと並んでいる。
「そういえばさ、上総ちゃんて、何学部だっけ?」
「教育だよ。小学校の先生になるの。」
母さんにあんまり言葉をもらえなかった分、あたしにとって、小学校の先生の存在は大きかった。中でも、小六のときの先生には、すっごくお世話になった。その先生みたいな、先生にあたしもなりたい。思い始めたのはつい最近だったけど、それはすごく、しっくりきた。
「そっかぁ。」
「へぇ・・・じゃあ、オレと一緒じゃん。」
「え?!」
洋介も先生になりたかったの?
「オレも、教育学勉強できるところ目指してんの。・・・保父もいいなぁ、とか思ってるから、教育学ってより、児童学なのかもしれねぇけど。」
「へぇ・・・」
初めて聞いた・・・。
「そっかぁ、洋ちゃん、妹と弟のお世話で、慣れてるもんね。」
「そうそう。赤ん坊から小学生まで、任せとけって感じだぜ。」
なるほど。洋介、弟と妹がいるんだ・・・。
「洋介って、何人兄弟?」
「五人だよ。」
「え。五人?!」
この少子化の時代に・・・すごい。
「じゃあ、下に四人いるの?」
「いや、下は三人。」
「大学生の、お兄さんがいるんだよねー。」
弥生、詳しいな。・・・まぁ、二人は小学校からの知り合いらしいしね。
あたしと弥生は小学校が同じだったけど、洋介は違った。ただ、弥生と塾が同じだったらしくて、そこで二人が知り合って、中学で初めて一緒になった時、あたしと洋介は、弥生の紹介で知り合った。
「あ、そうそう。そのお兄さんだけどね、ここだけの話・・・実は、秋葉ちゃんの彼氏さんなのだー!」
・・・・・・。
「「え~!!」」
って、なんで洋介まで驚いてんのよ。
「まじかよ、それ。」
「うん。この前の休みにね、二人でデートしてる所に会ったの。」
「偶然一緒にいた、とかじゃなくて?」
「秋葉ちゃんに聞いたもん。一緒にいるの、彼氏さん?て。そしたら、『うん❤』て答えて。その大学生、絶対滋さんだったよ。」
「・・・お前、兄貴のこと知ってたっけ?」
「家で挨拶くらいしたことあるし。最近の写真も、この前みおちゃんに見せてもらったもん。」
「そうか・・・。」
・・・・・・なんか、個人名だされると着いていけないんだけど。とりあえず、私にとっては三つの新事実発覚。
一、洋介は五人兄弟の二番目。
二、洋介のお兄さんは秋葉ちゃんの彼氏。
三、弥生と洋介が、思っていたより仲が良かった。
そう、三つ目の事実大切!なんか、前・・・冗談で前に、「弥生のことスキとかー?」なんて言ったけど・・・マジだったりして!
「上総ちゃん、どうしたの?」
「ううん!なんでも。」
前までは、弥生は大和のことが好きだったみたいだから、ダメだったけど・・・今なら、もしかしたら・・・。チャンスだよ、洋介!!
「そういえば、上総ちゃんは、第一志望どこ?」
「えー?・・・笑わない?」
「もちろん。」
さすが弥生!
「内容による。」
洋介のやつ・・・
「笑うな。」
「・・・了解。」
よし。
「一応ね、ホントに、ダメもとで、だけどね。」
「うん。」
「・・・模試に出してるので一番レベル高いのは、T大。」
「「・・・・・・。」」
う・・・やっぱ、こういう反応になるよね・・・。
「すっごーい!上総ちゃん。」
「何お前、それでA判定もらえない・・・とかこぼしてたのかよ?!」
「いや、だから。ホントに・・・ね、チャレンジ精神で書いてみてるだけで、行けるとは思ってないから。」
「・・・ちなみに、今何判定か訊いてもいい?」
「・・・Eです。」
「だよなぁ。」
当たり前の反応かもしれないけど、なんか洋介のはムカつく。
「ってぇ!」
ってことで、殴った。
「じゃあ、ホントの第一志望は?」
「K大か、G大かなぁ、って。」
そのあたりもまだ、C判定なんだけどさ。
「そっか。」
「国公立だけなのか?お前。」
「まさか。私大も受けるよ。自信ないし。」
「たとえば?」
「・・・・・・W大とか。」
「へぇ、また有名どこ。」
「あれ?偏差値、K大より高くない?」
「そう。」
だって、他の私大って・・・まだよく知らないんだもん。
「弥生は?」
「やよもねー、無謀なの書いてるよー。」
「へぇ、どこ?」
「O大!外国語学部!」
「おぉー・・・でも、弥生英語得意だもんね、がんばれば行けるんじゃないの?」
弥生はもう、英検で確か・・・二級は持ってたはず。しかも、この前準一級を取りに行って・・・結果待ちだったと思う。
「ばーか。こいつのアレ、忘れてるだろ。」
バカってなによ、バカって・・・。
「あれって?」
「国立大学には、必ず付いて回る教科。」
国立には?・・・ってことは、文系なら、受けなくてもいいところもある教科ってことで・・・
「あー!」
「な?」
「そっか、数学苦手だもんね。」
「うん!」
そっかぁ・・・じゃあ、弥生は完全に、私立型だね。
私大だったら・・・ホント、W大とかも行けちゃいそうだ・・・
