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6 美作弥生の十年計画

かなり間が空いちゃいました。これで短編集最後です。

6美作弥生の十年計画


 春が来て、私たちも高校3年生になった。

 去年は、幼馴染の姉弟が大喧嘩しちゃったり、親友が恋して、失恋しちゃったり、その親友と友達が付き合うことになったり……十年近く温めていた初恋が、ジンクス通りに破れてしまったり、いろいろ盛りだくさんだった。

 今年は、いろいろ決めなきゃいけない年、だと思うんだ。大学を決めるだけで、人生が決まるわけじゃない。それはわかってる。けど、今後の人生に大きくかかわることじゃないかとも思う。いつまでも、まだ先のことだから考えられない、なんて言っていられないんだよなぁ、なんて。



「危ない!」


 誰かの声がして、反射的に道の端に避ける。

 考え事をしながら歩いていた私の横を、自転車がすごいスピードで通り過ぎて行った。

 まったく。何を考えてるんですかー、あの自転車は。


「自転車は左側通行ですよ!軽車両なんですよ!歩道じゃなくて車道を走るべきなんですよ!」


 できるだけ、ね。

 言いたいことだけ、走り去っていく自転車に投げかけて、私は声をかけてくれた方へ振り返る。


「ありがとうございました」


 振り返ってすぐに、年下だってわかったけど、ちゃんと丁寧語を使う。マナーだよね、初対面だし、助けてもらったんだし?相手がたとえ、ランドセル背負った小学生でも、ね。


「て、あれ?健吾君?」

「え?……洋介の友達?」

「うん。ていうか、会ったことあるよ。中学の時」

「……あ、やよいか!」

「あー、呼び捨て?まぁ、別にいいけどー」


 思い出してくれたから、許す。なんちゃって。


「今帰るところ?」

「そうだよ」


 そっか、そうだよね。洋ちゃんの家に向かってるんだから、洋ちゃんの弟の健吾君に会っても不思議じゃないよね。


「……やよいは、洋介のところ遊びに来たの?」

「遊びに行くわけじゃないけど、そうだね。洋ちゃんに会うために?」


 そうなんだよね。洋ちゃんに会うためじゃなきゃ、こっちの道まで来ないんだから。さっき、自転車にひっかけられそうになっちゃったのだって、私がらしくなく考え込んじゃったのだって、全部洋ちゃんのせいだ!

 洋ちゃんが、こんな大切なもの忘れるから……

 帰りに見つけて、しょうがない、部活終わったら教えてあげようと思ったのに、今日に限って、洋ちゃんとこ部活お休みだし。まぁ、洋ちゃんには助けられたところもあったし、家の場所も知ってるし、親切に届けてあげようと思ったのに。

 なんで、模試の受験票を置いて行っちゃうのかな。

 明日は会場に現地集合なんだから、学校に取りに戻るのは大変なんだよ。わかってるのかな?全く。

 ……洋ちゃんも、上総ちゃんも、やりたいことが決まってて、大学選んでるんだよねぇ。

 私が、模試で志望校に書いているのは、ただ、単純に、私の成績の構成?で、受けれそうなところっていうだけ。英語は得意だけど、でも、伊予さんみたいに、一生の仕事にしたいのかって聞かれると、よくわかんない。なんか、違う気がするんだよね。


「なー、洋介のどこがよくて付き合ってんの?」

「え?」


 いつの間にか横を歩いていた健吾君が、よくわからないことを聞いてきた。

 さりげなく車道側歩いてくれてる?偶然かな?でも、いい子。


「洋ちゃんは、いいやつだよ?優しいし、抜けてるとこもあるけど、ちゃんと気をつかえる人だし」

「ふーん」

「でも、なんで?」


 お兄ちゃんの友人関係に興味あり?