私も、もう少し英語を何とかすれば、希望が見えてくるのかなぁ・・・
「ってか、この会話いつまで続くわけ。」
「洋ちゃん、嫌なら席戻ってもいいんだよ?」
「・・・・・・お前って、ホント・・・まぁいいや。」
なんなの?洋介のやつ。
・・・そういえば、
「洋介は?」
「ん?」
「洋介は、どこ書いてんの?」
「オレ?オレは・・・やっぱ、G大とか・・・S大とか。」
「ふーん。」
やっぱ、教育学部かぁ。
「って、反応それだけかよ。」
関東か。・・・弥生が、阪大のほかも関西方面の学校だったら・・・完全に反対方向じゃん。
普段バカやってるけど、洋介だって悪い奴じゃないし・・・てか、ちょっといいやつだし。弥生も大の親友だからなぁ。両方とも幸せになってほしい。
「おい、無視か?」
「あ。ごめん。なんだっけ?」
「・・・・・・なぁ、オレ、泣いていい?」
「へ?・・・勝手にすれば?」
なんであたしに許可を取る?あ。そっか、近くで泣かれると、うるさいもんね。
「やっぱ、泣くなら席戻ってからにして。」
「・・・・・・弥生、」
「ドンマイ。負けるな、洋ちゃん。」
・・・やっぱ、仲いいよねぇ、この二人。
「棒読みの声援ありがとう。」
「どういたしまして♪」
やっぱここは、あたしが一肌脱ぐしかないかな?洋介、告白とかできなそうだし。弥生が、すぐに切り替えられるかは分からないけど・・・もう、五ヶ月近く経つんだもんね。
二人とも、お互いに好意はありそうだし。
・・・って。なんか、あたしって・・・恋のキューピッドみたいじゃない?なんか楽しい♪
「いってらっしゃーい、がんばれー。」
え。いってらっしゃい?弥生ったら、誰に・・・ってあれ?洋介?
「洋介、どうしたの?」
「え?部活だよ。・・・話してたの聞いてなかった?」
考え事に夢中だった・・・!
「うん・・・。」
「上総ちゃん、なんか元気ないねぇ。」
「え?別に。そんなことないよ?」
「だって、なんか静かだし。」
それは、考え事があるからで。
「さっきから、考え事ばっかだし。」
二人のこと考えてました!・・・なんて、本人の前では言えないよねぇ…。
「それに・・・なんか、楽しそうなんだけど、少しだけ寂しそう。」
え?『楽しそう』は、確かにそうだよ。楽しんでるもん。自分が恋するのも、なんか世界の色が変わって見えるけど、人の恋を・・・応援するのって、なんでだろ?楽しい!初めての経験だからかな?
でも・・・『寂しそう』って・・・
「別に、そんなことないよ。」
今、すっごく楽しんでる・・・つもりなんだけど、なぁ・・・。
「・・・・・・ねぇ、上総ちゃん。」
「なに?」
「・・・・・・洋ちゃんのこと、どう思う?」
やっぱりー!!弥生ったら、洋介のこと気になってんじゃん!
ん?『やっぱり』は違うか。洋介が・・・あれ、弥生が?
・・・あたし、そもそもなんで、二人が好き合ってるって思ったんだっけ?
いや、でも。今の弥生のこの言葉は・・・!
「洋介を?」
「うん。」
絶対、気にしてるってことだよね?!
「そうだなぁ・・・まぁ、いいやつだよね。」
なんだかんだで面倒見いいし。話してて楽しいし。
まぁ、かっこいいかって言われると・・・微妙だけど。
あ、でも・・・。サッカーやってるときのあいつは、なんかかっこよく見えたりするんだよね・・・
「そっか。」
「うん。・・・弥生は、どう思ってるの?」
「やよ?やよはねぇ・・・。ちょっと抜けてるとこあったり、いじられ役だったりするけど、優しくて、頼りになる子・・・って感じかな。」
「そっかぁ・・・。」
優しくて、頼りになる・・・か。
そういう評価は、したこと無かったなぁ。まぁ、さっき言ったのも似たようなものかもしれないけど。
「そうだね、そうかもしれない。」
人に聞くと、自分とは違う視点でその人とかものを見てるからかな?新しい発見というか、そういうのがあって・・・おもしろい。
「あのね、上総ちゃん。」
「何?」
相談なら、乗るよ!喜んで。
前、飛鳥ちゃんのときは、弥生が相談乗ってくれたもんねぇ。
「上総ちゃんは、今・・・好きな人っている?」
わぁ・・・やっぱり、こういう展開だぁ。
「うーん・・・あたしは、今は・・・いない、かな。」
とりあえず、あたしのこと・・・弥生の質問には答えて、この流れだと次は、
「弥生は?」と聞くところなんだけれど。
「そっかぁ。じゃあ、あのね、上総ちゃん。聞いてくれる?」
って、弥生から切り出してくるみたいだから、わざわざあたしが、その弥生の決意を無駄にするわけにはいかないよね。こういうことも、臨機応変に、だ。
「何?」
「洋ちゃんのことなんだけど、ね。」
キタ―――――
「洋ちゃんね、ずっと前から、好きな人がいるんだって。」
え?なに、洋介。
もう告白してあったりするわけ?実は。
「それでね、その好きな人っていうのがね、」
「うん。」
「・・・・・・上総ちゃんなんだよ。」
・・・・・・は?