「だって、洋介に彼女とか想像できねーんだもん」

「彼女?」

「違うの?」

「……私が?」

「やよいが」

「えー、違うよぉ。洋ちゃんとは、友達だもん」


 そっか、私を洋ちゃんの彼女と勘違いしてたのかぁ。


「なんか、上総ちゃんに悪いなぁ」

「え?なんに悪いって?」


 洋ちゃんは話してないみたいだし、ここで私が言っちゃうのは良くないよね。


「別にー。私は、洋ちゃんの彼女じゃないよ。今の私は、次の恋を募集中だからねー」

「次の?」

「うん!十年の恋も破れちゃったのだぁ」


 て、あらら。なんでこんなことを健吾君に話してるのかな。話そらすにしても、もうちょっと他にあるはずなんだけど……


「でも、いつまでも沈んでられないしねー。そろそろ、新しい恋をしようと思ってるんだぁ」

「へー」

「洋ちゃんいいやつだし、案外、洋ちゃんでもいいかもねー」


 なんちゃって。洋ちゃんはいいやつだけど、お友達だからね。そもそも、もう上総ちゃんの彼氏だし。


「なぁ」

「なに?」

「好きな人ってさ、そんな簡単に変えれるもんなのか?」

「え……」


 なんか、責められてる?いや、違うか。純粋な疑問て感じだな。

 うー……どうしよ。洋ちゃんと雰囲気が似てるとこあるからかな?ついついこぼしちゃったけど、まだ小学生だもんなぁ。


「えー、それ知りたい?」

「・・・・・・」

「そんなの、」


 大丈夫なわけない

 できるわけない

 でも、


「変えれるか、じゃなくて、変えるの」


 そうするしかないじゃん。


「えっと、あの……あ、こっち!」


 ありゃ?なんか、健吾君に引っ張られてしまった。公園に何の用だろう?


「ここ、座って」


 はいはい。


「えっと……ちょっと待ってて」


 ほんと、どうしたんだろう?

 健吾君は、私をベンチに座らせると、どっかに走って行ってしまった。


「これ、使って」


 と思ったら、意外とすぐに戻ってきました。そして、差し出したのは……ハンカチ?しかも、なんか濡れてる感じ?


「……あ。ぬれたのじゃふけねぇか。えっと……ごめん、自分のでふいて。で、これは、そのあと、冷やしたり?」

「拭く?」

「やよいが泣いてたら、オレが洋介の奴に文句言われるだろ」


 ……私、泣いてたんだ。言われてみれば、確かに。頬濡れてました。そっかぁ、健吾君、ハンカチを濡らしに行ってくれたんだねぇ。



「……諦めなきゃ、とは思うけど、忘れたくはないんだよねぇ」

「え?」

「大和ちゃんには幸せになって欲しいし、大和ちゃんを幸せにするのは絶対自分じゃなきゃいやだとか、そんな傲慢な考えがあるわけでもないし」

「……」


 健吾君戸惑ってるけど、ごめん。とりあえず、わけわかんなくても聞いてくれ。


「でも、ずっと片思い続ける気力もないし。ほら、人って強欲だからさ。綺麗事言ってたって、結局は自分が向けた分の愛情を返してほしくなっちゃうと思うんだぁ」


 たとえ報われなくても、貴方のことを思い続けます、なんてさ。無償の愛なんて言葉もあるし、愛情にもいろんな種類があるわけだし、それはそれで当てはまるものもあるんだろうけど。


「恋愛は、一方通行じゃ辛いよ」


 十年の片思いだって、両想いになれるかもしれないっていう、淡い期待がなきゃ続かなかったよ。


「少なくとも、私にはもう無理」


 私だって、幸せになりたいもん。


「だからね、自分のために、諦めるの。で、自分のために、新しい張り合いを見つけるの。そうしたらね、失恋だって、いい思い出になるんじゃないかな、とか。まだ、わかんないんだけど……そうなる予定」


 誰かが失恋した、なんて話があると、早く忘れて、新しい恋を見つけなよ、という流れになることが多い。でも、私の場合、相手に嫌われたわけでもないし、ひどい振られ方をしたわけでもない。

 嫌なことは忘れた方がいいと思うけど、私にとって、大和ちゃんを好きでいた時間は、嫌な時間じゃない。

 自分の片思い期間を、初恋を、否定はしたくないもんね。


「以上。勝手にしゃべり続けてごめんね」

「え、あ、いえ」

「気にしないで。自分の気持ち整理するために、話したかっただけだから」


 よし、涙は拭いちゃおう。自分ので。

 わざわざ濡らしてきてくれたハンカチも、ありがたく使わせてもらいます。

 うん。ひんやりしていい感じ。こすったりもしてないし、そんなに長い時間泣いたわけでもないし、これなら腫れたりしないかな。

 涙の始末を終えて、顔を上げたら、健吾君はさっきを同じ位置で、待っててくれた。


「お待たせ。……ハンカチは、今度洗って返すね」

「あ、いいです、別に。どうせ後で、他のといっしょに洗うんで」

「でも」

「やよいさん」

「え?」

「いいと思います。自分のやりたいことを、やれることから、少しずつってことっすよね。」


 健吾君、どうしたの?