「・・・・・・なんだって?」
「だから、洋ちゃんの好きな人は、上総ちゃんなの。」
「は~~~~~?!!!!」
何言ってんの?弥生ったら!
あたしは、弥生の恋愛相談に乗ってあげる予定だったんだよ?
なのに、なんであたしの名前が出てくるのよ!!
ってか、洋介が?
洋介が好きなのは、弥生でしょ?
・・・・・・あれ。
そういえば、ホントに。
なんで、洋介と弥生が・・・って、思ったんだっけ?
「上総ちゃん?」
そうか。きっと、弥生の勘違いだよ、これは。
あいつが、こんなあたしを、好きなわけないじゃん。
いっつも、人のこと馬鹿にしてさ。弥生との方が断然仲いいじゃん。
きっと、洋介が、『オレ、好きな人いるんだ』とかって、一世一代の告白したのを、弥生が、『あ。それって、上総ちゃんのことでしょ!』とかって、勘違いしちゃって、あいつはへたれだから、否定できなかったんだよ。
うん、絶対そうだ!
「上総ちゃん・・・なんか、すごい勘違いしてない?」
・・・弥生って、あたしが何考えてるかわかるのかな?もしかして。
「だって、そんな・・・」
勘違いって言われても・・・
そりゃあ、あたしが、『洋介は弥生が好きなんだ』って思ったのに証拠はないけど・・・
「弥生の推測でしょ?そんな、洋介が・・・なんて。」
なんか、言葉にするのが恥ずかしい。
「・・・あのね、洋ちゃんは、子どもなの。だから、好きな子はいじめたくなっちゃうんだよ。」
「その結果が、あの悪口ってわけ?」
それが似合わないだとか、足が太いとか、少し太ってきたんじゃないかとか・・・
女の子が気にするようなことを平気で言ってくるんだもんな、あいつ。
「でも・・・やさしいでしょ?」
「へ?」
「洋ちゃん、いじわるなこと言うばっかじゃなくて、優しいでしょ?」
「・・・・・・うん、まぁ・・・。でも・・・!」
弥生話してるときとは、洋介の態度は違う。
「あ。洋ちゃんだぁ。」
「え?!」
今?!このタイミングで?
ってか、なんで?部活行ったんじゃ・・・
「何、お前らまだいたの。上総はともかく、弥生は?部活じゃねぇの?」
そういえば・・・
「やよはー、今日は先生いないから、部活休みなんだ―。」
「へぇ。」
ってか、やっぱり、洋介が話しかけるのは弥生じゃん。あたしが・・・とかありえないよ。
「洋ちゃんは?部活中じゃないの?」
「タオル忘れたから。」
「そっか。体育の後、使ってたもんねぇ。」
「そういうこと。」
洋介は、弥生と話しながら、自分の席に行ってタオルを持つ。
「あ、そうだ。洋ちゃん。」
「ん?」
弥生、どうしたんだろ?
「ごめんね。やよね・・・ばらしちゃったー。」
は?!
「・・・何を?誰に?」
「洋ちゃんの気持ちを、上総ちゃんに。」
な、なな・・・何言っちゃってるの、弥生ーー!!
だから、それはきっと、弥生の勘違いだって、きっと。
「え・・・、は?」
って、洋介?なんで顔赤くしてんのよ、あんたは!
まさか、まさか・・・マジで?
いやいや、ありえないって!
・・・こっち見るなぁ・・・なんか、現実味増してくるじゃん!
「じゃあ、やよは帰るから。」
え。ちょっと待って!
「サッカー部の部長さんには、やよから言っといてあげる。お詫びの気持ちだから、気にしないで。それじゃ!」
弥生は、信じられない速さで荷物をまとめて、教室から出て行った。
残されたのは、あたしと洋介の二人・・・。
「あ、あのさ・・・」
「ホントなの?・・・弥生の言ってたこと・・・。」
「・・・・・・オレの口から言わせて。」
洋介は、赤い顔をあげて、あたしを見る。
「上総、オレは、お前のこと・・・」
このときの洋介の言葉に・・・なんだか、あたしは、温かい気持ちになれた。
終
おまけ ~弥生side~
上総ちゃん。そんな、さびしそうな顔しなくていいんだよ。
一人残されるんじゃないか、とか。
洋ちゃんに彼女できたら、今までみたいに話せなくなっちゃうんじゃないか、とか。
心配ないんだよ。
だって、上総ちゃんのこと・・・みんな、大好きだもん。
,
主人公だから?ちょっと長めでした。