「だれかに迷惑かけるわけじゃないんだし。自分勝手でいいじゃないすか。かっこつけて、後で後悔する方がかっこわるいっていうか……うん。焦ってもいいことない、とか、反省はしても後悔はするなって、何かで言ってたし」


 私が勝手にしゃべってただけなのに、ちゃんと考えてくれてたんだ。


「ありがとうね、健ちゃん」



「さあて、そろそろ帰んないと、家の人心配させちゃうね。行こっか!」


 健ちゃんと一緒に、久しぶりに訪れることになる甲斐家の前に着いた。


「洋介、客!」


 健ちゃんが洋ちゃんを呼んでくれて、やっと最初の目的を果たす。


「まじでありがとう。本気で忘れてた。やばかったー」

「まぁ、本番じゃないからまだましだけどねー」

「そうだな。いや、でも、ホント助かった。サンキュ」


 このくらい感謝してくれると、わざわざ届けてあげた甲斐があるってもんだよねぇ。


「じゃあ、用事も済んだし、帰るね」

「あ、澪に会ってかなくていいか?」


 ああー、洋ちゃんとこの妹の澪ちゃん。可愛いんだよなぁ。そりゃ、会いたくないと言えばウソになるけど……


「時間も遅いし、また今度にするね」

「そっか」

「うん。……上総ちゃんにも悪いし」

「え?」

「あ。そーだ、健ちゃん!」


 よくわかってないらしい洋ちゃんは無視して。澪ちゃんと会う機会は自分で作ります。


「はい!?」

「卒業公演のチケットあげる。よかったら、澪ちゃん誘って見に来て」

「ありがとうございます」

「いつやんの?」

「7月」

「チケット、俺にはくれねぇの?」

「洋ちゃんは、上総ちゃんと来てくれるでしょ?上総ちゃんに二人分渡してあるし」

「え。聞いてねぇんだけど」

「えー。上総ちゃん、まだ誘えてなかったんだー……まぁ、気長に待ってれば?」

「はは」

「……かずさってだれ?」

「私の親友」

「へぇ」

「で、洋ちゃんの彼女」

「おい!!」


 あ、言っちゃった。

 うっかり、じゃないけど。


「洋介に彼女だってぇ!!!マジか、やべぇ。しげ兄ぃに報告しねぇと!」


 健ちゃんは謎のテンションで家の中に駆けていった。


「おい、それだけはやめろ!」


 しげ兄っていうと、洋ちゃんの上のお兄さんか。お兄さんには知られたくないってこと?


「弥生……」


 じとっとにらまれたけど、知らなーい


「本人の知らないところでっていうのは避けてあげたんだから、感謝してよねー」



 迷ってても仕方がない

 今、私がやりたいことをやろう。

 自分勝手でもいい。

 焦らないで、精一杯頑張ればいいんだ。

 全部、巡り巡って、将来につながるはずだから。



「弥生、志望校どこ書いた?あ、阪大だったっけ?」

「違うよ」

「え、じゃあ……W大とか?」

「ううん」

「違うの?えー……じゃあ、どこ?あたし知ってるところ?」

「どうかな?上総ちゃん、やよはねー……」



 十年の恋は終わっちゃったけど、次の十年を彩るのは、別に恋じゃなくてもいいよね?

 自分磨きっていうのも、悪くないと思うんだ。



「え、じゃあ弥生、引っ越しちゃうの?」

「家はそのままだよ。でも、受かれば、一人暮らしとかかなぁ」

「向こうで一人暮らしって、怖くない?」

「どこに行ったって、初めてのことは怖いと思うよ。でも、やりたいことは、やれるうちにやっとかないとね」



 適度に、適当に、がんばります!



.

時間軸としては、そのまま、5の次っていう感じですね。

なんか、ストーリーも何もないって感じがするかもしれませんが。

ひょうひょうとしているようで、彼女にも彼女なりの葛藤とか、いろいろあるんです。

それが、うまく表現できたのかはわかりませんが。


高校時代に書いた処女作は、なかなか思い出深い作品になりまして。こんな風に後日談なんか考えちゃいました。ほぼ自己満足の世界です。

でも、読んでくださった方がいてうれしかったです。

ありがとうございます。


もしかしたら、また、そのうち、彼女らのその後をUPするかもしれません。

その時は、よろしくお願いします。


最後まで目を通してくださり、ありがとうございました。

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